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    _yato_stella

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    ツイステ夢小説
    イド×夢主
    【Remember you eve in death.】

    Chapter 2入学から半年が過ぎた。この頃にはどの生徒も寮生活に慣れ、次第に心の余裕を持ち始め、部活に学業、課外授業等に精を出す頃だった。次いで授業に着いていけず、頭を抱えたり、と思い悩む時期でもある。
    だが、ステラはというと入学式で自ら声を掛けたターコイズブルーの双子に妙に絡まれていた。
    この少し前、彼らと一緒にいた眼鏡の彼…アズールが新寮長に就任した。
    前寮長とは勝手が違い、やっと慣れたと思った頃に前の体制を引き継ぎながら新しい寮長のもと、オクタヴィネル寮が仕上がっているところだった。
    そんなアズールを支える副寮長に、この双子の片割れ、ジェイドが就任した。この頃からだろうか、妙にジェイドとフロイドが声を掛けてくるのだ。そしてアズールも。
    事ある毎に入学式で質問した内容の深掘りだった。
    正直、何度も質問されると鬱陶しいことこの上ない。
    だが、ステラ側はあの後から情報収集はうまくいっていなかった。早くなにか情報を掴みたい、そんな焦りもあってか彼らからの質問には、気分が乗る限りは答えていたのだ。
    もちろん、その中から収穫もあった。陽光の国と珊瑚の海は割と近い距離にある。
    ステラの出身地の伝承に出てくる人魚はもちろん、彼女が幼少期に出会った双子の幼い人魚の二人。彼らも珊瑚の海出身の可能性が高くなったのだ。
    アズールは、ステラに珊瑚の海の知り合いに聞いて差し上げますよ、と取引を持ちかけた。対価は、ステラの実家の融資を格安で、という事だった。
    なぜ実家のことを知っているのか?特に誰かに話した記憶のないステラは怪訝そうな顔をしたが、恐らく生徒名簿から情報を得たのだろう。
    学園長や教師陣以外で、その名前から家業を連想できるのは財界に精通しているものか債権者、またはその身内くらいではなかろうか。だが、債権者でもなさそうな彼らは、個人情報満載の生徒名簿から調べたんだな、と安易に予想がついた。実際、名簿から確信を得たのは確かだが、アズールはイヴェットという名前に覚えがあった。入学式の時に聞き覚えがあるな、と記憶を探っていたが、まさかこの世界を牛耳る大資産家の出身ということには驚いた。
    さも本当のことのように囁かれていたステラの裏口入学の話も、納得が行く。だが、名簿の中に記された、魔力に関する項目は、並の生徒よりもずば抜けて高いものだったのだ。特待生だ、ということは学園長から聞いてはいたが、ここまでとは、と目を見張った。
    そんなステラの背景も含め、アズールとしては恩を売っておきたい。彼女の身の上や周りの人物はもちろん、他寮への牽制にも十分な手札となる。
    そんなアズールの思惑も知らぬステラは、面倒なことになったかも、と眉を顰める。だが、アズール達の出身地のことを含めてもその情報は、探偵などを雇うにしろ、自分の足で情報を集めるにしろ骨の折れる作業だ。
    彼からの情報取引。その内容を聞いた上で、ステラは父母にアズールの計画と確実に採算が取れると、返事をした。
    少しずつ集まる情報にステラも“本腰を入れなくては!”とやる気に満ちる。
    情報をひとつ、またひとつと手に入れる度、聞く度に彼女のルビーレッドの瞳はキラキラと輝いていた。
    なお、アズールはイヴェットからの融資金でオクタヴィネル寮内に紳士の社交場を設けるんだ!と息巻いていた。
    それからというもの、彼らから必要以上に話しかけられるようになっていった。
    「ヒトデちゃ〜ん」
    「今、お時間よろしいでしょうか?」
    「あら、リーチ兄弟じゃない…今度は何かしら」
    今日の授業も終わり、寮に戻るだけだと鏡舎に向かっていた時だった。
    突然、不本意なあだ名で呼び止められ振り返ると、ご機嫌そうなフロイドとにこやかな笑みを浮かべたジェイドに見下ろされていた。何度か顔を合わせる度にステラはフロイドから“ヒトデちゃん”というあだ名をつけられていた。最初のうちは反抗して名前で呼びなさい、と言い返していたステラだがとうとう根負けした。
    それからは兄のジェイドからは“ステラさん”、弟のフロイドからは“ヒトデちゃん”と呼ばれるようになった。
    じぃっとステラの顔を見下ろすフロイドは、棒付きのキャンディを口内でコロコロと転がしている。
    無言の圧力に、ステラが気まずそうに視線を逸らした時、ジェイドが口を開いた。
    「ステラさんの探している人魚についてですが、何か思い出したことはありませんか?」
    「え?あぁ…なんか、名前…そう、あたしは二人を…」
    特に親しいわけでもない。二人は日頃はアズールとサンコイチで行動をしている。かくいうステラも幼少期からの癖で一匹狼状態、他の生徒とは最低限しか関わりを持ちたがらない性格だ。
    そんなステラに事ある毎に声を掛けるのだが、今日も、さっさと自室に戻って彼らの情報収集をと思っていた矢先に呼び止められた。
    ジェイドの質問に、まぁもしかしたら…と淡い期待を抱きながら返答しようと口を開きかけた時だった。
    物陰から、一人の生徒が飛び出してきた。その生徒は、ステラの背後から手に持った鈍器で思い切りその頭を殴りつけた。鈍い音がする。
    声を上げる間もなく、酷く強い衝撃でステラは床へと崩れ落ちる。声にならない声を上げて頭を抱え、痛みに苦しむ体を、男は懐から取り出した鎖で拘束する。
    ジェイドとフロイドは、その様子を身動きをも取れずに見つめていた。手を伸ばせば後少しで届く距離。だが、彼らは同じシーンを昔見たことがあった。
    両腕を拘束され痛みに顔を歪めたままのステラを抱えて逃走する男と、まだポツポツと校内に残っていた生徒の叫び声が聞こえる。
    たまたま部活はないから寮に戻ろうか、と通りがかったアズールは、双子の様子と連れ去られるステラの姿を見ると目を見開く、が、瞬時に状況を理解した。
    落ちた鈍器のようなものと血痕、固まったままの双子、そして財界きっての金持ちのお嬢様。
    ああ、これは誘拐だ。彼女の実家に恨みのある人間か、はたまた身代金目的か。その真意は明らかではないが。
    騒がしい校内では、教師を呼びに行こう!とジェイドやフロイドに声を掛ける生徒も現れた。
    だが、ふらりとフロイドは立ち上がると、血痕を追うように走り出す。そんなフロイドの後をジェイドが追う。妙に必死な顔の二人を止めようとアズールは声を上げるが、どうやらその耳には届いていないらしい。
    「全く…僕は彼らの後を追いますので、皆さんは先生達に報告をお願いできますか?」
    振り返りそれだけ伝えると、アズールも走り出した。

    先に駆け出したフロイドが犯人とステラらしき人影を捉えた。学園の制服を着ているが、本物の生徒かどうかは判断しかねる状況に、応戦の為に魔法を使っていいものか悩んでいた。校則で、魔法による私闘は禁止されている。
    あの瞬間、犯人は鈍器でステラを気絶させたが、もしかしたら生徒のフリをした部外者かも知れない。だが本当の生徒だった場合、魔法を先に使った方が不利になる。
    それよりも犯人に抱えられたステラに当たらないわけが無い。
    自分が納める寮生が狙われた事にアズールはどうするべきかは悩みながら数メートル先の双子を追いかける。
    身長差は距離の不利だ。全力疾走をしても距離が縮まらない。
    だが、必死に犯人を追うフロイドとジェイドも、慣れたとはいえ物理法則の違う陸の人間の足に痛みを感じ始めていた。
    三人が必死に追いかける男が、閉じた校門の前で足を止める。距離を詰めるなら今しかない。
    「ッ!ヒトデちゃん!!」
    「ステラさん!フロイド!それ以上は」
    声を荒げて名前を呼べども、彼女が目覚めることはなかった。
    ステラを抱えたその生徒は箒に跨ると学園の向こうの森へと飛び立った。遠ざかる影に成す術もなくジェイドとフロイドが立ち竦んでいると、背後からアズールの呼び声が聞こえた。
    アズールの声に、二人は殺気だった顔で振り返る。あまりのその気迫は、アズールでさえたじろぐ程だった。その後ろからは学園長と、数名の教師が駆け寄ってくる。
    突然の襲撃と、状況を説明すると学園長が考えるように顎に手を当てる。
    ナイトレイブンカレッジは、山の頂上近くに建設され、周りは断崖絶壁。唯一の通行手段の跳ね橋は基本的には使用不可能だ。これは、悪意ある侵入者を拒むための方法である。
    それを逆手に取った犯人達は、この島に住む人間であることは間違いないだろう。そうアズールが予測した時、学園長は続ける。
    「この先の山の中に不審なグループがいるとかなんとか…」
    “不審なグループ”。これがステラを誘拐した犯人の一人ではなかろうか。学園長が続ける言葉に、ジェイドとフロイドが、アズールの方に目線を向けるとコクリと彼が頷いた。その様子を観察していた教師陣は、口々に乗り込もうとする彼らを止める。
    厄介毎に首を突っ込むな。警察に介入してもらうのが一番だ。
    もっともな言葉は、理解は出来る。だが、感情としてはそうも行くわけがない。苛立つフロイドとそれを静止する、静かな怒りを携えるジェイド。この双子をこのままに、事件を他者に「はい、そうですか」と丸投げ出来る状態ではない。
    「学園長、オクタヴィネルは海の魔女の慈悲の精神に則った寮です。言われなき悪意に晒された彼女を助けることは、僕達の寮にとっては至極当然の事なんですよ。それに、僕達のモットーは自己責任です。この先、何かあれば寮長である僕が責任を取りましょう、なにせ、この僕もついていきますので…どうでしょう?」
    「え?えぇ、そうですね!自己責任…ということに…」
    「では、僕たちが放課後、学園の門限まで何をしていても口出し無用ということで…」
    「アズール…」
    「タコちゃん…」
    「但し、お前達は無茶をするんじゃない。僕に庇えないことは特に」
    アズールの決断は、些か横暴ではあった。が、どうやら寮長になってからは初めての出来事な上に、双子の怒りに当てられたのか、自制が効いていなかった。その姿を称賛する双子を尻目に、学園長は大きな溜息を零した。
    手に持っていた杖を一振りすると、目の前で閉じられていた門が音を立てて動き出す。
    「おや、私ってば門を開けるばかりか、うっかり、“うっかり”跳ね橋まで掛けてしまいましたねぇ〜いやぁ、うっかりうっかり…」
    誰も山に入らなければいいのですが〜と惚けたように続ける学園長へ三人が振り返る。
    棒読みのセリフ、周りで頭を抱える教師陣に三人は顔を見合わせると立ち上がった。
    「私ってば優しいですねぇ?無事に戻ってくるんですよ」
    学園長の言葉はもう三人には届いていなかった。

    弾むように駆け出した彼らは、一目散にアジトだと思わしき山へと入っていく。
    何処にあるのか、一体何人のグループで行動しているのか。そんなことはわからなかったが、ひたすら山特有の凸凹した道を下っていく。
    カァカァとざわめくカラスが、こっちにおいで、と誘うように三人を導いている。草を分け、山を進むと、河辺に声を荒げて叫ぶ人影があった。
    見たところその姿は三人。一人はカレッジの制服を着ているが、後のふたりは見る限りは部外者のようだった。体格はそこそこ、といった男達は縛り上げた人影に怒号を浴びせている。
    乱れた金色のツインテールにミニスカートのカレッジの制服。まさにそれは、誘拐されたステラだった。
    「お前らのせいでうちの親は破滅したんだ!!」
    山に木霊するのではないか、と言わんばかりの声とカラスの導きのお陰で、簡単に彼女を見つけることは出来た、が、ここからどうしたものか。今にも殴り込み行きそうな双子の首根っこを掴んだアズールは一旦物陰に息を潜める。
    項垂れたようにただ罵詈雑言を浴びるステラは、無事なのだろうか。状況を理解するまではこの2人を放つのは、自分たちにとっても不利でしかない、とアズールは考えていた。
    「なんとか言えよ!」
    「はぁ…借りたモノは返す、子供でもわかることよ」
    ずっと下を向いていた金髪が揺れ、顔を上げる。強い瞳を覗かせるとステラは吐き捨てるように言い放った。
    酷く感情的な男は反論も出来ずに、その拳を振り上げると、雄叫びを上げながら振り下ろす。
    「…ッ黙れ!!」
    至極真っ当なことを言っている。そんなことは誰の目に見ても明らかだ。だが、今興奮状態の誘拐犯にその言葉は、神経を逆撫でする他ない。
    ステラの制服の襟を掴むと力任せにその顔に拳を振り下ろした。
    鈍い音にステラの体が吹き飛んだ。砂埃を立てて滑るその身体は、地べたに転がるように投げ出された。
    両腕を縛られたステラは、頭を作用点にし体を起こすと、殴られた時に切れた口内の血をぺッと吐き出すと大袈裟に溜息を溢した。
    「で?目的は何?身代金でもママ達に要求するつもりかしら?」
    相手の都合など心底どうでもいい、ルビーレッドの瞳がそう語る。
    暴行を加えても変わらぬ瞳の強さに、苛立つ男が懐からナイフを取り出した時だった。
    夕日がその刃に反射する。
    アズールに制止されていたジェイドとフロイドだったが、流石に鈍器だけではなく凶器まで持ち出した男に、叢から飛び出した。
    「お前たち、勝手に動くな!」
    咄嗟のことに止めることはできなかった。
    先ほどまでの足の痛みはどこへやら。飛び出したフロイドの拳がナイフを持つ男の隣にいた学園の制服を着た男に振り下ろされ、情けない声を漏らして、その生徒も地面に倒れ込んだ。
    その様子に気を取られていたナイフの男には、ジェイドの蹴りが入る。
    弾みで吹き飛んだナイフの所在はわからない。明後日の方向を向いた腕を押さえながら、男はジェイドとフロイドを見上げる。夕日に照らされたその姿は様に鬼のようだった。
    「すみません、僕達、初めての陸生活でそれはもう足癖が悪く…」
    くすくす、と笑いながらジェイドが言う。
    陸生活が短いのなら、逆にその蹴りには繋がらないのでは?と捕まっていながら冷静なステラは思う。だが、流石に刃物に論破はできない。正直助かった、そう思っていた。
    殴られた頬が痛いなぁとか、口の中が血で鉄臭いな、さっさとこの鎖解いてくんないかな、などぼんやり考えながらフロイドとジェイドを見上げた。
    だが、もう一人無傷の仲間がいた事を忘れていた。
    その男は、負傷した二人を横目にステラの背後に回ると鎖を引っ張り、彼女を自分の方へと引き摺り寄せる。
    角張った岩と砂に擦られステラは顔を歪める。その男はステラを盾のように自分の前に立たせると双子から少しずつ距離を取る。
    一部始終を見ていたアズールもその場に現れると、フロイドとジェイドも改めて対峙する。
    「それ、俺たちのなんだけどさぁ、返してくんね?今なら許してやってもいいかも、なぁんて」
    「く、来るな!!」
    フロイドが口を開く。鋭い眼光で睨みつけると、ステラの背後で男が息を飲む。仲間達がやられた事で、形勢は不利。どう足掻いてもこの目の前でまだ十代の子供が出す威圧とは思えないオーラに、その足は震えた。
    ジリジリと、少しでも逃げ場を求めて後退するが、もうそこには街へと流れ込む滝しかなかった。

    あと数歩下がれば、落ちるしかない。逃げ道はそれしかないが、男には飛び込む勇気はないようだった。
    これ以上の交渉は無駄でしょう、そうアズールが言うと双子がステラと男へと足を進めた。
    ステラの背後で来るな、やめろ、と震えた声を上げる。
    捕まったままのステラは、瞼を閉じて深呼吸を一つ。ゆっくり顔を上げると、まずはアズールへと視線を向ける。口元に笑みを浮かべると、そのままジェイドとフロイドへと向き直る。
    「ジェーくん、フーくん」
    「は、?」
    「その呼び方は……」
    懐かしい呼び名を口にしたステラは、二人の顔へ交互に目線を合わせ、いつもとは違う、あの、懐かしい笑みを浮かべた。
    「やっと、会えたね。すぐ、そっちにいくから待ってて」
    にへ、と柔らかな笑みは、10年近く経った今も変わらない、記憶の中で最後に見た笑顔だ。
    ああ、やっぱり。ジェイドとフロイドは顔を見合わせた。アズールがステラに渡す情報を調べている時に、何度も二人で彼女に質問をした。
    その回答は、ジェイドとフロイドの記憶と一致していた。
    だが、確証がなかった。珊瑚の海でも好奇心旺盛なのは、自分たちだけではないだろうから。
    万が一があるかもしれない。そう思い、誘拐される直前に、点と点を繋げる為に質問をしていた。
    名前、というワードに期待しなかったわけではない。だが、まさか。
    目を見開いたアズールも、やはり、と溢していた。いや、入学式のあのやり取りからずっとそうかもしれない、とアズールは考えていた。双子よりも先に可能性に気づいていたのだ。
    だが、続く言葉は理解できなかった。もしや自力で脱出可能なのか?そういえば彼女は飛行術や体力育成の授業を得意としていた。
    もしや、まだ鎖を握られているにも関わらず、男を滝壺にでも落とすつもりではなかろうか。
    そんなことになったステラも無事では済まないだろう。最悪のシナリオが三人の頭の中には出来上がっていた。
    アズールが風魔法でなんとか助けられないか、とマジカルペンを取り出すのと同時に、ジェイドとフロイドが駆け出した、時だった。

    「私は太陽の影。見たくない真実と嘘を映し出す光。
    ……最高の夢を見せてあげるわ!
    泡沫夢幻モノクローム・ノクターン”」

    ステラの低い声の詠唱が終わると眩い光がその場を包み込む。これは、ステラのユニーク魔法だ。悪夢を見せる、という幻覚の一種だが、彼女のそれは対象者が“一番恐怖を憶えた夢”だ。内容は十人十色。
    ユニーク魔法は、基本的に他人にどんな効力や内容かをわざわざ伝えることはしない。それこそ、もしもの時の切り札である。
    微睡のような光は黒いインクを溢したように闇へと変わっていく。不気味な靄が、ステラと男の周りを漂っていたが、突如、彼女を拘束していた男が「ひっ」と声を上げた。
    その声に三人は改めて、ステラ達に視線を向ける。怯えた声を上げる男は、来るな、と呟いた。一体何に向かっていっているのか?状況が読めない三人はどうするべきかわからず、佇んでいた。
    だが、段々と男の動きが激しくなっていく。ステラの鎖から手を離すと、必死に自分の頭を抑える。目に見えぬモノを必死に手で払おうとしたのだろう。
    やっと解放された、そう思い気が抜けていたステラにその男が思い切り倒れ込んできた。
    靄の中に何かを振り払おうと大きく振りかぶった手は、ステラを滝壺に向かって払い落とした。彼には、ステラが違うなにかに見えていたのだろうか。
    まだ鎖で拘束されていたステラは、抵抗するすべもなく滝壺へと吸い込まれていく。
    「ステラさん!!」
    「ステラ!!」
    ジェイドとフロイドが、聞いたこともないような大きな声を上げながら、制服から取り出した小瓶の中身を口に含むとステラが落ちた滝へ飛び込んだ。


    陽の光を浴びて輝く水面は、まるで宝石のようだ。
    ステラは沈みながら思った。やっと解放された、と安堵したのも束の間、視界が反転して気づけば息を吸い込む間もなく水の中。止めた息は、何時まで持つかは分からない。
    『そういえば、あの時もこんな感じだったわ』

    幼い頃の記憶。
    もしかして、これは走馬灯?ステラは沈みながら考える。
    『ああ、くるしい、たすけ、て』
    蘇る記憶にその瞳を閉じた。
    「ヒトデちゃん!」
    「ステラさん!」
    自分を呼ぶ名前が聞こえた気がしたステラは、ゆっくり瞼を開ける。そこには、何度も遊んだ双子の人魚の男の子がいた。成長した姿は、あの日とは比べものにもならないくらい大きく、長い。鮮やかな、特徴的な肌の色。
    視線を移すと、そこにはジェイドとフロイドがいた。沈む体を支えるように二人の腕に包まれると、安心したステラは瞼を閉じる。
    『   』
    幼い頃、海に投げ落とされた時に助けてくれた“人魚の友達”そして“初恋の王子様”。
    涙一粒、水に溶ける頃、ステラは意識を手放した。
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