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    KoruhaS

    千ゲを愛している

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    KoruhaS

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    『こちら月より、愛をこめて』NO.1

    「月出発前夜」をテーマに5人で作る、大人の千ゲリレー小説。

    *当作品は全年齢ですが、これ以降の作品は年齢制限が入ります。高校卒業前の方は閲覧を控えてください。よろしくお願いいたします。

    #千ゲ
    1000Sheets

    こちら月より、愛をこめて 俺は後悔したくない。
     生きていけば様々な分岐点にぶち当たる。当然、迷う時もあれば苦しいと思う時もある。
     そんな時に選ぶ基準はいつだって、自分が正直に生きられるかどうか、だった。
     マジシャンを目指したことも、単身アメリカに行ったことも、芸能界に入ったことも、全部、俺が俺らしく生きるための決断だった。
     周りの意見や、世間の風潮に左右されないこと。自分の気持ちに向き合って本音で生きることは後悔しないためのシンプルな方法だ。
     それはストーンワールドでも変わらない。だから俺は早々に司帝国を裏切って千空ちゃんに付いた。
     俺は千空ちゃんの隣に立ち、一緒に生きて、世界を再び作り上げていく中で、彼を支える喜びを知った。
     もちろん、嫌だとか、無理だとか、思う時もあった。でも彼の横顔を見ていたらネガティブな感情は飛んで行った。否定的な考えを恥ずかしいとすら感じた。
     千空ちゃんの隣にいないと、後悔すると思った。
     千空ちゃんの隣に立ち続けられる男でありたいと思った。だから、どんなことがあっても、乗り越えられた。
     でも、ロケットを作り始めてからずっと言いようのない焦燥感に襲われる。胸の中に冷たい風が吹くようだった。
     俺が彼にできることは、あとどのくらいあるんだろう。

    「分かりやすいように書いといたぜ!」
     クロムちゃんがカレンダーの日付に印をつけた。
     ロケット打ち上げの日が刻々と近づいている。
     楽しみだと興奮しているクロムちゃんとスイカちゃんに共感しつつ、内心死刑執行を待つような気持で吐き気がする。

     
     千空ちゃんは相変わらず秒単位でスケジュールを組んでせわしなく働いている。訓練の合間に次から次へとやってくる科学クラフトのリクエストにも応えていた。
     以前一気に家電だの日用品をクラフトした後も、仲間たちは思い出したかのように千空ちゃんに細かいものを頼んでいた。千空ちゃんは嫌な顔一つせず応えている。
    「次は何を作ってるの~?」
     もう夜も遅い時間だというのに、机に向かって製図を書いている千空ちゃんに、お茶を出しながら声をかける。
    「食器洗浄機。レストランを増築するって話でな」
    「ゴイスー! これから寒くなるし、冬場の洗い物って、すーぐ手荒れするもんね。千空ちゃん優しいねえ」
    「優しいとかじゃねーわ」
     千空ちゃんが思い出したかのように顔を上げ、机の引き出しを開けて瓶を取り出した。
     いつも俺が作ってもらっていた保湿クリームだ。いつもより瓶が大きい。
    「作っておいた。もう少しで無くなるだろ」
    「……優しいねえ」
     千空ちゃんは瓶のふたを開けて中身を手に取ると、掌で擦り合わせて、手を貸せ、と言った。
     俺の右手を両手で包み、優しくマッサージするようにクリームをなじませる。ふわりと柔らかい花の香りが漂う。
    「良い匂いする。香りつけてくれたの」
    「あ"ぁ。ジャスミンな」
    「いいねぇ。香り付きのハンドクリームなんて、まさに現代って感じで。これつけて寝たらよく眠れそう」
    「手荒れ防止には夜間のケアが有効だからな。寝る前につけてくれ」
    「じゃ、これから毎晩千空ちゃんがつけて」
    「クク、なに甘えてんだよ」
    「だって俺めんどくさがりだもん。忘れちゃう」
    「プロでマジシャンやってるやつが自己ケア怠るわけねーだろ」
    「千空ちゃんに触ってもらうのが好きなの」
     俺がそう言うと、千空ちゃんは目を伏せて小さく笑った。包まれた掌から伝わる体温が気持ちいい。
     指の間や指先、爪の周り、一本一本丁寧に塗り込んでくれる。大きくて、しっかりとした指の感触。薄い皮膚に、千空ちゃんの手の傷がざらざらと引っ掛かる。俺よりも保湿が必要なのは千空ちゃんだ。
     千空ちゃんは反対の手もマッサージし終え、手の甲を自分の口元に持ってくると、口づけした。
     千空ちゃんが俺を見上げて微笑む。すっかり大人の顔になった。出会った頃から今もずっと魅力的な人。
     俺も微笑み返し、ケアされた手の甲を撫でる。
    「ありがとう! ゴイスーしっとり~! 俺にもやらせて?」
    「ん」
     千空ちゃんは素直に手を差しだした。俺もクリームを手に取って千空ちゃんの手を包む。
     いつも千空ちゃんがクリームを作ってくれる時、持ち運びしやすい手のひらサイズの瓶に入れてくれていた。今回は部屋に置いておく用の瓶だ。これならしばらく無くならないだろう。
     瓶を大きくした理由なんて、聞かなくても分かる。
     小さい彼の気遣いに、俺はいちいち泣きそうになる。
     彼の大切な指を丁寧に触る。ここ数か月で、千空ちゃんは指すらたくましくなったと思う。
     かさついて捲りあがった皮膚に練り込むようにクリームをなじませていく。
    「ゲン」
    「ん~?」
    「まだテメーの欲しいもん聞いてねえ」
    「あー……」
    「欲しいもんあったら、早めに言え。時間的に厳しいこともあるだろ」
    「そりゃもう、いっぱいあるよ~。でも一つに絞ったほうが良いよね。まだ考えるから、待ってて」
     千空ちゃんの掌をゆっくり指圧する。固くなっていて、疲れがたまっているようだった。
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