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    ●ゆあまい展示
    🍩『休日デートする話』
    ラギー編/15:00更新分

    ・WEBアンソロ参加作品
    ・プリオンリー『Kiss Petit』参加作品

    ※捏造大盛り。6章のネタバレがあります。

    #twstプラス
    twstPlus
    #ラギ監
    lagiAuditor
    #女監督生
    femaleCollegeStudent

    ラギー先輩とデート≪遊ぶ≫●11:00ー遊ぶ



    「ラギー先輩」

    ぽつ、と小さく。でもオレの鼓膜の直接届くような透き通る声で名前を呼ばれた。
    勝手に耳がピクピク動いて、その声が発された方に向く。
    耳よりワンテンポ遅れて視線を向けると、数メートル先に彼女の姿が見える。待ち合わせ場所にしていた噴水の飛沫が、朝の光を纏ってキラキラ彼女に降り注いでいる。笑顔で手を振る監督生くんと霧のベールが見事にマッチしていて夢みたいに綺麗だった。
    一瞬見惚れて止めてしまっていた足を慌てて動かして人混みの中をスルスル掻き分けていく。1歩1歩近付く度に、朝のバイトの疲れが嘘のように身体から抜けていった。

    「監督生くん!お待たせっ」
    「おはようございますラギー先輩、早くからバイトお疲れ様でした」

    オレの声が届く範囲まで距離が縮むと、監督生くんがトトトと駆け寄ってきた。
    あー癒される。すっかり破顔しちゃって、オレに会えてそんなに嬉しいんスか。
    目の前までやって来た彼女の丸い頭を一撫で。それに答えるようににっこり笑って、サッと腕を組まれた。今日は随分積極的な気分らしい。

    「えへへ…久しぶりの外出デートなんで浮かれちゃって…」
    「それはオレもッスよ。今日の為に金貯めといたんで、1日楽しみましょ」
    「わぁ!」

    珍しくオレが「今日は金を使うぞ」宣言をしたものだから更に浮かれた声を出した彼女。
    まだ何もしてないのに。この調子じゃ帰りは疲れちゃうだろうな、とこっそり苦笑して歩き出す。

    「せんぱい、今日どこ行きますか?」
    「んーそうッスねぇ」

    オレたちのデートは大抵行き当たりばったり。付き合いたての頃はツイステッドワンダーランドを知らない監督生くんのために賢者の島を案内したり、必要なものを買うのに付き合ったり、逆に行っちゃいけない場所を教えたりしていた。
    最近はだいぶこの世界にも慣れたみたいで、学園から近い所なら1人で出掛けたりもしているらしい。
    だからオレと2人の時はこれと言って明確な目的を持たず、お互い騒々しい学園生活を忘れるようにブラブラのんびり過ごすことが多かった。
    いつもそんな感じだから、今日も行き先に迷ったような声を出したんだろう。
    でも実は今回、ちょっとだけプランがある。いやプランと言うほどでもないか。ただ、少し足を伸ばして行ったことのない所に連れて行ってみても良いかな、と思っているわけで。

    「今日はオレに任せてくれます?」

    僅かに不思議そうな顔をしてキョトンと首を傾げた後「もちろん!」と元気よく頷いた彼女が可愛かった。
    まるで子供みたいな仕草なのに、しかしほんのり漂ってくる香水はウッド系の香りで大人っぽい。これはオレが甘すぎる香りが苦手だからで、本当はフローラル系が好きなんだろうけど、オレに合わせて選んでくれたもの。
    好みの香りを好みの女が纏って隣を歩いてくれる、こんな優越感は他にない。

    「今日は何のバイトしてたんですか?」
    「新聞配達ッス」
    「へぇ!でも新聞って定期的にやらなくて良いものなんですか…?」
    「号外が出たから、箒使って運べる人材が欲しいってんで臨時で来たんスよ」
    「なるほど!こっちにも日雇いとか派遣登録みたいなシステムがあるんですね?」
    「んーーうん。まぁオレの場合は8割コネ」
    「さすがでございます」

    2人でアハアハ笑いながら暫く進むと、ある施設に辿り着いた。実は此処、さっきまでオレが働いていた新聞社。結構大手で、支店だと言うのに5階建ての自社ビル。表にはデカデカとした文字で“The Dawning Times”と書かれている。
    デートスポットとしては明らかに相応しくない場所に連れて来たので、流石に監督生くんもおかしく感じたらしく、頭の上に頻りにクエスチョンマークを浮かべている。逆の立場だったらオレも困り果てただろうな、と思いつつ、構わずズンズン進む。

    「すいません、ワイルドさんいますか?」

    エントランスの自動ドアを堂々抜けて、受付のお姉さんに話し掛けた。
    さっきバイトを終えて出て行ったはずのオレが再び現れ、しかも女連れなもんだから驚いたらしい。
    目を瞠ったお姉さんは直ぐに取り繕って仕事をする。内線でワイルドさんに取り次いでくれているのだ。
    ワイルドさんというのは、ここの人事を担当してくれているイノシシの獣人のおっちゃん。コワモテなのによく笑う人で、何となくオレの持ってる貯金箱に似てて可愛い。
    名前の通りワイルドな性格で、人の扱いもさっぱりしているし、評価は能力を優先してくれるからかなり好きなタイプの大人。そんなワイルドさんに、職権濫用してまでデートの協力をしてもらえるほど気に入られるのは訳なかった。

    「おおラギー、おかえり」
    「はぁい、さっきはどうも〜」
    「お、彼女が言ってたガールフレンドか、可愛らしいな」
    「でっしょ〜」
    「なんだ自慢か?羨ましい奴め!」

    エレベーターから降りてきたワイルドさんが、オレを見つけて直ぐに気さくに話しかけてきた。監督生くんも巻き込んで話題に上げるもんだからつい調子に乗って惚気てしまいそうになる。
    そんなことよりまずは監督生くんにさっさと紹介しねぇと。ジャックくん並みのガタイを持つワイルドさんを見てすっかり縮こまってら。

    「監督生くん、こちらワイルドさん。ここの人事でオレに仕事くれる人」
    「あ、は、はい!初めまして」
    「はい初めまして。いやーちっこいなー!」
    「ワイルドさんからしたら全員ちっちゃいでしょ!…そんで、今日はこのワイルドさんにご協力いただいて、ちょっと遠出しようと思いまーす」
    「遠出…?」
    「そ。ゼーったい楽しいッスよ!」
    「おう、それは俺が補償する!」

    男2人で女の子1人に詰め寄る図は傍から見たら恐ろしい光景かもしれないが、誓ってオレたちは怖がらせたいわけではない。寧ろ彼女を喜ばせることしか考えていないので世の中の甲斐性無し男共には見習ってほしい。
    ちなみにワイルドさんも自他共に認める愛妻家だ。

    「さて、ここであれこれ言ってても訳分らんだろうから、移動しようか」
    「そッスね。監督生くん、こっち」
    「あ、はい!」

    名前を呼んで、またトトトと寄ってきた彼女が自然な流れで腕を組む。
    慣れきったその仕草にほくそ笑んでいたら、その顔をうっかりワイルドさんに見られてニヤつかれた。うーん不覚。

    エレベーターに乗り込み、5階へ。
    そこは大広間のようになっていて、向かって正面と左右の3つに分けるためのパーテーションが有るだけだった。
    ただしエレベーターホールと広間の境目には透明の壁があり、直接向こうへは行けない。限られた社員の虹彩認証と魔力認証のダブルチェックを経て、初めて開錠されるようになっている。
    ここが一体何の空間かと言うと。

    「ここからね、黎明の国に飛べるようになってるんだよ」
    「えっ」
    「今朝みたいに号外が出た日なんかは、ラギーのような魔法が使える配達員に黎明の国の本土まで行ってもらっているんだ」
    「すごい…!NRCの闇の鏡みたいな感じですか?」
    「アレよりは性能に劣るが、似たようなもんだよ。ここにあるのは行き先が固定されてるから」
    「そもそも賢者の島って黎明の国の土地だから、同じ国土なら魔力も同じ波長が流れててリンクさせやすいんスよ」
    「そうなんですか!?知らなった…!」
    「闇の鏡が優秀過ぎるんスよね。国宝級の代物ッスよ」
    「うそ、何気なく使っちゃってた…」

    監督生くんが一頻り驚いてくれて大満足の男2人は、広間に踏み込んで一番右のパーテーションの奥に進んで行く。
    開錠する前は壁に張り巡らされた魔力でカモフラージュされていたが、近付いてみると仕切られた3つの空間それぞれに鏡が置かれている。鏡の上にそれぞれ黎明の国の土地名が書かれていて、オレたちが相対している鏡には“Origin of Magic”とある。

    「つーわけで、今日の行き先はこちらッス!」

    鏡を掌で指し示す。
    すると彼女の顔はみるみる輝いて言って「ステキ!!」と大声で叫ぶのだった。

    「それじゃ、行ってくるッス!」
    「行ってきます、ありがとうございます!」
    「はいよ、帰る時は連絡くれ。今日はここに泊まる予定だから」
    「りょーかいッス」
    「あんまり遅くなるなよ」
    「はいはーい」
    「気をつけます」

    預けていた箒を受け取り2人で跨る。監督生くんがオレの腰にぎゅ!としがみついたのを確認してから浮上させた。
    手を振ってくれるワイルドさんに見送られ、勢いよく鏡に飛び込めば、漸く今日のデートの本番がスタートだ。





    Origin of Magic。つまり魔法発祥の地と言われている、黎明の国の西側。
    ここにThe Dawning Times(ドーイングタイムズ)の支社はなく、ワープスポットの目印としてバス停のような電話ボックスのような、狭い小屋に降り立つ。
    さっきまで居た近代的な社内とは全く違い、全体的に緑でオシャレに塗装された小さいスペースだった。
    鏡でのワープはもうお手のもので、監督生くんは一切ビビっていない。むしろ到着したこの場所を1つも見逃すことがgないようにか、興味津々に周囲を見回している。

    「監督生くん、ここはただの乗り場ッスよ」
    「そうかもしれないんですけど、珍しくて…!」

    本当に嬉しそうにそう言うのでオレも勝手に心が和む。
    これからもっと色んな所に行くってのに、ここで感動を使い切っちゃわないか心配になる。

    「じゃ、こっから2択ッス。先にワイワイガヤガヤするか、それとものんびりするか」
    「えっえっ何ですか!?」
    「どうせどっちも行きますんで、お好きな方をどーぞ」
    「えーっ!じゃあ…先にワイワイします!」
    「ぷはっ!りょーかいっ」

    真剣な顔して「ワイワイします!」とか言うもんだから、オレが選ばせたくせに思わず吹き出した。

    「はい、乗って」

    ワイルドさんから預かっていた小屋の鍵で施錠して、もう1度箒をスタンバイ。
    小屋の外は家も店もほとんどない丘の上で、移動するには車か箒が不可欠だ。だからこっちまで配達に来るバイトは魔法士限定ってわけ。
    背中に監督生くんの体重を感じたので、浮上。たまにマジフト部の見学にも来る彼女はすっかり箒にも乗り慣れていて、わざわざ声を掛けて確認せずとも安定して乗れているかは感覚で分かる。

    「さ、街まで繰り出すッスよー」
    「お願いします!」

    キャッキャと笑う声を首の後ろに感じながら、箒を空中に滑らせた。丘の上の小屋を発ち」追い風に乗って南へ。
    後ろにいる監督生くんの香りが風と共にオレの鼻に届く。周囲の木々や草花の香りと溶け合ってとても心地良い。
    スン、と深呼吸して少し多めに魔力を込める。

    「きゃ!…あはは!」

    ぐーんとスピードを増した箒の勢いにきゃらきゃらはしゃぐ彼女の声。つられて漏れる自分の笑い声。
    何をしているわけでもないのに、そんな何気ないことが信じられないくらい楽しかった。

    「あ、あそこはさっき号外届けた家ッスよ」

    丘を道なりに少し下ると、ポツポツと家が建っている。麓の街から少し離れた、この辺りの家へ新聞を届けるのは体力も時間も使うし、住んでいる人もじいちゃんばあちゃんが多い。ここへの配達の仕事は割りと性に合っていた。
    今朝も通った道を今度は2人で飛び抜けて行って、あそこにはどんな人が住んでるとか、監督生くんの地元の新聞配達はバイクがメインだ、とか他愛もない話をしてまた笑い合う。
    そうこうしているうちに、箒の下に街のマーケットが見えてきた。高度を下げ、店の1つ1つがよく見えるように近付いてやる。

    「オシャレ…!」
    「シシッ、でしょ。マジフト大会の時の出店はここを参考にしてるって話ッスよ」
    「そうなんですか!確かに食べ物もお土産屋さんもいっぱいある…!」
    「気になるものがあれば言って。降りるんで」

    観察しやすいようにスピードを落とし、声を掛ける。すると、キョロキョロと視線をあっちこっちにやって建ち並ぶ店を一軒ずつ見比べ始めた。
    サンドウィッチの店を暫く見て、ぷいっと顔を背けた彼女の思考が手に取るように分かる。美味しそうだけどお昼を食べるにはまだ早いかな。それにサンドウィッチは学食でも食べられるし…とかそんな事を考えているんだろう。
    次に目を向けたのは古着屋。これも数秒見つめて目線を外してしまった。確かに彼女の好みのデザインは少なそうラインナップだった。
    さて次は…

    「あ」
    「ん」

    彼女の視線がある一点に固定される。その先を辿っていくと、独特なファッションスタイルをした色白で寡黙そうな男が、折りたたみ式の簡易チェアーに座っていた。
    彼の周囲には画材が所狭しと置かれていて、今まで描いてきたのであろう作品達も複数並んでいる。そしてそのどれもが、カップルや家族の似顔絵のようだった。

    「先輩」
    「はい?」
    「アレやりたいって言ったら怒りますか…?」

    明らかに似顔絵を描いて欲しそうだった監督生くん。当然やりたいと言うだろうと思って、そのつもりで箒も着地させようとしていた。
    それなのに聞こえてきたのはそんな自信のない問いかけで。「なんで?」と素直に疑問をぶつける。

    「だって先輩、絵なんてお腹の膨れない物にお金をかけるのは嫌かと思って」
    「はっ!?オレそんなに薄情な男に思われてたんスか!?」
    「そんな風には思ってないです!ただ、その…んー、倹約家?だから…」

    思わずはぁ〜とため息を吐く。いくらオレが銭ゲバで守銭奴でも、彼女との思い出を残す為なら多少の出費は厭わないっての!
    …と思ったけど、確かに出会った頃は「服にこんなに金かけるんスか!?」とか「食えりゃ何でも良いッス」とか色々無茶苦茶言っていた気がする。そりゃ彼女が気にするのも無理はない。寧ろ今、絵なんて贅沢品に金を出すことに渋らなくなった方が青天の霹靂。
    もう1度はぁ、と今度は過去の自分の考え無しな発言にため息を吐く。
    そのため息に不安そうな顔をするので慌てて取り繕って「オレもやりたいッス」と箒を下降させた。

    「1番小さいサイズ、2人なら3000マドルね」

    似顔絵師の男が軽く説明をしてくれて、客用のパイプ椅子を指差す。
    「大体20〜30分貰うよ」と表情の変わらない顔で言うので、それに頷いて2人並んで座る。今11時過ぎだから、絵が出来上がる頃には昼になるし丁度良いな。
    ワクワクニコニコしている監督生くんの横で、ぼんやりこの後の算段を付けていれば「もっと寄って」と男から声が掛かるので、その通り少し距離を詰めて彼女の手を握った。
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