風邪気味の女の子と萩原さんなんとなく喉に違和感はあるが、熱は無し。おそらく花粉症の影響だろうといつも通り出勤してみたものの、夕方頃にはなんだか少し寒気と怠さが出てきていた。動けない程ではないし、定時まではあと1時間くらい。まぁ、何とかなるだろうと他の部署へと書類を届けに出れば、見覚えのある顔とすれ違った。
「お疲れ様です」
「お疲れさん♪ 🌸ちゃん」
彼はたしか機動隊の萩原さん。由美に連れて行かれた合コンで何度か話したことがあるだけなのに、すぐに名前が出てくるなんてモテる男はやはり違う。
そんな事を考えながら目的の部署へ足を向けようとすると萩原さんに呼び止められる。
「どうかしましたか?」
「なんか顔色悪くない?」
「そうですか?」
花粉症対策でマスクもしているし、人に気付かれるほど体調が悪い自覚は無い。少し寒気はあるけれどもしかして熱でも上がってきたのだろうか、そう考えたところで額にひやりとした何かが触れた。気付けば目の前にある整った彼の顔。私の額と自分の額に触れ、どうやら私が熱を出していないか確認しているらしい。
「んー、微熱くらいか」
「……これは落ちる人が続出するわけだ…」
熱のせいか、思ったことがついそのまま口をつく。はっとして、すみません!!と謝りながら一歩後ずさると萩原さんはどこか楽しそうな笑顔を浮かべて、広げたはずの距離を簡単に縮めてくる。
「君は落ちてくんないの?」
この熱さはきっと熱のせいじゃない。上手く回らない頭は思考を放棄したのか、萩原さんの言葉の真意を考える事も出来ず、ただただ体温が上がっていくのを感じる。
「じょ、冗談ですよね!?」
「どうだろうな?俺、もうすぐ上がるから送ってくよ」
じゃあ後でと手を振る彼の背中を呆然と見送る私はこの後、彼の本気を目の当たりにするなんて微塵も思ってはいなかった。