温かい優しさ夏が終わり、もうすぐ秋を迎える頃。街路樹を彩っていた木々の緑の葉たちが、寒さに耐えかねてその色を変え地面へと落ちていく。そんな季節の前触れを感じる中、俺は恋人である森本と一緒に映画を見に来ていた。
「面白かったな」
「あぁ、最後まで見入ってしまった」
劇場から出た後、次々と互いの感想を言い合い始める。普段から映画を見る機会の少ない森本だったが、最近は俺の勧める映画を見ることが多くなっていた。そして今回も、丁度知っている監督の新しい映画が公開されると聞き一緒に見に来たが、どうやら森本の好みに当てはまったようだ。
数少ない彼の言葉からでも充分楽しめたことが伝わってきた。そうして言葉を交わし続けながら建物の外へ出た瞬間、びゅうと冷たい風が吹き付けてくる。
「…っ、やっぱり寒いな」
さっきまで晴れていた天気は一変し、いつの間にか灰色の雲が頭上に広がる。長袖は着ていたが予想以上の気温の低さに薄手の生地では太刀打ちできず、思わず体を震わせてしまう。せめて、もう一枚上着を持ってくるべきだったと後悔していると、森本から心配そうに声を掛けられる。
「大丈夫か」
「あぁ。このくらいならまだ……」
そう言ってから、家までの距離くらいなら我慢できると答えようとした時、不意に森本が着ていたコートを脱ぎ始めた。突然の行動にどうかしたのかと問う前にその上着を俺の肩に掛ける。
「ないよりはいいだろう。そのまま着ていていい」
森本の優しい気遣いに、段々と顔が熱くなっていく。当たり前のような振る舞いは相変わらずで、それでも森本が自分の事を考えてくれるのが嬉しい。
「…けど、いいのか?」
確かに俺は上着を着たおかげで寒くはなくなったが、今度は森本が寒いはずだ。森本のぬくもりに包まれながらも、問いかけた。
「あぁ。俺は慣れているから気にするな」
そう答えてくれたが、1人だけで温まっているのもどこか後ろめたさを感じてしまう。けれど相手からの好意も無駄にできず、その代わりに強引に森本の手を取る。
「……っ」
そして、貸してくれたコートのポケットに自分の手と一緒に押し込んでいた。
「瞭?」
「これなら、少しは温かいだろ」
「……そうだな」
コクリと頷くと、その顔は少し頬を綻ばせては、ゆっくりと俺の手の形を確かめるように指を絡ませてくる。
「―――…っ!」
予想外の動きについて行けず、思わず森本の顔を覗き込んで視線で訴えた。けれどそんな瞬間でさえ幸せそうに笑うところ見てしまったら、それ以上は何もいえなくて。
そうして結局、その日は家に着くまでの間、二人の分のぬくもりに浸っていた。