運命の赤い糸ある日の朝、普段通りに起きると右手の小指に赤い糸が結ばれていることに気づいた。
眠っている間に誰かに結ばれたということもあまり信じられず、すぐに指から外そうとしても
何故だか俺手はそれに触れることが出来ず、できることと言えばその糸が繋がっている先を辿ることくらい。今日は大学もなければ、映研の活動も休みを貰っていたおかげで予定は何もない。
「行ってみよう…!」
勇気を振り絞り、俺はその赤い糸の先を辿ることにした。
【栗栖 ーyellowー】
家を出て30分後。到着した駅前には若い女性たちが人だかりを作っていた。
女の子たちの視線の先には、大型の撮影機器が並んでドラマの撮影をしているところだった。
「はい、それじゃあシーン30から!アクション!」
出演していた栗栖を見つける。俺の指に絡まる糸の先は、彼の小指へと繋がっていた。あんなにも目立った糸があるにも関わらず、当の本人は気づかずに動いているのを見ると、どうやらこの糸は自分以外に見えていないらしい。
栗栖の出番が終わるまで待っていると、駅前の撮影が全て終わったらしく撮影機材の撤収を始めたのを見計らい、栗栖に声を掛けた。
「栗栖!」
「赤井さん!」
こちらを向くと同時にパっと花が開くように笑って、こちらへ駆け寄ってくる。
「何かあったんですか」
突然訪れたことに驚きながらも、俺と会えたことを喜んでくれる。
「実は、栗栖に会いに来たんだ」
「本当ですか?すごく嬉しいっす」
無邪気に笑う栗栖が、勢いに任せて抱きつく。そして、突然現れたものに驚いて大きな声を上げていた。
「…うわっ、なんだこれ!」
視線を泳がせる彼の視線の先には、先程まで見えていなかったはずの赤い糸が自身と俺の指繋がっていることに気づく。
「なんかこれ、運命の赤い糸みたいだ」
それは、将来結ばれる相手と繋がっているという伝説。それは断ち切ろうとしても決して切れない永遠の愛を示す象徴。栗栖は嬉しそうにそれを眺めながら、何故かホッとしたような顔をする。
「栗栖…?」
気になって声をかければ、心配をさせていたことに気付き慌てて首をブンブンと振った。
「嫌とかじゃなくて…、なんか安心したんです」
「安心?」
「俺、もう一人じゃないんだなって思って」
そう答えて、大切そうに繋がったままの糸に触れる。俺には、栗栖がこれまでどんな経験をしてきたのか分からない。けれど、その口にした言葉を聞いた瞬間に自然と栗栖の体を自分の腕の中へ閉じ込めていた。
「なぁ、栗栖。俺のことをどう思ってる?」
「もちろん、大好きです」
「ありがとう。俺も例えこの糸が偽物で、運命の糸と呼ぶべきものでなかったとしても、どんなことがあっても、俺は栗栖の傍にいる。…ずっと愛してるから」
まだ少し目線低い栗栖に向き合い、素直な気持ちを伝えて糸が繋がったその手を握る。
決して離れないように強く力を込めて。
「……っ!」
何かから吹っ切れたように再び笑顔を取り戻すと、重ねた手を握り返してぐいぐいと引っ張ってきた。
「ね、赤井さん。オレ次の予定まで時間あるんで、一緒に近くの喫茶店行こう」
「うん、いいよ」
好きな人と一緒にいる幸せを噛みしめて、俺達はまた新しい一歩を進み出した。