猫に香料、いちごにヘビ 最近、茨の距離が近い。
だからと言って、何か不都合があるのかと訊かれれば特別そんなことはなく。ただ、過酷なレッスン帰りの休憩だとかステージ終わりの控え室だとか、そういう人気の少ないふたりっきりの空間で、まるで甘えたな仔猫のようにすり寄って来られると、気の抜けたところへの不意打ちも相まってなんだか妙に緊張してしまうのだ。ただでさえ汗っかきな体質なものだから、ピタリと肌が触れ合いそうな距離で話しかけられると、シャワーの時間がなかったからベタついてやしないかなんて、オレはいろいろとぐるぐる考えてしまって、あんまり話を聞いていなくて怒られたりもする。そのくせ向こうは、オレのことなんか意にも介さず、さっさと引き上げて別の人と仕事に戻ったりして、おいおい今のはなんだったんすか?と尋ねる暇もない。気配を消してふらっと近寄ってきてくるりと足元を一周したらまた去っていく、メアリとは違うタイプのお出迎えの儀式に、ここ数週間オレの心は振り回されている。
1959