五分あったら「七海ぃ」
「はい」
「五分あったら何ができるかな?」
「何です急に」
「いや、このカップ麺が五分だったから何となく」
「はぁ……」
昼時を過ぎた待機室。昼食を食べ損ねた○○が買い置きのカップ麺の出来上がりを待っている。彼女の座るソファの向かいで待機をしていた七海は、彼女のどうでも良い会話に付き合わされる事となった。
「五分あったら……低級呪霊なら結構倒せるかな?」
「そうですね」
「黒閃出せるかな?」
「それは無理かと」
「後は……七海、何かある?」
「そうですね……」
そう言った七海は、徐ろに立ち上がると彼女の隣に座る。彼女は急に移動してきた七海に首を傾げた。
「ん?」
「貴女を口説ける」
「は?」
七海の大きな両手が彼女の頬を包む。
「キスも出来ますね」
「あ、や、ちょ」
二人の顔が近づき、唇が触れ合いそうになったその時……
ピピピピピ ピピピピピ ピピピピピ
「おっと、残念ですね」
タイマーが鳴り、七海が彼女から距離を取った。彼女の頬にあった七海の右手は彼女の柔らかい唇を撫でてから離れる。
「タイマー、鳴りましたよ」
「あ、うん」
狼狽えながらタイマーを止めるが、今しがたあった出来事に驚き過ぎて食事どころでは無い。
「え、あ、七海、今の……」
「食べないんですか?」
「あ、食べるけど……」
七海に言われ仕方なく蓋を開けて箸を手に取る。
「続きを御所望でしたら」
「はっ」
「恋人になってください」
「なっ」
「私は恋人以外にはキスしませんので」
彼は足を組み、余裕そうに微笑みながら言った。
「さ、さっきしようとしたじゃん!」
「しましたよ」
「じゃ、じゃあ――」
「逃がす気は無いので」
「はい?」
「最初から貴女を落とすつもりなので。多少順序が逆になっても問題ありません」
「なっ」
「貴女も満更でもないでしょう?」
「そ、それは……」
「まずはそれを食べてください。それからゆっくり話しましょう。私の家で」
「な、何で七海の家……?」
「貴女も野暮ですね。全てここで言わせるつもりですか?」
ニヤリと口角をあげて笑う七海に、彼女は赤面するしか無かった。