Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 50

    いなばリチウム

    ☆quiet follow

    月刊主へし2月「主命以上」その2
    主に好かれると分かっていて告白を待っている策士?な長谷部の話

    主命以上(主へし馴れ初め) いつ、その時が来てもいいように、最善の言葉を用意していたはずだった。

     へし切長谷部は人の美醜というものに興味はなかったが、自身を含め、刀剣男士というものが人間から見ればみな美しくて可愛くて良い匂いがする素敵な生き物、ということは知っていた。本にそう書いてあったので。審神者によって好みは分かれるものの、へし切長谷部という刀剣男士が比較的審神者と恋仲になりやすい類であることもまた、知っていた。本に書いてあったからだ。もちろんその事実におごることなく今日まで良き刀、良き臣下であるよう努めてきたものの、或る頃から審神者の視線がなんとなく、他のものに向けるそれと違う熱を含んでいることに気付いた時は思わずほくそ笑んだ。
     しかし、ここでこれ幸いとこちらから行動を起こしてはいけない。本に書いてあった通り、その時がきたら、ただほんの少し黙って、ひと呼吸置いた後、にっこりとほほ笑んで言えばいいのだ。『俺も、貴方のことを慕っております』と。審神者の熱い視線を感じるようになり、近侍の頻度が増え、なんとなく距離が近いな、と感じる頻度も増え、長谷部はいつでもそう答えられるよう、イメージトレーニングも欠かしていなかった。それなのに。

    「長谷部のこと、好きになっちゃったんだ」

     二人きりの執務室で、大事な話があると告げられ、襖を閉めて、向かい合って座って。ついにきたぞと思い、俺はいつでも大丈夫ですよ主! と拳を握ったものの、膝に置いたその拳にそっと手を重ねられ、見たことのないような優しい笑みを浮かべた審神者と目を合わせたら、長谷部の頭の中は真っ白になった。

    「え、あ、あの、」

     言葉に詰まり、けれど反射的に重ねられた手を握り返すと、審神者は嬉しそうに目を細める。それも初めて見る表情だった。普段なら豪快に口を開けて笑う審神者が、大所帯が集う広間でもよく通る声で話す審神者が、ただただ静かに微笑んで、囁くように続けた。

    「お前も同じ気持ちなら、俺の恋人になってほしいな」
    「へぁ……」

     最善の言葉を用意していたはずなのに、何度も練習したはずなのに、喉からは情けなく掠れた声が漏れるだけだった。それでも、どうにかごくんと生唾を飲み込んで、答えを待つように首を傾げた審神者の目を見つめ直し、やっと出たのは、用意していた言葉ではなく、言いなれたいつもの返答の方だった。

    「主命と、あらば……っ」
    「……主命?」

     しまった、と思ったものの既に遅く、審神者は顔を曇らせ、長谷部の手を離した。熱が離れ、途端に指先から冷えていく感覚があった。

    「長谷部、俺は、命令しているわけじゃないんだよ」
    「あ、主、今のは、その」
    「でも、そう思わせてしまったならごめん」
    「ちが、」
    「いいんだよ。お前が優しいから、勘違いしてたみたいだ。主命をきいてくれていただけなのに」

     ごめん、と震える声で言うと、審神者は顔を伏せてしまって、もう長谷部と視線も交わらない。その肩が震えているのが分かって、長谷部は「違うんです!」と思わず声を張った。

    「今のは、つい、癖というか、いつも言っているので口をついて出たというか、俺は、っ俺も! 主のことが好きで、主命でも、あ、いや、主命とは関係なく、それ以上に、俺は、主を好きで、好きというのは、無論、愛の方で、あ、これは本当に、主命に従っているわけではなくてですね……!」
    「ふっ、くく」
    「え」

     思いつく限りの言葉をあわあわとしながら並べていると、噴き出すような音で中断される。肩を震わせていた審神者が、ふと見れば口元を押さえているものの、ニヤニヤしているのが分かった。

    「え、え?」
    「ごめん、我慢しようと、っ思ってた、んだけど、っく、ふふ、だはははは!」

     混乱する長谷部に、審神者は我慢できないというようについに声をあげて笑い出す。笑いながら懐から出したものを見て、長谷部はぎょっとした。

    「そ、それは……!」
    「お前さあ、何を愛読してんだよ。『これで貴方も審神者と恋仲!政府特別監修刀別解説完全収録パーフェクトマニュアル』って。口に出すのも恥ずかしすぎるわ」
    「あっ、あー!」
    「個室とは言え、近侍部屋なんて俺も入る時あるのに、どうして机の上に出しっぱなしにしちゃうかなあ。言っとくけど、今に始まったことじゃないぞ」
    「かかか返して下さい!」
    「『男審神者』と『へし切長谷部』の頁に折り目ついてるし。わざとかと思ったよ。何? 童貞か非童貞かで対応を変える必要があり……く、くだらねえ」
    「わー!わー!」
    「あ、こら」

     無我夢中で本に飛びついたものの、勢いが余り過ぎた。本に手が届く前に、審神者の肩を押す形になり、慌てて勢いを殺したものの、気付けば押し倒してしまって長谷部の体の下にいる審神者が、びっくりしたように瞬きしてからまたにやにや笑いを浮かべている。

    「これもマニュアルに書いてあった? ん?」
    「……っ」

     最早何をしても墓穴だった。

    「お、俺をからかったんですね……? ひどい、さっきのも、全部…っう、うそで……」

     顔から火が出る程恥ずかしいし、泣きたい。本の存在も、読んでた頁までバレているとなれば審神者の行動にも合点がいった。
     しかし、審神者は「んん?」と不思議そうな顔をしている。

    「からかったけど、別に嘘ついたわけじゃないよ」

     よいしょ、という声と共に審神者が体を起こすと、長谷部の体もつられて押され、再び距離が近くなる。

    「従順で、真面目で、一生懸命で、なのに俺に見られちゃまずい本を置きっぱなしにしちゃうような、ちょっと抜けてる長谷部のことが大好きだし、恋人になってほしいって思ってる」
    「えっ」
    「ひどいのはお前の方だろ」
    「……え?」
    「俺の気持ち、気付いてたくせにこーんなクソ政府監修のクソマニュアル本に書いてあること鵜呑みにして焦らすんだもんなあ」
    「そ、そんな、焦らしてなど……」
    「焦らされたよ、俺は。だからさ」

     本はもう、審神者の手から離れていた。代わりに長谷部の頬に触れて、かさついた指先が優しく目尻を撫でる。

    「マニュアルも主命も関係ない、お前の言葉でもう一回、返事が聞きたいな」
    「っ、俺、は……」
    「うん」

     撫でる手も声も優しくて、また頭の中が真っ白になった。けれど、つっかえながら、掠れた声でどうにか思いの丈を告げると、審神者はやはり、嬉しそうに目を細めた。

    「知ってたよ」

     そう、囁いて、優しく笑ったのだった。



    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤❤❤😍💞💞💞💞㊗🎉💕💜💜❤❤☺🙏👏❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

    recommended works

    Norskskogkatta

    PAST主くり編/近侍のおしごと
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    主の部屋に茶色いうさぎが居座るようになった。
    「なんだこれは」
    「うさぎのぬいぐるみだって」
    「なんでここにある」
    「いや、大倶利伽羅のもあるっていうからつい買っちゃった」
    照れくさそうに頬をかく主はまたうさぎに視線を落とした。その視線が、表情が、それに向けられるのが腹立たしい。
    「やっぱ変かな」
    変とかそういう問題ではない。ここは審神者の部屋ではなく主の私室。俺以外はほとんど入ることのない部屋で、俺がいない時にもこいつは主のそばにいることになる。
    そして、俺の以内間に愛おしげな顔をただの綿がはいった動きもしない、しゃべれもしない相手に向けているのかと考えると腹の奥がごうごうと燃えさかる気分だった。
    奥歯からぎり、と音がなって気づけばうさぎをひっ掴んで投げようとしていた。
    「こら! ものは大事に扱いなさい」
    「あんたは俺を蔑ろにするのにか!」
    あんたがそれを言うのかとそのまま問い詰めたかった。けれどこれ以上なにか不興をかって遠ざけられるのは嫌で唇を噛む。
    ぽかんと間抜けな表情をする主にやり場のない衝動が綿を握りしめさせた。
    俺が必要以上な会話を好まないのは主も知っているし無理に話そうと 1308

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    鍛刀下手な審神者が戦力増強のために二振り目の大倶利伽羅を顕現してからはじまる主をめぐる極と特の大倶利伽羅サンド
    大倶利伽羅さんどいっち?!


     どうもこんにちは!しがないいっぱしの審神者です!といっても霊力はよく言って中の下くらいで諸先輩方に追いつけるようにひたすら地道に頑張る毎日だ。こんな頼りがいのない自分だが自慢できることがひとつだけある。
     それは大倶利伽羅が恋びとだと言うこと!めっちゃ可愛い!
     最初はなれ合うつもりはないとか命令には及ばないとか言ってて何だこいつとっつきにくい!と思っていったのにいつしか目で追うようになっていた。
     観察していれば目つきは鋭い割に本丸内では穏やかな顔つきだし、内番とかは文句を言いながらもしっかり終わらせる。なにより伊達組と呼ばれる顔見知りの刀たちに構われまくっていることから根がとてもいい奴だってことはすぐわかった。第一印象が悪いだけで大分損しているんじゃないかな。
     好きだなって自覚してからはひたすら押した。押しまくって避けられるなんて失敗をしながらなんとか晴れて恋仲になれた。
    それからずいぶんたつけど日に日に可愛いという感情があふれてとまらない。
     そんな日々のなかで大倶利伽羅は修行に出てさらに強く格好良くなって帰ってきた。何より審神者であるオレに信 4684

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    リクエスト企画で書いたもの
    ちいさい主に気に入られてなんだかんだいいながら面倒を見てたら、成長後押せ押せでくる主にたじたじになる大倶利伽羅
    とたとたとた、と軽い足音に微睡んでいた意識が浮上する。これから来るであろう小さな嵐を思って知らずため息が出た。
    枕がわりにしていた座布団から頭を持ち上げたのと勢いよく部屋の障子が開け放たれたのはほぼ同時で逃げ遅れたと悟ったときには腹部に衝撃が加わっていた。
    「から! りゅうみせて!」
    腹に乗り上げながらまあるい瞳を輝かせる男の子どもがこの本丸の審神者だ。
    「まず降りろ」
    「はーい」
    咎めるように低い声を出しても軽く調子で返事が返ってきた。
    狛犬のように行儀よく座った審神者に耳と尻尾の幻覚を見ながら身体を起こす。
    「勉強は終わったのか」
    「おわった! くにがからのところ行っていいっていった!」
    くにと言うのは初期刀の山姥切で、主の教育もしている。午前中は勉強の時間で午後からが審神者の仕事をするというのがこの本丸のあり方だった。
    この本丸に顕現してから何故だか懐かれ、暇があれば雛のように後を追われ、馴れ合うつもりはないと突き離してもうん!と元気よく返事をするだけでどこまでもついて来る。
    最初は隠れたりもしてみたが短刀かと言いたくなるほどの偵察であっさり見つかるのでただの徒労だった。
    大人し 1811

    Norskskogkatta

    PASTさに(→)←ちょも
    山鳥毛のピアスに目が行く審神者
    最近どうも気になることがある。気になることは突き詰めておきたい性分故か、見入ってしまっていた。
    「どうした、小鳥」
     一文字一家の長であるというこの刀は、顕現したばかりだが近侍としての能力全般に長けており気づけば持ち回りだった近侍の任が固定になった。
     一日の大半を一緒に過ごすようになって、つい目を引かれてしまうようになったのはいつからだったか。特に隠すことでもないので、問いかけに応えることにした。
    「ピアスが気になって」
    「この巣には装飾品を身につけているものは少なくないと思うが」
     言われてみれば確かにと気づく。80振りを越えた本丸内では趣向を凝らした戦装束をまとって顕現される。その中には当然のように現代の装飾品を身につけている刀もいて、大分親しみやすい形でいるのだなと妙に感心した記憶がある。たまにやれ片方落としただの金具が壊れただのというちょっとした騒動が起こることがあるのだが、それはまあおいておく。
     さて、ではなぜ山鳥毛にかぎってやたらと気になるのかと首を傾げていると、ずいと身を乗り出し耳元でささやかれた。
    「小鳥は私のことが気になっているのかな?」
    「あー……?」
    ちょっと 1374

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    おじさま審神者と猫耳尻尾が生えた大倶利伽羅のいちゃいちゃ
    猫の日にかいたもの
    大倶利伽羅が猫になった。
    完璧な猫ではなく、耳と尾だけを後付けしたような姿である。朝一番にその姿を見た審神者は不覚にも可愛らしいと思ってしまったのだった。

    一日も終わり、ようやっと二人の時間となった審神者の寝室。
    むっすりと感情をあらわにしているのが珍しい。苛立たしげにシーツをたたきつける濃い毛色の尾がさらに彼の不機嫌さを示しているが、どうにも異常事態だというのに微笑ましく思ってしまう。

    「……おい、いつまで笑ってる」
    「わらってないですよ」

    じろりと刺すような視線が飛んできて、あわてて体の前で手を振ってみるがどうだか、と吐き捨てられてそっぽを向かれてしまった。これは本格的に臍を曲げられてしまう前に対処をしなければならないな、と審神者は眉を下げた。
    といっても、不具合を報告した政府からは、毎年この日によくあるバグだからと真面目に取り合ってはもらえなかった。回答としては次の日になれば自然と治っているというなんとも根拠のないもので、不安になった審神者は手当たり次第に連絡の付く仲間達に聞いてみた。しかし彼ら、彼女らからの返事も政府からの回答と似たり寄ったりで心配するほどではないと言われ 2216

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    梅雨の紫陽花を見に庭へ出たら大倶利伽羅と会っていつになったらふたりでいられるのかと呟かれる話
    青紫陽花


    長雨続きだった本丸に晴れ間がのぞいた。気分転換に散歩でもしてきたらどうだろうと近侍の蜂須賀に言われて久しぶりに外に出る、と言っても本丸の庭だ。
    朝方まで降っていた雨で濡れた玉砂利の小道を歩く。庭のあちらこちらに青紫色や赤色、たまに白色の紫陽花が鞠のように咲き誇っている。
    じゃりじゃりと音を鳴らしながら右へ左へと視線を揺らして気の向くまま歩いて行く。広大な敷地の本丸の庭はすべて散策するのはきっと半日ぐらいはかかるのだろう。それが端末のタップひとつでこうも見事に変わるのだから科学の進歩は目覚ましいものだ。
    「それにしても見事に咲いてるな。お、カタツムリ」
    大きく咲いた青紫の紫陽花のすぐ隣の葉にのったりと落ち着いている久しく見なかった姿に、梅雨を実感する。角を出しながらゆったり進む蝸牛を観察していると、その葉の先端が弾かれたように跳ねた。
    「……うわ、降ってきた」
    首の裏にもぽつんと落ちてきて反射的に空を仰げば、薄曇りでとどまっていたのが一段色を濃くしていた。ここから本丸に戻ろうにもかなり奥まで来てしまった。たどり着くまでに本格的に降り出してきそうな勢いで頭に落ちる雫の勢いは増 3034

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    重陽の節句に菊酒を作る大倶利伽羅と、それがうれしくて酔い潰れる主
    前半は主視点、後半は大倶利伽羅視点です
    『あなたの健康を願います』

    隣で動く気配がして意識が浮上する。布団の中で体温を探すも見つからない。眠い目蓋を持ち上げると腕の中にいたはずの大倶利伽羅がいなくなっていた。
    「……起こしたか」
    「どうした、厠か……」
    「違う、あんたは寝てろ。まだ夜半を過ぎたばかりだ」
    目を擦りながら起き上がると大倶利伽羅は立ち上がって部屋を出て行こうとする。
    なんだか置いていかれるようで咄嗟に追いかけてしまった。大倶利伽羅からは胡乱な目で見られてしまったが水が飲みたいと誤魔化しておいた。
    ひたひたと廊下を進むと着いた先は厨だった。
    「なんだ、水飲みに来たのか」
    「それも違う」
    なら腹でも空いたのだろうか。他と比べると細く見えても戦うための身体をしているのでわりと食べるしなとぼんやりしているとどこから取り出したのかざるの上に黄色い花が山をなしていた。
    「どうしたんだそれ」
    「菊の花だ」
    それはわかる。こんな夜更けに厨で菊の花を用意することに疑問符を浮かべていると透明なガラス瓶を取り出してそこに洗った菊の花を詰めはじめた。さらに首を捻っていると日本酒を取り出し注いでいく。透明な瓶の中に黄色い花が浮かんで綺麗 3117

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    菊酒をのんで酔い潰れた後日、大倶利伽羅が好きだなぁと自覚しなおした審神者と日を改めて飲み直し、仲良し()するまで。
    月色、金色、蜂蜜色


    急に熱さが和らいで、秋らしい涼やかな風が吹く。
    空には満月が浮かんで明るい夜だ。
    今は大倶利伽羅とふたり、自室の縁側で並んで酒をちびちびとなめている。徳利は一本しか用意しなかった。
    「あまり飲みすぎるなよ」
    「わかってるよ、昨日は運ばせて悪かったって」
    「あんたひとりを運ぶのは何でもないし、謝られるいわれもない」
    「じゃあなんだよ……」
    「昨日は生殺しだったんでね」
    言葉終わりに煽った酒を吹き出すかと思った。大倶利伽羅は気を付けろなんて言いながら徳利の酒を注いでくる。それを奪い取って大倶利伽羅の空いた杯にも酒を満たす。
    「……だから今日誘ったんだ」
    「しってる」
    静かな返答に頭をかいた。顔が熱い。
    以前に忙しいからと大倶利伽羅が望むのを遮って喧嘩紛いのことをした。それから時間が取れるようになったらと約束もしたがなかなか忙しが緩まずに秋になってしまった。
    だいぶ待たせてしまったとは思う。俺だってその間なにも感じなかったわけじゃないが、無理くり休暇を捻じ込むのも身体目的みたいで躊躇われた。
    そして昨日の、重陽の節句にと大倶利伽羅が作ってくれた酒が嬉しくて酔い潰れてし 1657