推し活大きな会場ではアイドルのライブが開催されていた。会場のステージで沢山のライトで照らされるのは、人気アイドル RYO。大勢のファンに囲まれながら持っていたマイクで、座席にいる観客に向けて笑顔を浮かべ声をあげる。
『今日は、俺のために集まってくれてありがとう。このステージから皆の笑顔が見れて、すごく嬉しいよ』
『最後まで楽しんでー!…最初の曲、「答えは俺たちの中に」!』
手を振って、RYOが歌い出す。
とある席のファンたちが、応援の歓声を上げる。
「RYOー!」
「RYOー!!」
「RYOーっっ!」
「蒼山さん、隣でうるさいですって!」
「す、すまない」
森本がペンライトを、木刀のように持って首を傾げる。
「栗栖、このぺんらいとはどうやって使うんだ…?」
「あ、それはこうやって使うんですよ」
指導している合間に、蒼山が栗栖の持ち物を見て声を掛けた。
「それにしても、その応援グッズは自分で作ったのか?」
「当たり前じゃないですか、せっかくRYOさんに会えるんですよ」
テンションを上げて理由を伝える栗栖を横に、森本が蒼山の方を見て驚く。
「そういう蒼山も、すごい鞄だな」
「そうか?むしろ足りないくらいだ」
まるで最低限はこのくらいとでもいうように、缶バッチを沢山付けた鞄を真剣な表情で眺めていると、次の曲が流れ始めた。
「今回のRYOライブも最高だな…」
「そうですね。俺たちの推しは今日も尊いです…」
「あぁ、存在が奇跡としかいいようがないな」
こうして目を輝かせるファンたちの熱量は冷めることなく、一人のアイドルに声援を送り続けたのだった。
一方その頃、彼らがいる場所から更に後方の座席に一人の男が会場へと足を踏み入れていた。
「藤堂様、こちらがお席になります」
「わかった」
ライブの関係者が直々に彼の席を案内していたらしい。
「今回、藤堂様には多大なご協力を頂いて、本当にありがとうございました。……ですが、本当にこちらの席でよろしかったのですか?」
「あぁ、俺は“何も”していないからな」
「かしこまりました。それでは、私はこれで失礼します」
案内人がその場を離れると、藤堂と呼ばれた男は案内された席に座る。
「ふっ…」
手には何も持たず、ただ満足そうにステージに立つ彼を見守り続けた。