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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    月刊主へし2月「主命以上」その2
    主に好かれると分かっていて告白を待っている策士?な長谷部の話

    主命以上(主へし馴れ初め) いつ、その時が来てもいいように、最善の言葉を用意していたはずだった。

     へし切長谷部は人の美醜というものに興味はなかったが、自身を含め、刀剣男士というものが人間から見ればみな美しくて可愛くて良い匂いがする素敵な生き物、ということは知っていた。本にそう書いてあったので。審神者によって好みは分かれるものの、へし切長谷部という刀剣男士が比較的審神者と恋仲になりやすい類であることもまた、知っていた。本に書いてあったからだ。もちろんその事実におごることなく今日まで良き刀、良き臣下であるよう努めてきたものの、或る頃から審神者の視線がなんとなく、他のものに向けるそれと違う熱を含んでいることに気付いた時は思わずほくそ笑んだ。
     しかし、ここでこれ幸いとこちらから行動を起こしてはいけない。本に書いてあった通り、その時がきたら、ただほんの少し黙って、ひと呼吸置いた後、にっこりとほほ笑んで言えばいいのだ。『俺も、貴方のことを慕っております』と。審神者の熱い視線を感じるようになり、近侍の頻度が増え、なんとなく距離が近いな、と感じる頻度も増え、長谷部はいつでもそう答えられるよう、イメージトレーニングも欠かしていなかった。それなのに。

    「長谷部のこと、好きになっちゃったんだ」

     二人きりの執務室で、大事な話があると告げられ、襖を閉めて、向かい合って座って。ついにきたぞと思い、俺はいつでも大丈夫ですよ主! と拳を握ったものの、膝に置いたその拳にそっと手を重ねられ、見たことのないような優しい笑みを浮かべた審神者と目を合わせたら、長谷部の頭の中は真っ白になった。

    「え、あ、あの、」

     言葉に詰まり、けれど反射的に重ねられた手を握り返すと、審神者は嬉しそうに目を細める。それも初めて見る表情だった。普段なら豪快に口を開けて笑う審神者が、大所帯が集う広間でもよく通る声で話す審神者が、ただただ静かに微笑んで、囁くように続けた。

    「お前も同じ気持ちなら、俺の恋人になってほしいな」
    「へぁ……」

     最善の言葉を用意していたはずなのに、何度も練習したはずなのに、喉からは情けなく掠れた声が漏れるだけだった。それでも、どうにかごくんと生唾を飲み込んで、答えを待つように首を傾げた審神者の目を見つめ直し、やっと出たのは、用意していた言葉ではなく、言いなれたいつもの返答の方だった。

    「主命と、あらば……っ」
    「……主命?」

     しまった、と思ったものの既に遅く、審神者は顔を曇らせ、長谷部の手を離した。熱が離れ、途端に指先から冷えていく感覚があった。

    「長谷部、俺は、命令しているわけじゃないんだよ」
    「あ、主、今のは、その」
    「でも、そう思わせてしまったならごめん」
    「ちが、」
    「いいんだよ。お前が優しいから、勘違いしてたみたいだ。主命をきいてくれていただけなのに」

     ごめん、と震える声で言うと、審神者は顔を伏せてしまって、もう長谷部と視線も交わらない。その肩が震えているのが分かって、長谷部は「違うんです!」と思わず声を張った。

    「今のは、つい、癖というか、いつも言っているので口をついて出たというか、俺は、っ俺も! 主のことが好きで、主命でも、あ、いや、主命とは関係なく、それ以上に、俺は、主を好きで、好きというのは、無論、愛の方で、あ、これは本当に、主命に従っているわけではなくてですね……!」
    「ふっ、くく」
    「え」

     思いつく限りの言葉をあわあわとしながら並べていると、噴き出すような音で中断される。肩を震わせていた審神者が、ふと見れば口元を押さえているものの、ニヤニヤしているのが分かった。

    「え、え?」
    「ごめん、我慢しようと、っ思ってた、んだけど、っく、ふふ、だはははは!」

     混乱する長谷部に、審神者は我慢できないというようについに声をあげて笑い出す。笑いながら懐から出したものを見て、長谷部はぎょっとした。

    「そ、それは……!」
    「お前さあ、何を愛読してんだよ。『これで貴方も審神者と恋仲!政府特別監修刀別解説完全収録パーフェクトマニュアル』って。口に出すのも恥ずかしすぎるわ」
    「あっ、あー!」
    「個室とは言え、近侍部屋なんて俺も入る時あるのに、どうして机の上に出しっぱなしにしちゃうかなあ。言っとくけど、今に始まったことじゃないぞ」
    「かかか返して下さい!」
    「『男審神者』と『へし切長谷部』の頁に折り目ついてるし。わざとかと思ったよ。何? 童貞か非童貞かで対応を変える必要があり……く、くだらねえ」
    「わー!わー!」
    「あ、こら」

     無我夢中で本に飛びついたものの、勢いが余り過ぎた。本に手が届く前に、審神者の肩を押す形になり、慌てて勢いを殺したものの、気付けば押し倒してしまって長谷部の体の下にいる審神者が、びっくりしたように瞬きしてからまたにやにや笑いを浮かべている。

    「これもマニュアルに書いてあった? ん?」
    「……っ」

     最早何をしても墓穴だった。

    「お、俺をからかったんですね……? ひどい、さっきのも、全部…っう、うそで……」

     顔から火が出る程恥ずかしいし、泣きたい。本の存在も、読んでた頁までバレているとなれば審神者の行動にも合点がいった。
     しかし、審神者は「んん?」と不思議そうな顔をしている。

    「からかったけど、別に嘘ついたわけじゃないよ」

     よいしょ、という声と共に審神者が体を起こすと、長谷部の体もつられて押され、再び距離が近くなる。

    「従順で、真面目で、一生懸命で、なのに俺に見られちゃまずい本を置きっぱなしにしちゃうような、ちょっと抜けてる長谷部のことが大好きだし、恋人になってほしいって思ってる」
    「えっ」
    「ひどいのはお前の方だろ」
    「……え?」
    「俺の気持ち、気付いてたくせにこーんなクソ政府監修のクソマニュアル本に書いてあること鵜呑みにして焦らすんだもんなあ」
    「そ、そんな、焦らしてなど……」
    「焦らされたよ、俺は。だからさ」

     本はもう、審神者の手から離れていた。代わりに長谷部の頬に触れて、かさついた指先が優しく目尻を撫でる。

    「マニュアルも主命も関係ない、お前の言葉でもう一回、返事が聞きたいな」
    「っ、俺、は……」
    「うん」

     撫でる手も声も優しくて、また頭の中が真っ白になった。けれど、つっかえながら、掠れた声でどうにか思いの丈を告げると、審神者はやはり、嬉しそうに目を細めた。

    「知ってたよ」

     そう、囁いて、優しく笑ったのだった。



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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

    recommended works

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    PAST主肥/さにひぜ(男審神者×肥前)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    おじさん審神者がうさぎのぬいぐるみに向かって好きっていってるのを目撃した肥前
    とうとう買ってしまった。刀剣男士をイメージして作られているといううさぎのぬいぐるみの、恋仲と同じ濃茶色に鮮やかな赤色が入った毛並みのものが手の中にある。
    「ううん、この年で買うにはいささか可愛すぎるが……」
    どうして手にしたかというと、恋仲になってからきちんと好意を伝えることが気恥ずかしくておろそかになっていやしないか不安になったのだ。親子ほども年が離れて見える彼に好きだというのがどうしてもためらわれてしまって、それではいけないとその練習のために買った。
    「いつまでもうだうだしてても仕方ない」
    意を決してうさぎに向かって好きだよという傍から見れば恥ずかしい練習をしていると、がたんと背後で音がした。振り返ると目を見開いた肥前くんがいた。
    「……邪魔したな」
    「ま、待っておくれ!」
    肥前くんに見られてしまった。くるっと回れ右して去って行こうとする赤いパーカーの腕をとっさに掴んで引き寄せようとした。けれども彼の脚はその場に根が張ったようにピクリとも動かない。
    「なんだよ。人斬りの刀には飽きたんだろ。その畜生とよろしくやってれば良い」
    「うっ……いや、でもこれはちがうんだよ」
    「何が違うってん 1061

    Norskskogkatta

    PAST主こりゅ/さにこりゅ
    リクエスト企画で書いたもの
    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜
    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気が 3868

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    共寝した次の日の寒い朝のおじさま審神者と大倶利伽羅
    寒椿と紅の花
     
     ひゅるり、首元に吹き込んだ冷気にぶるりと肩が震えた。腕を伸ばすと隣にあるはずの高すぎない体温が近くにない。一気に覚醒し布団を跳ね上げると、主がすでに起き上がって障子を開けていた。
    「あぁ、起こしてしまったかな」
    「……寒い」
    「冬の景趣にしてみたのですよ」
     寝間着代わりの袖に手を隠しながら、庭を眺め始めた主の背に羽織をかける。ありがとうと言うその隣に並ぶといつの間にやら椿が庭を賑わせ、それに雪が積もっていた。
     ひやりとする空気になんとなしに息を吐くと白くなって消えていく。寒さが目に見えるようで、背中が丸くなる。
    「なぜ冬の景趣にしたんだ」
    「せっかく皆が頑張ってくれた成果ですし、やはり季節は大事にしないとと思いまして」
     でもやっぱりさむいですね、と笑いながらも腕を組んだままなのが気にくわない。遠征や内番の成果を尊重するのもいいが、それよりも気にかけるべきところはあるだろうに。
    「寒いなら変えればいいだろう」
    「寒椿、お気に召しませんでしたか?」
     なにもわかっていない主が首をかしげる。鼻も赤くなり始めているくせに自発的に変える気はないようだ。
     ひとつ大きく息 1374

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    寒くなってきたのにわざわざ主の部屋まできて布団に潜り込んできた大倶利伽羅
    秋から冬へ、熱を求めて


    ひとりで布団にくるまっていると誰かが部屋へと入ってくる。こんな時間に来るのなんて決まってる。寝たふりをしているとすぐ近くまで来た気配が止まってしまう。ここまできたんなら入ってくれば良いのに、仕方なく布団を持ちあげると潜り込んできて冷えた足をすり寄せてくる。いつも熱いくらいの足を挟んでて温めてやると、ゆっくりと身体の力が抜けていくのがわかる。じわりと同じ温度になっていく足をすり合わせながら抱きしめた。
    「……おやすみ、大倶利伽羅」
    返事は腰に回った腕だった。

    ふ、と意識が浮上する。まだ暗い。しかしからりとした喉が水を欲していた。乾燥してきたからかなと起き上がると大倶利伽羅がうっすらと目蓋を持ち上げる。戦場に身を置くからか隣で動き出すとどうしても起こしてしまう。
    「まだ暗いから寝とけ」
    「……ん、だが」
    頭を撫でれば寝ぼけ半分だったのがあっさりと夢に落ちていった。寝付きの良さにちょっと笑ってから隣の部屋へと移動して簡易的な流しの蛇口を捻る。水を適当なコップに溜めて飲むとするりと落ちていくのがわかった。
    「つめた」
    乾きはなくなったが水の冷たさに目がさえてしまっ 1160

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    徹夜してたら大倶利伽羅が部屋にきた話
    眠気覚ましの生姜葛湯


     徹夜続きでそろそろ眠気覚ましにコーヒーでもいれるかと伸びをしたのと開くはずのない障子が空いたのは同時だった。
    「まだ起きていたのか」
     こんな夜更けに現れたのは呆れたような、怒ったような顔の大倶利伽羅だった。
    「あー、はは……なんで起きてるってわかったんだ」
    「灯りが付いていれば誰だってわかる」
     我が物顔ですたすた入ってきた暗がりに紛れがちな手に湯呑みが乗った盆がある。
    「終わったのか」
    「いやまだ。飲み物でも淹れようかなって」
    「またこーひー、とか言うやつか」
     どうにも刀剣男士には馴染みがなくて受け入れられていないのか、飲もうとすると止められることが多い。
     それもこれも仕事が忙しい時や徹夜をするときに飲むのが多くなるからなのだが審神者は気づかない。
    「あれは胃が荒れるんだろ、これにしておけ」
     湯呑みを審神者の前に置いた。ほわほわと立ち上る湯気に混じってほのかな甘味とじんとする香りがする。
    「これなんだ?」
    「生姜の葛湯だ」
     これまた身体が温まりそうだ、と一口飲むとびりりとした辛味が舌をさした。
    「うお、辛い」
    「眠気覚ましだからな」
     しれっと言 764