Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    kagyo_

    @kagyo_

    好きなものを好きな時に。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 29

    kagyo_

    ☆quiet follow

    フーシャ村スタートIF

    ##シャンウタ
    ##裂いた咲いた

    災難な船出 港から遠ざかるレッド・フォース号をウタと村人たちが見送ってから十年、ウタの家族である赤髪海賊団の乗る船がフーシャ村へ立ち寄る気配はない。
     ウタがフーシャ村のマキノのもとへ預けられた十年の間に、ルフィがコルボ山一帯をシメる山賊一味『ダダン一家』に行ってしまったり、ウタ自身もルフィの祖父であるガープに戦い方を教わったりなど色々な出来事があった。
     傷ついて欲しくないとシャンクスはウタのことを村へ置いていったが、結局ガープとの修行に明け暮れているうちに小さな怪我は日常茶飯事となった。マキノはウタが怪我をこさえて帰る度に「なんて言えばいいか……」と頭を抱えていたけれど、ウタにはどうしてもやりたいことがあったので、その準備のためにできた傷ならへっちゃらだった。
     別れの前日にホンゴウがウタへ渡したちっとも鳴らない電伝虫へ彼女は子守歌を聞かせる。とろとろと落ちた瞼は完全に閉じ、電伝虫の意識は完全にウタの世界へと取り込まれた。
     つんつんつついても反応しないことを確認したウタは、すやすやと寝息をたてる電伝虫をウェストバッグへ仕舞い込む。
    「本当にウタも付いて行く気なの?」
     ルフィがフーシャ村のあるドーン島から旅立つ日、ウタもまた旅立とうとしていた。
     待ち合わせ場所へ向かおうとバーを出るウタの背中にマキノは声をかける。赤髪海賊団の大頭から預かった彼の大切な宝物だ。できることなら危ないことはして欲しくない。
     不安そうな顔をするマキノを振り返ってウタは、眠る電伝虫とシャンクスのビブルカードが入ったウェストバッグをパンと叩いた。
    「ありがとう、マキノさん」
     でも、あの日もうじっと待つのは止めると決めたのだ。赤髪海賊団のみんなに会いたいよと泣くウタに、ルフィが「会いたいんだろー? なら会いに行けよ。お前が迎えに行ってシャンクスのことびっくりさせてやろう」と笑ったあの日に。
     そうと決めてからウタは、レッド・フォース号を追いかけるためにガープへ頭を下げて戦い方を教えてもらった。投げ飛ばされても突き落とされてもへこたれず、食い下がった。
     すべてはウタの家族に、大好きなシャンクスに会うために。
    「シャンクスが迎えに来ないなら私から行ってやらないと」
     誰の影響なのかは分からないが、言い出したら聞かないウタにマキノは折れるしかない。それにウタを柱に縛り付けて旅立ちを妨害したとしてもルフィが「ウタがシャンクスのところに帰るって言ったんだ! 邪魔すんな!」と突撃してきて連れて行ってしまうだろう。
     マキノは仕方ないわねという顔をして「くれぐれも気を付けていってらっしゃい」とウタに手を振った。
    「いってきます!」
     そう言って待ち合わせ場所へ走り、ルフィと共に意気揚々と船出したウタだったが、彼女は今一人で見知らぬ島にある森の中を歩いていた。
    「あー! もう、村を出てすぐこれじゃこれから先が思いやられる!! ルフィ―!! どこにいるのー!」
     出港早々、航海術を持たない二人はとんでもない大渦に巻き込まれてしまったのだ。ウタは、積んでいたタルの中に飛び込んで何とか生きてどこかの島へ流れ着いていた。
     悪魔の実の能力者が二人揃って海、しかも渦の中に落ちるなど何の冗談だろうか。まったく笑い話にもならない。マキノに心の中で「いきなり大変なことになりました」と謝りながら、きっとルフィも同じ島に流れ着いているはずだと信じてウタはルフィを探す。
    「ルーフィー! いるなら返事してー!」
     港の近くにある小屋には見慣れない海賊旗がはためいていたからうかつに近寄ることはできない。逃げるなら人の気配がしない森だろうと踏んでいるのだが、あるのは棺桶のようなボロボロの小さな船だけだ。
    「はぁ~~」
     ウタが腕を組んでこれからどうするか考えていると、遠くから二人の人間が近付いてくる音がした。彼女は木陰に潜むと姿勢を低くして戦闘態勢に入る。いつでも足技を繰り出せるようじっと息を殺して構えていると、港の方から来た影のうちの一つが見知った姿になった。
    「ルフィ!」
    「おっ! ウター! お前も無事だったんだな!」
     能天気な再会の挨拶にウタは片手で顔を覆うとため息をついた。
    「あの、ルフィさんのお知り合いですか?」
     ルフィと共にウタのもとへやって来た少年――コビーを見た彼女は、にっかり笑って「私はルフィの友達のウタ。よろしくね」と自己紹介をした。コビーもそれを聞いて安心したのか「ぼくは海賊船で雑用係をしているコビーといいます」と名乗る。三人はコビーが二年かけて作り上げたという小さな船の前でしばらく話をしていたのだが、その間にドカン! と突如割って入る者が出現した。
    「誰を捕まえるって!? コビー!!」
     女海賊『金棒のアルビダ』だ。粉砕されるコビーの船にウタは息を飲む。本当は今すぐにでも「なにしてんの、あんた!」とアルビダの前へ飛び出したいところだが、相手の人数の多さに加え、ルフィがどう動くつもりなのかが読めず、ウタは警戒の態勢をとるに留める。
     場はルフィの「誰だ、このイカついおばさん」の言葉で大きく動き始めた。アルビダと戦うことを決めたルフィは「コビーを頼む」とウタへ少年を突き飛ばし、アルビダをその拳で吹き飛ばす。そのあっという間の出来事にウタもコビーも他の海賊たちもあっけにとられてしまう。
     近海の主を殴り飛ばして沈めた姿を見ていたウタも、まさかあのぐるぐるパンチをしていたルフィが女海賊を一撃でのしてしまうほど強くなっていたとは思いもしなかった。いったいルフィはコルボ山でどんな生活をしていたんだろう。
     ウタはルフィがフーシャ村にいなかった間のことについて思いをはせ、彼に一歩も二歩も先を行かれているような気がして悔しさが込み上げてくるのを感じた。ガープに修行をつけてもらっていたとはいえ、自分はまだまだなんだとウタは気持ちを新たに気合を入れなおす。
    「負けてなんていられない。私は絶対シャンクスのところに帰るんだ」
     騒動がひと段落したところで三人は海軍基地へ行くために海賊たちから小船を一隻もらいうけることにした。海の知識を持ったコビーのおかげで渦に巻き込まれることもなく船は順調に進んでゆく。
     そんな風に始まったルフィとの冒険が、本当に命がいくつあっても足りないんじゃないかと思うことの連続になるとはこの時ウタは考えもしていなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏❤💕💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works