雪合戦それは、冬のとある日。
映研の部室で俺と修平、栗栖、森本の四人が顔を合わせ映画撮影の打ち合わせをしていた。
「赤井。佐倉と藤堂は来ないのか」
話を始める前、室内にいないメンバーについて森本が問いかける。
「あぁ、佐倉は家の用事で、藤堂は少し遅れて来るって」
「そうか」
二人からは事前に連絡を貰っていたことを伝え、全員が着席をしたのを確認してから話を始めた。
「……それじゃあまずは、今後のスケジュールからだな」
そうして長かった話を終えると、一番に栗栖が声をあげる。
「やっと終わったぁー、……ん?」
ふと窓の外を見た栗栖が、その視線を窓の外へ向けたまま動かない。
「栗栖?」
気になって声を掛けてみると、その表情がパッと明るくさせてこう答えた。
「見てください!雪、結構積もってますよ」
そう言われ彼と同じ方向を見れば、確かに外の景色が白い雪で覆われていた。
確かに窓越しから外からの冷気を感じていたが、その正体が分かり納得してしまう。すると、未だ曇り空から降り続く雪をみて、今度は修平が話しかけてきた。
「瞭。残りの作業は急ぎじゃない、今日は切り上げるか?」
「そうだな……ーーーわっ!」
雪で足下が悪いと帰るのも大変だろうと、そう提案してくれる。俺は同意しようとしたが、その言葉を遮るように栗栖が手を引いてきた。
「赤井さん!これから雪合戦しましょうよ」
まるで雪を初めて見た子供のようにはしゃぐ栗栖を無下にするのも可哀想で、俺は首を縦に振った。
「……わかったよ、少しだけだからな」
「やったー!」
承諾すると同時に栗栖に手を引かれ、俺たちは雪の降る外に足を踏みだした。
「……俺たちも行くか?」
「あぁ」
そして室内に取り残された二人も、駆け出していった赤井と栗栖を追うように外へと向かった。
その30分後ーー…。
「あいつらどこ行きやがった」
映研を訪れていた藤堂は、部室にいるはずのメンバーの所在を探していた。もちろんこの大学の生徒ではない藤堂からしたら、彼らがどこにいるか皆目見当がつかない。仕方なく、学内を歩く生徒数人に声を掛け、ようやく居場所を突き止める。
「おい、お前らーー……っ!!」
中庭にいるという話から、目的の人物たちを見つけて声を掛けようとした時。
「ーーーあ」
赤井の投げた雪玉が、見事に藤堂の顔面に当たっていた。
即席で作った雪玉なので怪我は無かったが、顔に張り付いた雪はすぐには落ちない。藤堂の表情が見えないまま、その場にいた全員が言葉を失っていた。
「と、藤堂、悪い。お前に当てるつもりじゃ……」
最初に我に返った赤井が申し訳なさそう謝るけれど、当人は顔に残った雪を振り払うと、無言のままざくざくと雪を踏み鳴らしながら早足で近づいてくる。得たいの知れない相手の感情に、思わず赤井の足が一歩後ろに下がっていた。
「藤堂、落ち着け。瞭もわざとじゃ…」
咄嗟に赤井を庇おうと蒼山が言葉を挟んだが、その言葉は相手の耳には届いていない。そうこうしている間に藤堂が赤井の目の前に立つと、怒った顔ではなく仮面を貼り付けたような笑みで言葉を発した。
「ちょっとこい」
「藤堂待っ……うわっ!」
有無を言わさずひょいと赤井の身体を持ち上げると、その体を肩に担いでその場を去ってしまう。
「ーー待てって、おい!」
慌ててその後を蒼山が追う。
「だ、大丈夫ですかね」
「分からない」
そして、その場に残された栗栖と森本はその様子を見守ることしかできなかった。