優良物件、紹介しますまたしても彼氏に振られてしまった。
今度の彼氏は二年も続いたのに……。
結構イケメンで、お金もあるし、優しいし、嘘のつけない誠実な人。
仕事にも理解を示してくれてたのに。
久しぶりに会おうと言われ、何だか真剣な面持ちだったからプロポーズでもされるのかと思った。
そしたら「他に好きな人が出来た。別れてくれ」だって。
もうやってられない。
誰かに聞いてもらいたい!
そう思って硝子さんの所へ行くと、ドアの前に「ただいま外出中」の札が下げられていた。
愕然とした。
他に聞いてくれそうな人もいないし。(こういう時に限って五条さんは出張中)
トボトボと廊下を歩いていると、執務室から人の気配がした。
誰がいるんだろう。
私は淡い期待を込めながらそっと扉を開ける。
そこには一つ先輩の七海さんが居た。
正直、七海さんか……と思いつつも、誰でもいいから聞いて欲しい欲には勝てず、私は七海さんに声をかけた。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です」
いつも通りの無表情。
でも今はそんなの関係ない。
「七海さん、聞いてください」
「何でしょう」
お、意外な反応。
私は彼の隣の椅子に座り、話し始める。
「彼氏に振られました。二年も付き合ってたのに」
「…………」
む、無言。
いや、負けない!
「うまく行ってると思ってたんですよ!二年も付き合ってるし、そろそろ同棲して結婚かなとか思ってたし」
「…………」
「それなのに、好きな子ができたとか言うんですよ!?酷くないですか!?」
「それは酷いですね」
「でしょ!?」
七海さんに同意して貰えたことが嬉しくて私のトークはヒートアップする。
「仕事にも理解があったし、お金もあるし、優しいし。私だってできる限りの努力はしたんですよ!?何がいけなかったんですか!?」
「それは私にはわかりませんが」
「ですよね……」
「新しい相手なら紹介できますよ」
「え?」
思いもよらぬ発言………。
驚いて七海さんの綺麗なお顔を見つめてしまう。
「失恋を忘れるには新しい恋が良いと言いますし」
「まぁ……言いますね」
七海さんならそんな事も必要なさそうだけど。
「聞いてみますか?どんな相手か」
「折角なので」
私が答えると、パソコンに向かっていた七海さんがこちらへ体を向ける。
「まず、仕事はできる方だと思います。そこそこの地位もありますし、周りからも信頼されている方だと思います」
「ふむ」
「お金もありますし、優しい方だと思います。何より浮気は絶対にしません」
「いいですね」
「誠実だと思いますし、見た目も悪くないと思います。歳もあなたと一つしか変わりませんし」
かなりの優良物件ではなかろうか。
むしろ裏がありそうな位だ。
結婚詐欺レベル。
「あなたの仕事にも理解がありますし、あなたの事を支えてあげられると思います」
ん………?
なんか言い方が……。
「あなたの為なら何でもできます」
いや、この言い方はもう……。
「どうですか?かなりの優良物件ですよ」
「え、それって……」
「私です」
やっぱりー。
そんな感じしましたよ。
そりゃ七海さんなら完璧でしょうよ。
周りからの信頼も熱い一級術師。
社会を経験しているから大人オブ大人だし、紳士。
一級だからお金もあるだろうし、見た目はこれですよ。
金髪に綺麗なお顔に適度に筋肉の着いた肉体。
寧ろ非の打ち所がない。
「あなたを振った男がどんな人間かは知りませんが、その人よりあなたを幸せにする自信があります」
「え……七海さんて、私の事……」
「好きです。高専の頃から」
マジかーー。
私は両手で顔を覆い天を仰ぐ。
「私達は呪術師なので、正直いつ死ぬかはわかりません。あなたを遺して逝く位なら、私ではなく他の誰かと幸せになってくれればいいと思ってました」
「はぁ……」
「しかし、そんな話を聞かされては黙ってられません。もう私にしましょう」
「もうそれは押し売りでは……」
「押し売りでも構いません」
七海さんは立ち上がり、私の目の前で片膝を着いた。
それ、プロポーズの時にするやつでは……。
「ゆめさん、好きです。私と付き合ってください」
私の手を取り、真剣な眼差しで私を見つめる。
そんな綺麗なお顔で迫られたら「NO」なんて言えないでしょうよぉ……。
「うぅ……好きなのは嬉しいですが……私まだ七海さんのこと好きなのかどうか……」
「それは問題ありません。好きになってもらう迄諦めませんから」
押しが強い……七海さんてこんなに押しの強い人だったっけ?
「えぇ……前の彼氏と別れたばかりなのに、軽い女とか思いません?」
「思いません。寧ろ好都合です。あなたが手に入るなら」
怖い、もうここまでくると七海さんの圧が怖いよ。
「……わかりました。よろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
七海さんは嬉しそうに目を細め、私の手の甲にキスを落とす。
はわわわ……王子がいるぅー。
「では、さっそくこの後私の家に」
「はい?」
「まずは私がどれだけあなたを好きか分かってもらわなければ」
「えぇぇ……」
「家では不安ですか?それならどこかの店でも構いませんよ」
いや、どこぞの店の中で愛を囁かれても恥ずかしい!
「いえ……七海さんの家で……」
私が答えると七海さんはすぐにパソコンの電源を切り、私の方に向き直る。
「あれ、報告書書いてたんじゃ……」
「そんなのとっくに終わってます。あなたに会えないかと時間を潰してただけなので」
「え……」
思わぬ返事に七海さんをじっと見てしまう。
「それくらいあなたの事が好きだという事です」
綺麗な翠の瞳が私を射抜く。
あぁ……こりゃ私が七海さんに惚れるのも時間の問題だな。
七海さんは私の手を握り、いつもより緩んだ口元で私を彼の家へと誘うのだった。
「そんな面白い話、なんで僕にしてくれなかったのー」
「全くだ」
二つ上の先輩方に七海さんと付き合った報告も兼ねてことの経緯を説明すると、不貞腐れた顔で言われた。
「いやいや、お二人ともいなかったんですもん」
「でも、僕たちのおかげで付き合えたって事だよね?」
「そうなるな」
「まぁ……結果的にそうなりますかね?」
「僕七海に何買ってもらおうかなー」
「私は旨い酒だな」
「え……ちょっと待って、お二人も知ってたんですか?七海さんが私の事……」
「「もちろん」」
「だって七海バレバレだったよ?ねぇ?」
「あぁ」
「任務が無いのに談話室にいたり、報告書終わってるのに校内ウロウロしたり」
「マジか……」
「え?ゆめ、本当に気づいてなかったの?」
「はい」
「「マジか……」」