夢か現か幻か 夜明け時。
人も吸血鬼も多くが眠りにつくしじまの時間。
広さの割に家賃の安さが自慢の2LDKのアパートの薄い壁越しにでも物音一つ聞こえない静かな世界にポツリと、外のしじまよりも静かな声でミカエラが呟いた。
「時々、もしかしたらこの幸せな日々は全部私の夢なんじゃないかと思う時があるんだ」
布団の上に座り、横で眠る透の頭を優しい手つきで撫でるミカエラの穏やかな横顔は白い花弁を思わせる静謐さに満ちていて、思わず目を奪われてしまうほど美しかった。
ポツリ、ポツリと穏やかな声音の中に恐れだとか怯えだとかそんなものを淡く微かに滲ませて、ミカエラは静かに言葉を落とし続ける。
「本当の私は兄さん達と離れ離れで、あの冷たい屋敷の中でお母様に縛られたままなんじゃないかって。全ては辛い現実から逃げ出そうと生み出した、自分に都合の良い幻のなんじゃないかって」
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