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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    複数の刀に手を出すタイプのクズ審神者の始まり2
    さにみか要素がほんの少しある主清です。

    答え合わせ さにみかになるまでと主清のはじまり だってさあ……悩みがあるのか、って聞かれて、実は欲求不満で、とか言えないでしょ、自分の刀に。完全にセクハラだもんな。
    「よっきゅうふまん……?」
     俺の体を跨ぐ形で覆い被さっている清光は、俺の言葉を繰り返して、ぱち、ぱち、と瞬きをした。かわいい。きょとんとしている。
     俺は簡単に説明した。清光に何度も心配されて、まずいな、とは思っていたこと。目を見たら本音を吐きそうで、ふたりきりになるのを避けていたこと。鏡を見れば、自分が思っている以上に陰鬱な顔をしていて、けれど解決策がないまま数ヶ月を過ごしていたこと。審神者になる前は恋人みたいなセフレみたいな存在が常に3~6人はいたんだけど全員にフラれて、まあなんとかなるっしょ、と思ったものの自分が思っていた以上になんともならないくらい、人肌が恋しくなってしまったこと。刀達のことはうっかり口説きそうになるくらい好きなこと。でも臣下に、それもかみさまに手を出すのはさすがにセクハラだし不敬っぽくない? まずくない? と思っていたこと。

     そんな時に、三日月宗近と話したこと。

    『まずい? 何がだ?』
     夜更け、ちょっと部屋で一休みしないか、菓子もあるぞと誘われて、かれは比較的最近この本丸に来たし、交流がてら、と思って誘いに乗った。顔色が悪い、何か我らに至らぬことがあるか、と聞かれ、俺はその三日月の瞳に真っ直ぐ見つめられ、つい、悩みを零してしまった。しまった、セクハラだ、と思ったものの、三日月は心底不思議そうに首をかしげ、第一声がそれだった。
    『何が、って、まずい、でしょ。いくら人の姿で、俺に従ってくれてても、かみさまだし、不敬っていうか』
    『誰かが、主にそう言ったか?』
    『言って……ないけど。でも線引きはした方がいいって、政府側はそう思ってるんじゃないかな』
    『俺は思っていないぞ』
    『うん……うん?』
    『あるじ』
     星一つない、澄んだ夜空に浮かんだ三日月のような瞳が、俺を見つめていた。
    『俺たちを好いているか』
    『もちろん』
    『好いたものに、主はどうしたい?』
     尋ねながら、三日月が両手を広げる。目を細めて、柔らかく微笑んでいる。もう、その時点で俺は、ゆるされた気がした。言っていい、してもいい、それを、口に出してもいい、と。ちゃんとしなきゃと思っていた。でも、何のために。誰のために?
    『俺、は、』
     手を伸ばし、そっと指先に触れると、三日月は指を絡め、ぎゅうと握ってくれた。
    『触りたいし、好きって言いたいし、抱きしめたいって、思うよ。もしも、相手も俺のことを好きだと思ってくれるなら、だけど』
    『うむ』
     三日月は満足そうに笑い、握った手ごと俺を抱き寄せた。石鹸の香りがふわりと鼻をくすぐる。
    『では主、それを全部、俺にしてくれるか?』
    『そ、れって、んむ』
     ちゅ、と軽い音を立てて、唇を吸われる。反射的に唇を押しつけ返して、あとはもう、何も考えなかった。


    ***



    「え、そんな感じで、三日月のこと抱いたの?」
    「うん」
    「……はあー……」
     ざっくりかいつまんで話しただけではあるけど、清光は大きな溜息をついたので、俺は少し不安になる。俺のこと好きでいてくれるなら、誤解を解いてから、と思ったものの、それはそれとして俺の素行は褒められたものじゃないんだった。
    「えっと、だからね、そもそも俺が三日月に片思いしていたとかでは全然なくて、あ、もちろん皆のこと好きではあるんだけど」
     そっと、俺の上に跨がったままの清光の手をとる。一瞬びくりと指先が震えたものの、払いのけられはしなかった。部屋は暗いけど、今日も綺麗な爪なのは分かる。
    「清光のことが好きだよ」
    「……っ」
    「近侍の時に、爪を塗り直してるよね」
    「知ってたんだ? なんで言ってくれなかったの」
    「気付きすぎてきもいって言われたことがあって……あと、言ったら口説きたくなっちゃうし」
    「何それ」
     ふ、と清光が笑った。少し表情がほぐれたのが分かって、俺はほっとする。
    「俺といるときに気合い入れてくれてるんだなあって思って、うれしかった。俺のこと気にかけてくれて、心配してくれたのも、申し訳なかったけど、うれしかったし、清光のそういうところが好きだなって、思ったよ。でも、俺が勝手に清光のことを好きになっただけだから、他の子のことも好きだし抱いちゃった俺のこと、清光がいやだったら仕方ないかなとも思ってる」
    「……今更、それ言う?」
     あるじ、と清光がぐいと顔を寄せてくる。
    「俺、夜這いしちゃうくらい、主のことが好きなんだけど」
    「いや、でも、幻滅したかなって……」
    「……意味わかんないけど、別に、幻滅はしてない。俺の葛藤とか悩んだのはなんだったんだろー、とは思ってるけど」
    「じゃあ、えっと、あとは他の人抱いた後に抱かれるの、いやじゃない? 一途じゃないと、とか」
    「そんなこと言ったら、主、俺のこと抱いてくれないんでしょ。だったら、もうその話おわり」
    「ん、」
     鼻先が触れるか触れないかの距離だったので、清光が身を乗り出すとすぐに唇が触れあった。軽く触れるだけで、すぐ顔を離した清光はまだ拗ねたみたいな顔をしている。
    「自分でしておいて、顔真っ赤だよ」
    「し、仕方ないじゃん! 初めてなんだから……」
    「……初めてかあ、だったら」
     そろそろ、おとなしくしているのも限界だった。清光の体をそっと押し、布団の上に倒す。
    「うんと、やさしくしないとな」
    「……ん」
     何の抵抗もせず布団に横たわった清光が、両手をこちらに差し伸べたので、今度は俺が覆い被さるように体を屈め、今度は長く、深い口づけを落とした。


    ***

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    いなばリチウム

    DOODLE複数の刀に手を出すタイプのクズ審神者の始まり3
    がっつり主清初夜 多分初夜
    主清初夜R18***


    「ん、んぅ、ん……っ!」
     俺がしたのとは違う、唇を合わせるだけじゃなくて、舌がねじこまれて、絡み合って、吸われる、そんな口づけだった。舌先を吸われる度、じゅる、くちゅ、といやらしい音が頭の中に直接響いて、ぼぅっとしてしまう。それだけでもういっぱいいっぱいなのに、主の手が俺の耳朶を撫でて、くにくにと触るものだから、そんなつもりないのに腰が浮いてしまう。
    「っあ、ん……やだ、それ……っ」
    「ふふ、耳よわいんだね」
     口づけの合間に、主が声を立てて笑う。顔が離れたと思ったら、今度は耳に舌がぬるりと這わされて、ぞくぞくした。
    「ひぁ……っ」
     耳の穴に舌を入れられて、舐られる。舌と唾液の音が直接聞こえてきて、舐められていない方の耳も指でいじられるからたまったもんじゃない。ぐちゅぐちゅ聞こえる音が俺の頭の中を搔き乱す。ついさっきまで俺が主を組み敷いていたのに、今はもう完全に逆転していた。暴れそうになる足は主が太股の間に体を押し込んできてもう動かせない。膝頭が足の間に入り込んできて、ぐりぐりと押される。
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    いなばリチウム

    DOODLE複数の刀に手を出すタイプのクズ審神者の始まり2
    さにみか要素がほんの少しある主清です。
    答え合わせ さにみかになるまでと主清のはじまり だってさあ……悩みがあるのか、って聞かれて、実は欲求不満で、とか言えないでしょ、自分の刀に。完全にセクハラだもんな。
    「よっきゅうふまん……?」
     俺の体を跨ぐ形で覆い被さっている清光は、俺の言葉を繰り返して、ぱち、ぱち、と瞬きをした。かわいい。きょとんとしている。
     俺は簡単に説明した。清光に何度も心配されて、まずいな、とは思っていたこと。目を見たら本音を吐きそうで、ふたりきりになるのを避けていたこと。鏡を見れば、自分が思っている以上に陰鬱な顔をしていて、けれど解決策がないまま数ヶ月を過ごしていたこと。審神者になる前は恋人みたいなセフレみたいな存在が常に3~6人はいたんだけど全員にフラれて、まあなんとかなるっしょ、と思ったものの自分が思っていた以上になんともならないくらい、人肌が恋しくなってしまったこと。刀達のことはうっかり口説きそうになるくらい好きなこと。でも臣下に、それもかみさまに手を出すのはさすがにセクハラだし不敬っぽくない? まずくない? と思っていたこと。
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    いなばリチウム

    DOODLE複数の刀に手を出すタイプのクズ審神者の始まり1.5
    さにみか要素がほんの少しある主清です。
    一個前の答え合わせだけど審神者メインで他の本丸の審神者との交流とかなので読み飛ばしてもいいやつです
    答え合わせ 審神者くわしくサイド 一応ね、俺も、俺がちょっとおかしいってことは分かってるんだけどね。おかしい、って分かった上で、今、ここにいる。

     審神者になる前、俺は常に最低3人、多くて6人、恋人ないしセフレがいた。
     昔から、俺はどうにも”重い”らしく、恋人が出来ても大体一ヶ月くらいでフラれるばかりだった。俺は毎日好きって言いたいし毎日キスしたいし毎日くっついていたいし毎日好きな子を抱きたいのに、それがだめらしい。体目当てみたいでいやだ、と言われたので、昼間のデートもみっちりプランを立てて楽しく過ごしてみたものの、大学に通いながらデートしてその上で夜は夜でセックスするの体力やばすぎるむり、って言われてフラれる。メンヘラも俺と付き合うと根負けするレベル、って大学の頃噂されたっけ……。非常に遺憾だった。なんでだ。幸い、縁があってフラれてもまた別の子と付き合えることが多かったけど、そんなことが続いたので遊び人と認定されちゃうし……。
    3828

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    DONE男審神者×五月雨江(主さみ)の12/24
    つきあってる設定の主さみ クリスマスに現世出張が入った話 なんということもない全年齢
    「冬の季語ですね」
    「あっ、知ってるんだね」
    「はい、歳時記に記載がありましたので。もっとも、実際にこの目で見たことはありませんが」
    「そうだよね、日本で広まったのは二十世紀になったころだし」
     さすがに刀剣男士にとってはなじみのない行事らしい。本丸でも特にその日を祝う習慣はないから、何をするかもよくは知らないだろう。
     これならば、あいにくの日取りを気にすることなくイレギュラーな仕事を頼めそうだ。
    「えぇとね、五月雨くん。実はその24日と25日なんだけど、ちょっと泊まりがけで政府に顔を出さないといけなくなってしまったんだ。近侍のあなたにも、いっしょに来てもらうことになるのだけど」
     なぜこんな日に本丸を離れる用事が入るのかとこんのすけに文句を言ってみたものの、12月も下旬となれば年越しも間近、月末と年末が重なって忙しくなるのはしょうがないと押し切られてしまった。
     この日程で出張が入って、しかも現地に同行してくれだなんて、人間の恋びとが相手なら申し訳なくてとても切り出せないところなのだが。
    「わかりました。お上の御用となると、宿もあちらで手配されているのでしょうね」
     現代のイベント 1136

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    PAST主くり編/支部連載シリーズのふたり
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    審神者視点で自己完結しようとする大倶利伽羅が可愛くて仕方ない話
    刺し違えんとばかりに本性と違わぬ鋭い視線で可愛らしいうさぎのぬいぐるみを睨みつけるのは側からみれば仇を目の前にした復讐者のようだと思った。
    ちょっとしたいたずら心でうさぎにキスするフリをすると一気に腹を立てた大倶利伽羅にむしりとられてしまった。
    「あんたは!」
    激昂してなにかを言いかけた大倶利伽羅はしかしそれ以上続けることはなく、押し黙ってしまう。
    それからじわ、と金色が滲んできて、嗚呼やっぱりと笑ってしまう。
    「なにがおかしい……いや、おかしいんだろうな、刀があんたが愛でようとしている物に突っかかるのは」
    またそうやって自己完結しようとする。
    手を引っ張って引き倒しても大倶利伽羅はまだうさぎを握りしめている。
    ゆらゆら揺れながら細く睨みつけてくる金色がたまらない。どれだけ俺のことが好きなんだと衝動のまま覆いかぶさって唇を押し付けても引きむすんだまま頑なだ。畳に押し付けた手でうさぎを掴んだままの大倶利伽羅の手首を引っ掻く。
    「ぅんっ! ん、んっ、ふ、ぅ…っ」
    小さく跳ねて力の抜けたところにうさぎと大倶利伽羅の手のひらの間に滑り込ませて指を絡めて握りしめる。
    それでもまだ唇は閉じたままだ 639

    Norskskogkatta

    PAST主こりゅ/さにこりゅ
    リクエスト企画で書いたもの
    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜
    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気が 3868

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    小腹が空いて厨に行ったらひとり夏蜜柑を剥いていた大倶利伽羅に出くわす話
    夏蜜柑を齧る

     まだ日が傾いて西日にもならない頃、午後の休憩にと厨に行ったら大倶利伽羅がいた。
     手のひらに美味しそうな黄色を乗せて包丁を握っている。
    「お、美味そうだな」
    「買った」
     そういえば先程唐突に万屋へ行ってくると言い出して出かけて行ったのだったか。
     スラックスにシャツ、腰布だけの格好で手袋を外している。学ランによく似た上着は作業台の側の椅子に引っ掛けられていた。
     内番着の時はそもそもしていないから物珍しいというわけでもないのだが、褐色の肌に溌剌とした柑橘の黄色が、なんだか夏の到来を知らせているような気がした。
     大倶利伽羅は皮に切り込みを入れて厚みのある外皮をばりばりとはいでいく。真っ白なワタのような塊になったそれを一房むしって薄皮を剥き始めた。
     黙々と作業するのを横目で見ながら麦茶を注いだグラスからひと口飲む。冷たい液体が喉から腹へ落ちていく感覚に、小腹が空いたなと考える。
     その間も手に汁が滴っているのに嫌な顔ひとつせずばりばりと剥いていく。何かつまめるものでも探せばいいのになんとなく眺めてしまう。
     涼やかな硝子の器につやりとした剥き身がひとつふたつと増えて 1669

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    花火景趣出たときにハイになってかいた。
    花火見ながら軽装姿の嫁といちゃつくだけ
    いつもの執務室とは違う、高い場所から夜空を見上げる。
    遠くでひゅるる、と音がしたあと心臓を叩かれたような衝撃とともに豪快な花が咲く。
    真っ暗だった部屋が花の明かりで色とりどりに輝く。それはとても一瞬でまた暗闇に戻るがまたひゅるる、と花の芽が音をなし、どんと花開く。
    「おお、綺麗だな」
    「悪くない」
    隣で一緒に胡座をかく大倶利伽羅は軽装だ。特に指定はしていなかったのだが、今夜一緒にどうだと言ったら渡したとき以来見ていなかったそれを着て来てくれた。
    普段の穏やかな表情がことさら緩んでいるようにも見える。
    横顔を眺めているとまたひゅる、どんと花の咲く音ときらきらと色があたりを染めては消える。
    大倶利伽羅の金色がそれを反射して瞳の中にも咲いたように見える。ああ。
    「綺麗だな」
    「そうだな、見事だ」
    夜空に視線を向けたままの大倶利伽羅がゆるりと口角を上げた。それもあるんだが、俺の心の中を占めたのは花火ではないんだけどな。
    「大倶利伽羅」
    「なんだ」
    呼び掛ければすっとこちらを見てくれる。
    ぶっきらぼうに聞こえる言葉よりも瞳のほうが雄弁だと気づいたのは付き合い始めてからだったかなと懐かしみながら、 843

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    冬至の日に書いた
    いっしょにゆず湯に入るだけの話
    冬至の柚子湯


    一年で一番日が短い日、普段は刀剣男士たちが使っている大浴場に来た。仕事を片付けてからきたから誰もいない。
    服を脱いで適当に畳んでから、旅館のような脱衣籠に置いておく。磨りガラスのはめ込んである木枠の戸を横にひけばふわりと柔らかい湯気があたり、それにつられて奥を見てみれば大きな檜風呂には黄色くて丸いものが浮かんでいた。
    普段は審神者の部屋に備えてある個人用の風呂を使っているのだが、近侍から今日の大浴場は柚子湯にするから是非入ってくれと言われたのだ。冬至に柚子湯という刀剣男士たちが心を砕いてくれた証に彼らの思いに応えられるような審神者になろうと気が引き締まる。
    「柚子湯なんて本丸くるまでしたことなかったな」
    檜に近寄って掛け湯をするだけでもゆずの香りが心を安らげてくれる。
    さて洗おうかと鏡の前へ椅子を置いて腰掛けた時、脱衣所への戸が音を立てた。
    「ここにいたのか」
    「なんだ、まだだったのか」
    素っ裸の大倶利伽羅が前を隠しもせずはいってくる。まあ男湯だし当然なのだが。
    探していたのかと聞けばまた遅くまで仕事をしているのかと思ってなと返されてしまう。日頃の行いを振り返っている 1909

    Norskskogkatta

    DONE主さみ(男審神者×五月雨江)
    顕現したばかりの五月雨を散歩に誘う話
    まだお互い意識する前
    きみの生まれた季節は


    午前中から睨みつけていた画面から顔をあげ伸びをすれば身体中からばきごきと音がした。
    秘宝の里を駆け抜けて新しい仲間を迎え入れたと思ったら間髪入れずに連隊戦で、しばらく暇を持て余していた極の刀たちが意気揚々と戦場に向かっている。その間指示を出したり事務処理をしたりと忙しさが降り積もり、気づけば缶詰になることも珍しくない。
    「とはいえ流石に動かなさすぎるな」
    重くなってきた身体をしゃっきりさせようと締め切っていた障子を開ければ一面の銀世界と雪をかぶった山茶花が静かに立っていた。
    そういえば景趣を変えたんだったなと身を包む寒さで思い出す。冷たい空気を肺に取り入れ吐き出せば白くなって消えていく。まさしく冬だなと気を抜いていたときだった。
    「どうかされましたか」
    「うわ、びっくりした五月雨か、こんなところで何してるんだ」
    新入りの五月雨江が板張りの廊下に座していた。
    「頭に護衛が付かないのもおかしいと思い、忍んでおりました」
    「本丸内だから滅多なことはそうそうないと思うが……まあ、ありがとうな」
    顕現したばかりの刀剣によくあるやる気の現れのような行動に仕方なく思いつつ、 1555