サリ視点ぼんやりと、寄せて返す波を見て、砂が攫われていくのを素足で感じながらなんでだか一人で海にいる。
行こう、と、誘ってみたものの、どうやら自分の言葉はどこ吹く風みたいだったようで耳だけが時折りピクリと声を拾って反応する。
返ってくる言葉は当たり障りなく、ここ最近のいつもの彼だった。
そんな彼の態度を暑さのせいにしてしまおうと声をかけたら、そのままややあって逃げるように用事を思い出したと帰って行ってしまった。
またね、と。
笑って言えれば良かったのだろうけれど、ここ数ヶ月幾度目のことだろう。
いよいよ寂しさしか顔に出せなくなってしまって、うん。とだけ。
だから今、一人で浜辺にいる。
極力意地悪なことはしたくない。
自分の事など気にせずにいつもの彼でいてほしい。
だけど気がついて欲しい気持ちが先行して態度に出てしまう。
気がついているからこそ、こんな態度を取られてしまうんだろうか。
それならもう少し引けばいつも通りに………あの日の前の様に接してくれるんだろうか。
なんてぐるぐる考えていたら突然の波に足元を掬われて、転んでしまう。
我ながら情けない声をあげて水飛沫が上がった。
濡れて仕舞えば起き上がる気にもなれずにそのまま半分海に浸かりながら空を仰ぐ。
目を焼くような眩しい日差しは、そんなに好きじゃない。
茹だるような暑さも好きじゃない。
好きじゃない、好きじゃない、好きじゃない。
波の音を聞きながらあれもこれもと羅列する。世の中には好きじゃないものが多すぎる。
暗いところも、うるさすぎるところも、静かすぎるところも。
一人でいることも。
「 っ……ぅあ、…」
一つ大きい波に覆われて、慌てて身を起こす。
思いの外気管に入った海水が辛くて、吐き出そうと咳をして涙目になる。
本来ならどれもこれも好きなんだ、好きでいなければならないんだ、昔のことを思い出したら辛いものに直結する事が多すぎて無理矢理好きだと思い込んで、そしたらどれも好きになったのだから。
日差しが強い日の空の青さ
茹だるような暑さの中ではいる海
風に乗って聞こえてくる誰かの笑い声
…話しかけたら、笑ってくれる隣の君
俯いて水面に映る自分の情けない顔に、いよいよ辛くなって咳と一緒に嗚咽を吐いた。
そうしたらもう、止まらなくなってしまって。
涙が波に飲まれていく。
すんなりと入る君の声が
撫でてくれる手が
ふとした時に柔らかい色を見せる君の目が
初めて会った時から嫌なものは感じなくて、ただ純粋に友達になりたくてそこからゆっくり大事に積み上げた気持ちが
普段ならなんて事ないのに、君の言葉に行動に気持ちを揺らされて、初めて人に何をされてもいいよと心から思えたのに。
君には、俺の気持ちはいらないものだっただろうか。
ゆるりとかぶりを振って、項垂れる。
彼といると何でも大事なものに思えるのに、彼がいないと一気にどうでも良くなってしまうようになってしまった。
あの日重ねた唇と、体と。
気持ちは重ならなかったのだろうか、それとも重ねてはいけなかっただろうか。
ひとしきり泣いてから、ようやっと立ち上がる。
何を思ったって、自分の彼が好きな気持ちは、はっきりとしている。
体だけの関係だというのなら、もう少し普通に接してくれるのではないだろうか。
何か、思うところがあるから、考え事が多くなっているのだろう。
その考え事が自分にとって良いものでありますように。
そう思うことしか今の自分には出来なかった。
悪い事を考え始めたらいくらだって出てきてしまって余計に落ち込んでしまうから。
ずび、と鼻を啜って自分の体を見渡す。
あの日彼が付けてくれた痕が少しでも残ってくれていたらいいのにと思って、でも、数ヶ月も前で。
思い出して、一人で慰める日もあるのだから重症だとため息をつく。
こんなモヤモヤした気持ちは、ずっとかかえていてはいけないと、歩き始める。
何かしていないとまた涙目になってしまいそうで時折足を止める。
かといって、思ったより早めに開いてしまった時間だ。
何をしようかと考えながら、途中から鼻の奥がツーンとなるのを堪えてトボトボと一旦家に戻ることにした。