悪ふざけ コスプレ大会をやろう。そう言い出したのは誰からだっただろうか。流行病のせいで祭りは潰れ、海にも行けず、満喫できないまま今年の夏が終わろうとしていた。このままではまたつまらない日々を過ごしてしまう。そこで何故コスプレに繋がったのかはわからないが、暇を持て余していた一同は揃って賛成した。
「それで、みんなで買いに行くの?」
アイクがそう聞くと、ヴォックスがいや、と首を振る。
「各自二個買ってくることにしよう。 もちろん一人でだ。 サプライズがあった方が盛り上がるからな」
「POG! おもしろそうじゃん!」
言うが早いか、各々出かける支度をする。ミスタと言えば、面白そうだけれど外に出るのは面倒くさいなと通販サイトを開いていた。しかし、どれも一週間後配送だとかでコスプレ大会に間に合いそうにない。仕方がない…と、重い腰を上げる。近くにそういう店は何店舗あっただろうか。マップを開いて、めぼしい店を探す。せっかくなら、シュウに似合う服がいいななんて思いながら。
シュウは悩んでいた。コスプレ大会に何を持っていくか。目の前にはメイド服、セーラー服、ナース服など激安の店ではよく見たようなラインナップが揃っている。何が一番ミスタに似合うだろうか、そう考えながらまた売り場をぐるり一周する。そもそも、こんな安っぽい店で買うんじゃなくてコスプレ専門店でドレスを買ったりした方がいいのでは無いかなんて思ったりして、そんなの持っていったら一人だけガチすぎるなぁと苦笑を零す。迷いに迷って選んだのは、白いナース服とミニスカメイドだった。
「つうかさ、一人二個ってファッションショーでもするつもりなのかね」
ミスタは一人ボヤきながらコスプレ店にいる。コスプレ店、といってもパンク系衣装や地雷系衣装など多種多様に揃えられている。恐らくメイドやセーラー服などのメジャー所は他のメンバーが買ってくるだろう。それならば、違う系統を買った方が面白い。地雷系衣装を手に取り、これを着たヴォックスを想像する。あの清廉としたいでだちで地雷系ファッションをキメるのは正直ウケる。面白すぎる。地雷系は誰が来ても面白い、そう確信を持ちカゴにぶち込む。ゆるふわと可愛いフリルがもっと丁寧に扱えと泣いていた。あとはもう一着だが…ミスタは悩んでいた。シュウに似合う服を選びたかったからだ。みんなに合わせるならば女装物を買った方がいいだろう。しかし、シュウはヴァンパイアや執事服等、男性らしい方が似合うだろう。しかし…。…悩んで悩んで、最後に決めたのは初めに目に付いていたヴァンパイア衣装だった。
「よし、みんな帰ったな」
ヴォックスの声で、全員が買ってきた袋を見せつける。それによろしい、と声を上げコスプレ大会がスタートされた。
「ちょっ、ヴォックスの買ってきた服万単位のやつじゃん! ちょっとしたお遊びに金かけすぎだろ!」
「こういうのは本気でやらないと楽しくないだろう?」
けらけらと笑うヴォックスに、ミスタは苦笑を浮べる。そんなミスタもほかのメンバーに比べると上等なものを買ってきているので人のことは言えないのだが。
「ねえねえ、これどれを着たらいいの? シャッフルしてランダムで着ることにする?」
「いや…」
ルカがそわそわしていると、アイクがちらりとミスタに目をやった。そして、買ってきた衣装を見られる。
「はじめは各自が似合いそうな服にしようよ。 ルカはこのロリータなんかが似合うんじゃないかな。黄色いフリルがあって素敵だよ」
だらりと汗が吹き出す。シュウに似合う服を選んできたことがバレている。周りを見てみれば、シュウはみんなの選んだ服を面白そうに見ているが、ヴォックスはミスタを面白そうに観察していた。やはり、ここの二人に誤魔化すことは出来ないらしい。なるべく平静を装い、あー、と声を出す。
「これとかさ、シュウ似合うんじゃない?」
そう言って手渡したのは例のヴァンパイア衣装。着て欲しい、見てみたい。ドキドキと胸が鳴る。
「えぇ、そうかな? ていうかミスタ、カッコイイの選んできたね。 うーん、これが似合うって言われるのは悪い気しないかも。 じゃあボクはこれにするよ」
ぱぁっと、ミスタの顔が明るくなる。
「絶対似合うと思う、賭けていい」
そんなに?とシュウは笑う。それじゃあ、ミスタはこれとかどう?と言って手渡されたのはミニスカメイド衣装だった。
「Hey…シュウ? なにかの冗談か?」
「いいや、全く」
ミスタ前に猫耳メイド着てたでしょ、だからこれも似合うと思って、なんて悪意のない顔で言われる。本気で似合うと思われている。
「別に着るけどさ…他の衣装だって変わんないし…。でも俺、別に似合わないからな」
渋々メイド服を受け取ると、似合うよと念押しされる。どこからその自信が来るんだ。
最終的にルカがロリータ、ヴォックスがお嬢様風制服、アイクがクラシカルメイド、ミスタがミニスカメイド、シュウがヴァンパイア衣装を着ることになった。それぞれ着替え、ゲラゲラと笑いながら似合う似合うと言い合っていた。一部を除いて。
「シュウ、やっぱそれ似合うよ」
ミスタは少し顔を赤らめて言った。想像していたよりかっこよくて、胸が高鳴る。自分のチョイスに間違いはなかった。
「ミスタこそ、メイド服似合ってるよ」
「…御奉仕するにゃんっ♡」
「んははッ! 可愛い可愛い!」
にこにこと笑うシュウは、愛おしいものを見つめる目をしていた。あ、と声を出しミスタの肩を引く。
「え、なになに」
びくりとミスタが肩を震わせると、シュウは写真、と。
「せっかくなら残しとこうよ。 あとで皆とも撮ろう」
カシャ、という音とともにシュウのスマホに二人の姿が残る。
「…あとでそれ送って」
「もちろん」
そんなやり取りを、三人はにこやかに見守っていた。
「全員で集合写真を撮ったわけだが、なんと言うか…」
「シュウのハーレムって感じだね」
「否定しないよ、流石にこんなに囲まれてるとね」