Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    Orr_Ebi

    @Orr_Ebi

    気ままに書いてます!メッセージなどお気軽に♡

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 😁 👌 🌷 🍤
    POIPOI 34

    Orr_Ebi

    ☆quiet follow

    周りに逆だと思われてる沢深の話
    カップ麺食べて喋ってるだけ。

    ※若干リバを匂わせる発言が出てくるので苦手な人は🙅‍♀️
    ※深津の語尾変遷捏造
    ※沢北がいつもよりベタベタ
    ※いつものようにゲロ甘

    #沢深
    depthsOfAMountainStream
    #SD腐

    終わったらラーメン食う 「死ぬ時は一緒に死にたい」
     また変なことを、と深津はじっとりとした目で沢北を見た。お互いパンツしか履いていない状態で、フローリングに胡座をかいてカップラーメンを食べている。
     「オレには深津さんしかいないんだと思う」
     深津はその言葉に返事をせず、また麺を啜った。このラーメンは美味しい。北海道の有名店だと書いてあったから興味本位で買ってみたが、当たりだったな、と思った。
     沢北が、深津にならって麺を啜る。沢北が買ったのは1番ポピュラーで、CMもやっているやつ。シーフード味。いつも決まってこれを買う。
     「ずっとこうしてラーメン食べたい」
     こんな狭い部屋で?安いカップラーメンを?深津はそう返そうとしたが、沢北が事後にこんな突拍子もないことを言い出すのはいつもの事だったので、「はいはい」と心のこもっていない返事をした。
     「深津さん、ずっとオレのこと好きでいて」
     箸を置いて深津の手を握り、キラキラとした瞳で深津を見つめる。沢北の指先が、油で少し濡れていた。深津は頷くだけで返して、麺の少なくなったカップラーメンの汁を飲む。
     沢北がこんなことを言い出すのにはワケがある。
     初めて2人、体を重ねた日。もう2年前のことになるが、深津はまるで昨日のことのように覚えている。それまで、学生同士の清い恋愛で、心は繋がっているが体はまだ、という状態が続いていた。
     思春期の男子らしく、性欲だけを持て余して互いの性器をいじりあい、甘いキスを交わし合う事はあったが、体をつなげるまでは時間がかかった。男同士のやり方なんて、もともと何一つ知らない2人だった。軽く調べて、その過程の難しさ、根気の必要な準備におののき、しばらくは体を触り合うだけでよしとしよう、それでいい、と決まった。
     特に乗り気でなかったのは沢北で、深津を隅々まで愛したいと思う気持ちは強いものの、深津に無理をさせたくない、ただでさえ自分のワガママで付き合ってもらってるんだから、と言ってきかない。
     確かに、2人の関係は沢北からの猛アプローチによって叶ったようなものだった。
     深津が好きだと周りがうるさく思うほどに言い続けた沢北と、先輩に懐いているだけの一時的なものだろうと本気にしなかった深津。
     「本当に好きなんです深津さん!」
     「お断りですベシ」
     そんなやり取りがバスケ部内でも恒例となったある日。それを聞いた一之倉がポロッと、「でも嫌いとは言わないよな、深津」と言った。
     その瞬間に固まり、赤面する深津が全ての答えだった。
     沢北の「2人にして!」という大号令により、その場にいたメンツは散り散りになった。
     「もっと早く気付けばよかった」
     「…な、なにをベシ」
     「好きです、じゃなく深津さんはオレのこと好き?って聞けば良かったんだ」
     深津がもっと赤くなって顔を伏せたのは、その場にいた沢北しか知らない。その後、沢北がおもむろに深津の肩を抱き寄せたのも。
     結局、深津が沢北の告白を断り続けていたのは、バスケに集中したいから、という理由のみだった。沢北に好きだ好きだと言われるにつれて、段々と深津自身も沢北に恋愛感情を抱くようになっていく。けれど自分たちにはバスケがある、何よりも疎かにしたくないもの。
     その後2人で決めたのは、沢北が高校を卒業するまで挿入を伴った性行為はしない、という事だった。卒業すれば、きっと今より色んなことが自由になる。それを信じて、けじめとして期限を設けた。好きな気持ちは止められないから、お付き合いはするが、セックスはしない。そう決めた。
     けれど、沢北高校2年の夏。アメリカへの留学により、2人の約束は早まる事となった。
     沢北の高校卒業ではなく、2人の距離がアメリカと日本に離れる直前に、一度試してみる。それを、沢北は「オレのワガママ」と言う。
     「自分で決めた留学だし、泣き言言ってられないのもわかってる。でもどうしても深津さんが欲しい」
     沢北が泣きながら懇願し、深津が頷いた。涙で濡れた瞳の奥に強い意志が見えた。深津にとっても、沢北の選択は喜ばしくもあり、しかしこれからお互いの関係はどうなってしまうんだろうという不安に駆られていたから、予定が早まっても何も不満はなかった。なんなら少し焦ったくもあったから、嬉しさが勝っていた。
     この恋が始まってしばらくは、キスをして体を触り合いくらいにはなっていた。甘い言葉を囁きながら敏感な場所を触り合うのにも慣れて、深津としてはそろそろ次のステップに進んでもいいかと思っていたから、沢北に任せた。
     そしたら、見事に失敗した。
     やはり準備と練習が必要だった。落ち込んだのは深津より沢北の方で、急ぎすぎたと泣いていた。その姿を見て、次に会う時は絶対成功させてやろうと心に誓ったのは、深津の心の中でだけだ。そして沢北は、泣く泣くアメリカに渡って行った。
     深津が大学2年生に上がる直前の冬、しょっぱい初体験と沢北の渡米から数えて、1年半。
     深津の方から言ったのだ。「抱かれてやってもいい」と。
     久しぶりの帰国で、再会してからずっと互いに余裕がなかった。生で触れる深津に大興奮していた沢北は、深津の1人暮らしの玄関先でキスの雨を降らせるのをやめ、ポカンと口をあけたまま固まった。
     「そんな…いや、でも……嬉しいっすけど、…無理してまでしてほしくないし、あの時は…でも……うーんと…」
     もごもごと口を動かす沢北に、深津は沢北の股間に手を寄せて囁いた。
     「いれたくないピニョン?」
     その一撃が沢北の上も下も熱くして、結果そのままベッドに連れ込む形になった。
     手荒く服を脱がされながら、「ちゃんと準備してたピニョン」「ゆっくりすれば大丈夫、もう失敗しないピニョン」など、沢北を安心させたくて言った言葉は、まんまと興奮材料となり、それはそれは情熱的な夜が始まったのだった。会えなかった1年半をかけて、自分でせっせと準備した甲斐があったというものだ、と深津は心の底から嬉しかった。
     初めての挿入は、一言で言えば大変だった。童貞同士の性行為は、文字通り汗の滲むもので、準備していたとはいえまだそこまで快楽を拾えない深津と、気持ちよさに暴走しそうになる沢北が涙を流しながら顔を真っ赤にしていた。けれど深津は、沢北が良くなってくれるならなんでもいいと思っていたので、概ね満足だった。大成功だと思った。
     終わったあとは、変な緊張で体がこわばっていた深津がぐったりとし、そのあまりの弱々しさに、最後の方は我を忘れた沢北が二度泣くという、カオスな状況になっていた。まぁ、今となっては二人の笑い話だ。
     ぐったりした深津が、ポツリと「何か食べたいピニョン」と言ったのを聞いて、沢北がたまたまあったカップラーメンにお湯を入れて持ってきてから、それは二人のルーティンに追加された。
     そして滅多に食べないカップラーメンを食べながら、「深津さんが死んじゃう時はオレも死ぬ」と沢北が言った。その言葉が、それから何度もベッドの上で繰り返されることになるとは、その時の深津は思っていなかった。深津の語尾が、ピニョンからピョンに戻るまでの間、ずっとだ。
     回数をこなせば、人は学習し、慣れてくる。
     少しずつお互いの良いところが分かるようになり、もう挿入なしでは満足できなくなるのも時間の問題だった。沢北はずっと深津を大事に抱き、終わった後はケアをし、ついに事前準備までもこなすようになる。
     されるがままの深津を、飽きもせず帰国の度にありったけの愛と優しさで抱く沢北が、事後に大袈裟なほど深津との愛を噛み締め、神に感謝し、カップラーメンを啜る。
     最初のうちは、愛の言葉も言わなくなる日が来るかもしれないからと真面目に聞いていた深津も、そのうちこれは毎回やるやつかと気付き、同じ熱量で返さずに(そうすると長くなるので)、
    程よい倦怠感と少しの空腹感を癒やすためにいつものようにお湯を沸かす。
     2人の事後は、いつもこうだった。
     「このラーメン美味しい…」
     沢北がボソッとつぶやいた。目頭が少し赤くなっているのは、先程までの行為の最中、涙が溢れていたからだ。
     「お前いつも同じカップ麺ピョン、味に変わりなんてないピョン」
     「ちがう、美味しくなってる…深津さんと食べてるから…」
     深津との情事の後しか食べないカップラーメンにこうも感激しているのは、沢北がいつものターンに入りつつあるからだ。この後、深津への愛を語りはじめる。
     「深津さんと一緒じゃなきゃ何食べても美味しくないよ」
     「アメリカでどうやって暮らしてるピョン」
     「深津さん何してるかなって思いながら暮らしてる」
     「お前がそれ考えてる時、俺はだいたい寝てるピョン」
     不健康にもカップラーメンの汁を飲み切って、プラスチックの丼をゴミ袋に入れながらそう答える。
     沢北もそうだが、深津もカップラーメンは滅多に食べない。時々仕送りで送られてくるものの、体が資本のスポーツをしているので、これだけで食事を済ませることは稀だ。だからカップラーメンを見ると、いつも沢北の事を思い出す。不埒な行為をして、不健康な味を楽しむ。
     「美味しかった」
     ふう、と沢北が箸を置いた。そしてすぐに深津の腕を掴んで、もたれかかってくる。
     「食ったら片付けろピョン」
     「うん」
     そう言いながら、沢北は深津の腕の中にむりやり頭を突っ込んで甘えてくる。普段食べないジャンキーな味が、ぼんやりとした睡魔をもたらしているようで、沢北の体温が上がっている。
     「深津さん大好き」
     「はいはい」
     「深津さんも好き?」
     「深津さんも深津さんがそれなりに好きピョン」
     「違うよ、オレの事好きなの?」
     「はいはい好きピョン」
     ざり、と沢北の頭を撫でる。高校時代から変わらないツーブロックの坊主頭が可愛らしい。そんな事を思うのは深津だけだろうな、と自嘲気味に笑みが溢れた。
     「大学のチームメイトにさ、ゲイの子がいてさ」
     沢北が、少し眠そうな声でゆったりと話し出した。
     「彼氏と最近別れたからって、オレの話聞きたがるんだよ」
     「お前の話」
     「オレと深津さんの話」
     顔を上げてニコッと笑った沢北の顔は純粋無垢な物だったが、深津は少し嫌な予感がして仕方なかった。それは、多分沢北を狙っているんじゃないか。
     「なんて言ったピョン」
     「高校からの付き合いで、日本に戻る度にオレの事甘やかしてくれるって」
     「で?」
     「会う度たくさんセックスして、その後に食べるカップ麺が大好き。かっこいいし、日本で1番バスケが強い大学のキャプテンで、みんなの憧れの人がオレだけの彼氏なんだって言った」
     ニコニコと嬉しそうな沢北は、その話をした時の事を思い出しているんだろう。深津は少し複雑だったが。
     「なんて言われたピョン?そいつに」
     「…深津さんなんか怒ってる?勝手に言ったのだめだった?」
     沢北が体を起こして、目線を深津に合わせる。細い眉が少し下がって不安そうな顔になった。別に怒っているわけではない、と深津は沢北の背中を撫でた。
     「沢北には怒ってないピョン」
     「えへ、よかった」
     沢北が顔を近付けて、深津にまた軽いキスをした。さっき食べたカップラーメンの味が少しだけした。
     「ソイツさ、普段はいい奴なんだけど、日本に帰った時しか会えないなら寂しくないかって最近すごく言うんだよね。寂しくないって、深津さんがいつも連絡くれるからって言ってるんだけど、でも人肌恋しくなるだろってケツ揉まれてさぁ、オレそういうのじゃないよって答えたんだけど」
     いまこんなに幸せだし、とまたもたれかかってくる。ぐりぐりと体を押し付けられながら、深津はなるほど狙われているなと確信した。そして、おそらくその不届者は沢北をボトムと勘違いしている。
     「そいつにちゃんと言ってやればいいピョン」
     深津が呟くと、もうこの話は終わったとばかりにうっとりと目を閉じていた沢北が目を開けた。
     「なんて?」
     「"死ぬほど相性いい彼氏の具合が良すぎて他じゃ考えられない"」
     言った瞬間、沢北が破顔してにやにやとする。深津を抱きしめる力を強め、さらに体重をかけてきた。
     「んふふ、ほんとだね。もうほんと、深津さんの中って最高だから」
     「他のやつで試そうとか思うなピョン」
     「するわけないよ。ていうか、深津さんも体の相性いいと思ってたんだ」
     にやにやが止まらない沢北が、さらに嬉しそうに目尻を下げた。
     「気持ちいいって言ってくれたもんね」
     先程までの行為が深津の頭に蘇って、途端に恥ずかしくなる。沢北はいつも、中がどうだとか最高だとか言葉にして言ってくれるが、深津がそう言った事を言葉にするのはごく稀で、今日はその稀な日だった。
     「忘れろピョン」
     「忘れないよ、深津さん大好き」
     んー、とまた唇を尖らせてキスをせがむ沢北に、深津も渋々目を閉じた。柔らかい感触が乗って、ちゅ、と可愛い音が鳴った。
     「そう言えば松本も言ってたピョン」
     「言ってたってなにを?」
     「松本も多分、お前がボトムだと思ってるピョン」
     「ええっ」
     沢北が大きく目を見開いて固まった。親しい同級生のうちの一人である松本は、深津と同じ大学でバスケをしている。ちなみに湘北の三井もだ。
     今回の沢北の帰国を知らせた時、関係をすでに知っている2人は特に驚く様子もなくゆっくりして来いよと送り出してきたのだが。
     「あんまり無理させるなよ」
     去り際にかけられた言葉の意味を、その時はよく分からずただ頷いただけだった。が、帰り道でふと、あれはもしかしてそういう意味だったのか?と思い至った。
     ちなみに沢北は、2人にこの関係が知られている事は了承している。時間が空いた時には深津の大学の練習に参加したりもするから、深津の友人たちに顔見知りも多かった。
     「まぁでも、確かに普段の感じから見るとそう思うのかも」
     相変わらず人前では主将モードが抜けない深津が、仲の良い友人たちと日本でバスケが出来る楽しさでついはしゃぎすぎてしまう沢北を叱ったり注意したりする場面も多く、その関係はまさに犬と飼い主のようだ。
     三井にも「逆に恋人同士で安心した」と言われるように、深津の容赦ない態度とそれでも嬉しそうな沢北の力関係を見て、どちらが上かは自然と予想できてしまったのだろう。
     「別にわざわざ訂正する事じゃないから、何も言ってないピョン。プライベートな話だし」
     「うん、そうだね、それはそう」
     沢北が少し照れた様子で深津の胸に顔を埋めた。「もう少し大人になろうかな…」なんて呟きが聞こえてくる。
     「沢北が嫌なら、言っておくピョン。俺が下だって」
     「えっ、そんなそんな、いいんですそんな事!深津さんがわざわざ言わなくても!」
     あの2人ならそこまで話してもいいかと思ったのでそう言ったら、全力で否定されて少しホッとする。
     「それにオレ」
    ぎゅうぎゅうと抱きしめる力を弱めないまま、沢北が言った。
     「深津さんと裸でいちゃつけるなら、なんだっていいや」
    笑ったり泣いたり、忙しい奴のくせにこんな時だけしっかり目を見て言うから、深津の心はぎゅっと締め付けられた。喜びと愛しさと少しの切なさに息が止まる。
     「それは…上でも下でも?」
     「うん、深津さんがしたいなら」
    まさかそこまで、と思ったが、考えてみれば深津だってそうだ。沢北が望むならどっちでも。
     息を吐いて、深津は背中にあたるベッドにもたれた。沢北はそんな深津を見る。
     「俺も…別にどっちだっていいピョン」
     「一緒だね」
    頷いてみせると、満足そうに微笑んだ。きっと先程の深津のように、喜びと愛しさに溢れているんだろう。
     何もかも一緒だ。愛の形も背格好も、どんなふうに愛し合いたいかも一緒で、高校の時は髪型まで同じだった。違うのは、一つの歳の差と、別々の意思を持ち、離れて暮らすということくらい。 会う度に一つになりたくて繋がり、終わったら同じようなカップラーメンを2人で食べる。互いを隔てるこの薄い皮膚が邪魔だと思うほど、2人は互いの存在を愛している。本当に、他人にどう思われようが関係ない。
     「ほんとに、深津さん以外いないよ」
     何度も聞いたセリフを、沢北が飽きもせずにまた言う。そうなのかもしれない、と深津はやっと少し理解する。互いに互いしかいないのを確認するために、こんな風に愛し合っているのか。
     「知ってるピョン」
     可愛くない言葉を返して、深津は目を閉じた。ぬるい眠気が襲ってくる。ベッドにもたれて、沢北の体温に触れて、体が重くなってきた。
     「でも本当に、お前のケツを狙うそのチームメイトには気をつけろ。変なとこ抜けてるから心配ピョン」
     「大丈夫だよ、ちゃんと深津さんに言われたように返すから」
     どうだか、と思いつつ、沢北に限って浮気なんて無いだろうとも思う。こんなに愛し、愛されている。
     アメリカまで行ってそいつに一言言ってやろうか、とも思ったが、今の深津にそんな事はできなくて、沢北は明後日一人でアメリカに戻ってしまう。
     次に会えるのはいつか分からない。
     本当にひとつになってしまえたら、沢北と混じり合って深津も行けるのに。そんなバカみたいな空想を考えながら、その日はいつの間にか眠りについた。



     大学卒業を間近に控え、複数人での宅飲みの最後に、〆のラーメンが食べたくなったと言い出したのは三井だった。
     しかしべろべろに酔っ払ったその姿にまさか買い出しに行かせるわけにはいかず、比較的まだまともだった松本と連れ立って、深津はコンビニにいた。
     「深津、追加の酒はいるか?お前そんなに飲んで無いだろ」
     「いらないピョン、アルコール控えたいピョン」
     「あぁ、そうだよな。沢北か」
     松本も三井も、2日後に沢北が帰国するのを知っている。その数日後には、山王メンバーでの飲み会も久しぶりに開催される。最後に沢北と会ってから、一年。久しぶりにまとまった休暇だ。
     「じゃあラーメンだけ買って帰るか」
     三井に指定されたのは、コンビニの惣菜コーナーにある量が入った家系ラーメンだった。酒を飲んだ後によくこんな脂っこいものが食えるなと思ったが、そういえば三井は神奈川の出身で、普段からこういったラーメンを部活帰りによく食べていたと言っていたから、ある意味思い出の味なんだろう。大学に入ってウェイトを増やすために食トレもするようになり、三井は入学当時より食べる量が増えた。
     頭にほんのり残るアルコールに、深津も何かしょっぱいものをとコンビニ内を見て歩いて、フリーズドライの味噌汁を手に取る。しじみ味。
     松本の持つカゴに放り入れて、あ、と気付く。
     あのカップラーメンが入っている。1番人気、シーフード味。
     「深津はラーメンはいらないのか?」
     松本が適当に見繕ったのだろうカップラーメンの中に、沢北のあの銘柄がある。
     さて、どう言ったものかと深津は迷ったが、相手は松本だし別にいいよな、と遠く離れた恋人に心の中で語りかけた。
     「カップラーメンは、沢北に抱かれた後しか食べないって決めてるピョン」
     ぎょっとして固まった松本から、コンビニカゴを奪ってレジに向かう。まぁ、誤解は解いておくべきだし、別に深津は松本に知られても何も不都合はない。友人と後輩のこんな事、知りたくないかもしれない松本にはかわいそうだが。
     「えっ」とか「そういう…!?」とかなんとか喚いている声を聞きながら会計を待っていると、深津の尻ポケットに入れた携帯が震えた。
     『例のチームメイトに、ちゃんとタチだからって言っておきましたから』
     可愛い恋人が、それだけ送ってきていた。ちょうどこっちも誤解を解いたところピョン、と返そうとしたが、松本が横で「すまん」と言いながら会計を払ってくれたので、一旦携帯を懐にしまう。
     「なんかその…勘違いしてたみたいだな…」
     「こっちこそ変なこと言って悪かったピョン、けど誤解させてるのもむず痒いピョン」
     「いや、まぁ、勝手に想像するなんて良くなかったし…悪い…」
     「別にいいピョン、男同士なんて珍しいからいろいろ気になるのは仕方ないピョン」
     深津の本心からの言葉だが、松本はさらに申し訳なさそうに縮こまった。
     「…今度会う時気まずいな」
     「気にしないピョン、それにいずれ変わるかもしれないし、変わらないかもしれないピョン」
     ポカンとした松本に微笑んで、深津はコンビニから出た。春の前の冷たい空気が、深津の頬をそっと撫でる。
     「お前たちってなんか、いいな」
     「俺もそう思うピョン」
     コンビニ袋がカサカサと音を立てた。きっと、酔っ払いの三井が遅いと文句を言いそうだ。
     沢北が帰国するまであと2日。
     深津がカップラーメンを食べるのも、あと2日だ。

     



    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💞💕💘☺☺💘💘👏👏💒💒💒💯☺🍜❤💖💖💕😭💗💗💗💗💗💗💗💗👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏😭👏👏👏👏👏👏💘💘💘💒🍜🍜🍜😭👏💯💯💯
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    Orr_Ebi

    DOODLE3/1のうちにあげておきたかった沢深。
    沢への感情を自覚する深の話。※沢はほぼ出てきません
    ・深津の誕生日
    ・深津の名前の由来
    ・寮母、深津の母など
    以上全て捏造です!
    私の幻覚について来れる方のみ読ましょう。振り落とされるなよ。

    ※沢深ワンドロライのお題と被っていますがそれとは別で個人的に書いたお話です
    シオンの花束 同じ朝は二度と来ない。
     頭では分かっていても、慣れた体はいつもの時間に目覚め、慣れ親しんだ寮の部屋でいつも通りに動き出す。
     深津は体を起こして、いつものように大きく伸びをすると、カーテンを開け窓の外を見た。まだ少し寒い朝の光が、深津の目に沁みた。雪の残る風景は、昨日の朝見た時とほぼ同じ。
     同じ朝だ。けれど、確実に今日だけは違うのだと深津は分かっている。少し開けた窓から、鋭い冷たさの中にほんの少し春の甘さが混ざった風を吸い込む。
     3月1日。今日、深津は山王工業高校を卒業する。そして、奇しくもこの日は、深津の18歳の誕生日であった。

     一成、という名前は、長い人生の中で何か一つを成せるよう、という両親からの願いが込められている。深津自身、この名前を気に入っていた。苗字が珍しいので、どうしても下の名前で呼ばれる事は少なかったが、親しい友人の中には下の名前で呼び合う者も多く、その度に嬉しいようなむず痒いような気持ちになっていたのは、深津自身しか知らないことだ。
    6903

    Orr_Ebi

    TRAINING沢深ワンライお題「横顔」で書いたんですが、また両片思いさせてるしまた深は叶わない恋だと思っている。そして沢がバカっぽい。
    全然シリアスな話にならなくて、技量が足りないと思いました。いつもこんなんでごめんなさい。
    横顔横顔

     沢北栄治の顔は整っている。普段、真正面からじっくりと見ることがなくても、遠目からでもその端正な顔立ちは一目瞭然だった。綺麗なのは顔のパーツだけではなくて、骨格も。男らしく張った顎と、控えめだが綺麗なエラからスッと伸びる輪郭が美しい。
     彫刻みたいだ、と深津は、美術の授業を受けながら沢北の輪郭を思い出した。沢北の顔は、全て綺麗なラインで形作られている。まつ毛も瞼も美しく、まっすぐな鼻筋が作り出す陰影まで、沢北を彩って形作っている。
     もともと綺麗な顔立ちの人が好きだった。簡単に言えば面食いだ。それは、自分が自分の顔をあまり好きじゃないからだと思う。平行に伸びた眉、重たい二重瞼、眠そうな目と荒れた肌に、カサカサの主張の激しすぎる唇。両親に文句があるわけではないが、鏡を見るたびに変な顔だなと思うし、だからこそ自分とは真逆の、細い眉と切長の目、薄い唇の顔が好きだと思った。それは女性でも男性でも同じで、一度目を奪われるとじっと見つめてしまうのが悪い癖。だからなるべく、深津は本人に知られないように、そっと斜め後ろからその横顔を眺めるのが好きだった。松本の横顔も、河田男らしい顔も悪くないが、1番はやっぱり沢北の顔だった。
    3914

    Orr_Ebi

    TRAINING喧嘩する沢深。でも仲良し。
    なんだかんだ沢が深に惚れ直す話。
    とあるラブソングを元に書きました!

    大学生深津22歳、留学中沢北21歳くらいをイメージしてます。2月のお話。
    期間限定チョコ味 足先が冷たくなっていく。廊下のフローリングを見つめて、何度目か分からないため息をついた。
    「ちょっと頭冷やしてきます」
     深津さんにそう告げて部屋を出てから、15分は経っている。もうとっくに頭は冷えていた。爪先も指先も冷たくなっていて、暖かい部屋の中に入りたいと思うのに、凍りついたようにその場から動けなかった。
     なんて事ない一言がオレたちに火をつけて、すぐに終わる話だと思ったのに、想定よりずっと長くなって、結局喧嘩になった。オレが投げかけた小さな火種は、やがて深津さんの「俺のこと信用してないのか?」によって燃え広がり、結局最初の話からは全然違う言い合いへと発展し、止まらなくなった。
     いつにも増して深津さんが投げやりだったのは、連日の厳しい練習にオレの帰国が重なって疲れているから。そんな時に、トレーニング方法について何も知らないくせに、オレが一丁前に口出ししたから。それは分かってるけど、でも、オレがやりすぎなトレーニングは体を壊すって知ってるから、心配して言ったのに。
    6842

    related works

    recommended works