アヤタがクラスメイトからポッキー貰った話「ねー、ささたなコンビにポッキーあげる」
ホームルームが終わり、教室はざわついている。読み掛けの本を開いて、トイレに行った灯影院を待っていると、目の前に派手な恰好をした女子が立つ。机を挟んでふわりと化粧の香りがする。普段教室の対角線上にいるタイプで、僕は思わず身構えた。
「……えっと、ごめん、どういう風の吹き回し?」
「風の吹き回しって言い方すご。ウケる」
その言い様は馬鹿にしているのか、それとも本当にツボに入ったのだろうか。どちらにせよ、意味もわからず笑われるのは気分が悪い。固くなる僕を前に、彼女はひとしきり笑ってから話を続けた。
「んーとね、うちにいっぱいあったから持って来たんだけど、配ろうとしたらみんなノリよくて、最終的に九箱ぐらいダブったんだよね。手当たり次第あげても余ってたところで、ささたながいたからちょうどいいやって。あ、ポッキー好きじゃない感じ?」
「いや、ポッキーは嫌いじゃないけど。……もしかして、『ささたな』って灯影院と僕のこと? それに、そんなにお菓子が被ることってある?」
聞き慣れない言葉に釣られ、僕はいつものように突っ込んでしまった。ほぼ交流のない女子に対して、馴々しすぎたと冷や汗が流れる。この場にカナがいたら鋭い蹴りが飛んでくるだろう。しかし、彼女は気にした様子もなくケラケラと笑った。
「そーだよ、いつも一緒にいるから。苗字くっつけてわかりやすいっしょ。で、今日ポッキーの日じゃん。11月11日。知らない? ほら、ガッキーがCMで踊ってたやつ」
「いや、それは知ってるけど……」
少し前のCM曲を口ずさみながら、軽く身振りをする彼女に何を言えばいいかわからず困惑する。接点もないのに、菓子がここまで回ってくる理由は納得した。しかし、勝手に名前を付けられて二人一組として認識されるのは変な気分だ。実際、僕が灯影院と一緒にいる時間は長いが、灯影院は他の人とも絡んでいることが多い。それでも、周囲からそんなふうに見えているのだろうか。
「まー、どうせ持って帰ってももったいないから貰ってよ。だいじょーぶ、他の子にはすでに渡してるから」
彼女は滑らせるようにアルミ袋を机に置いた。何が大丈夫なのかはわからないが、ここまでされて突き返すほどの理由もない。大人しくポッキーを手に取った。
「ありがとう。でも僕、返せる物とか持ってないよ」
「いーよ、バレンタインじゃないし。全然気にしないでいーから。じゃ、ささっきーにもよろしくー」
「わかった、ありがとう」
彼女はカラッとした笑みを浮かべた後、席を離れていった。振り返ることもなくひらひらと手を振るクラスメイトに、僕はまた明日と小さく呟いた。
……灯影院、あいつ、女子からあだ名で呼ばれてるのかよ! それも苗字の方で!