答え合わせ さにみかになるまでと主清のはじまり だってさあ……悩みがあるのか、って聞かれて、実は欲求不満で、とか言えないでしょ、自分の刀に。完全にセクハラだもんな。
「よっきゅうふまん……?」
俺の体を跨ぐ形で覆い被さっている清光は、俺の言葉を繰り返して、ぱち、ぱち、と瞬きをした。かわいい。きょとんとしている。
俺は簡単に説明した。清光に何度も心配されて、まずいな、とは思っていたこと。目を見たら本音を吐きそうで、ふたりきりになるのを避けていたこと。鏡を見れば、自分が思っている以上に陰鬱な顔をしていて、けれど解決策がないまま数ヶ月を過ごしていたこと。審神者になる前は恋人みたいなセフレみたいな存在が常に3~6人はいたんだけど全員にフラれて、まあなんとかなるっしょ、と思ったものの自分が思っていた以上になんともならないくらい、人肌が恋しくなってしまったこと。刀達のことはうっかり口説きそうになるくらい好きなこと。でも臣下に、それもかみさまに手を出すのはさすがにセクハラだし不敬っぽくない? まずくない? と思っていたこと。
そんな時に、三日月宗近と話したこと。
『まずい? 何がだ?』
夜更け、ちょっと部屋で一休みしないか、菓子もあるぞと誘われて、かれは比較的最近この本丸に来たし、交流がてら、と思って誘いに乗った。顔色が悪い、何か我らに至らぬことがあるか、と聞かれ、俺はその三日月の瞳に真っ直ぐ見つめられ、つい、悩みを零してしまった。しまった、セクハラだ、と思ったものの、三日月は心底不思議そうに首をかしげ、第一声がそれだった。
『何が、って、まずい、でしょ。いくら人の姿で、俺に従ってくれてても、かみさまだし、不敬っていうか』
『誰かが、主にそう言ったか?』
『言って……ないけど。でも線引きはした方がいいって、政府側はそう思ってるんじゃないかな』
『俺は思っていないぞ』
『うん……うん?』
『あるじ』
星一つない、澄んだ夜空に浮かんだ三日月のような瞳が、俺を見つめていた。
『俺たちを好いているか』
『もちろん』
『好いたものに、主はどうしたい?』
尋ねながら、三日月が両手を広げる。目を細めて、柔らかく微笑んでいる。もう、その時点で俺は、ゆるされた気がした。言っていい、してもいい、それを、口に出してもいい、と。ちゃんとしなきゃと思っていた。でも、何のために。誰のために?
『俺、は、』
手を伸ばし、そっと指先に触れると、三日月は指を絡め、ぎゅうと握ってくれた。
『触りたいし、好きって言いたいし、抱きしめたいって、思うよ。もしも、相手も俺のことを好きだと思ってくれるなら、だけど』
『うむ』
三日月は満足そうに笑い、握った手ごと俺を抱き寄せた。石鹸の香りがふわりと鼻をくすぐる。
『では主、それを全部、俺にしてくれるか?』
『そ、れって、んむ』
ちゅ、と軽い音を立てて、唇を吸われる。反射的に唇を押しつけ返して、あとはもう、何も考えなかった。
***
「え、そんな感じで、三日月のこと抱いたの?」
「うん」
「……はあー……」
ざっくりかいつまんで話しただけではあるけど、清光は大きな溜息をついたので、俺は少し不安になる。俺のこと好きでいてくれるなら、誤解を解いてから、と思ったものの、それはそれとして俺の素行は褒められたものじゃないんだった。
「えっと、だからね、そもそも俺が三日月に片思いしていたとかでは全然なくて、あ、もちろん皆のこと好きではあるんだけど」
そっと、俺の上に跨がったままの清光の手をとる。一瞬びくりと指先が震えたものの、払いのけられはしなかった。部屋は暗いけど、今日も綺麗な爪なのは分かる。
「清光のことが好きだよ」
「……っ」
「近侍の時に、爪を塗り直してるよね」
「知ってたんだ? なんで言ってくれなかったの」
「気付きすぎてきもいって言われたことがあって……あと、言ったら口説きたくなっちゃうし」
「何それ」
ふ、と清光が笑った。少し表情がほぐれたのが分かって、俺はほっとする。
「俺といるときに気合い入れてくれてるんだなあって思って、うれしかった。俺のこと気にかけてくれて、心配してくれたのも、申し訳なかったけど、うれしかったし、清光のそういうところが好きだなって、思ったよ。でも、俺が勝手に清光のことを好きになっただけだから、他の子のことも好きだし抱いちゃった俺のこと、清光がいやだったら仕方ないかなとも思ってる」
「……今更、それ言う?」
あるじ、と清光がぐいと顔を寄せてくる。
「俺、夜這いしちゃうくらい、主のことが好きなんだけど」
「いや、でも、幻滅したかなって……」
「……意味わかんないけど、別に、幻滅はしてない。俺の葛藤とか悩んだのはなんだったんだろー、とは思ってるけど」
「じゃあ、えっと、あとは他の人抱いた後に抱かれるの、いやじゃない? 一途じゃないと、とか」
「そんなこと言ったら、主、俺のこと抱いてくれないんでしょ。だったら、もうその話おわり」
「ん、」
鼻先が触れるか触れないかの距離だったので、清光が身を乗り出すとすぐに唇が触れあった。軽く触れるだけで、すぐ顔を離した清光はまだ拗ねたみたいな顔をしている。
「自分でしておいて、顔真っ赤だよ」
「し、仕方ないじゃん! 初めてなんだから……」
「……初めてかあ、だったら」
そろそろ、おとなしくしているのも限界だった。清光の体をそっと押し、布団の上に倒す。
「うんと、やさしくしないとな」
「……ん」
何の抵抗もせず布団に横たわった清光が、両手をこちらに差し伸べたので、今度は俺が覆い被さるように体を屈め、今度は長く、深い口づけを落とした。
***