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    きゅう

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    きゅう

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    イベントの無配にしようと思ってお蔵入りしたもの
    ルの片想いに見せかけた両片思い
    中央ファンタジアログスト続きの捏造を含むので、何でも許せる方向けです…!

    この気持ちに名前をつけるなら、 昼下がりの光が眩しく照りつける。太陽光よりずっと、手のひらがあつい。ぎゅっと握ると厚みがあり、それでいて節々の存在感を示す指先が包み込むように力を返してくる。そう。私は今、ミスラさんに手を握られている。正確に言うと手を握られて、とっておきのお昼寝場所まで向かっている途中だった。
     
    「ミスラさん、お昼寝場所はこっちです」
    「はぁ……あなたが教えるって言ったんでしょう」
    「だ、だってミスラさん、手を離そうとしないから」
     
     その言葉を聞いても尚、繋がれた二つの手のひらはぴったりとくっついたままだ。私が先導に立ち、ミスラさん、こっちですよ。と案内した方が早い。それでも手を繋ぎながら「こっちですか?」「あっちですか?」と、いちいち聞いてくるミスラさんが、可愛く見えて仕方がなかった。これが、フィガロ先生も言っていた甘えている、ということなのだろうか。南の魔法使いなんて、それくらいしか使いどころがないでしょ、とボルダ島で言われた言葉を思い返す。
     
     幼い頃から、この大きく包み込むような手のひらが好きだった。母様も父様も天に帰り、縁から溢れ出しそうな寂しさと不安に襲われたあの頃。幼い私に差し出された、大きな手のひらの温度を今でも覚えている。追憶に浸っていると、振り返ったビリジアンの瞳がかちりと重なる。ほんの一瞬だった。過ぎてしまえばそこには、ほどよく筋肉量のある広い背中だけが私の視界を満たしていく。ミスラさんの背中を見つめながら、ふふっ、と思わず笑みがこぼれ落ちる。可愛いな、と思ったからではない。急き込む足取りとは裏腹に、その瞳があまりにも優しい色をしていたから。
     
     頼りになり、それでいて甘えん坊な後ろ姿。

     どんなに辛いことがあっても、ミスラさんが見守ってくれている。その事実を心の支えに生きてきた。それなのに、小さい頃とはまた違う感情が胸の中で渦を巻くなんて……。この淡い色をした初めての感情は、ミスラさんに伝えるつもりはない。こうやって、二人でおしゃべりをする時間が何よりも嬉しい。このままミスラさんと楽しく過ごせたら、私はそれで幸せだ。
     
     背中越しからは「なんですか、ルチル」と、気怠げな声だけが聞こえる。今のところ、ミスラさんの声色から苛立ちは感じられない。私の位置からはミスラさんの表情が見えないので、声色で判断するしかなかったのだ。だから、実際のところは分からない。しかし、少しづつ足早になっていく様を見ると、眠気からほんの少し気が立ち始めた様子が伺える。お気にりのあの場所で、少しでもミスラさんが喜んでくれれば嬉しい。

     中庭の少し先にある、大きな木の下が私のとっておきのお昼寝場所だった。暖かい日の光が柔らかく差し込むその場所は、うとうとと自然と眠気を誘ってくる。ここなら、ミスラさんもきっと……。胸の内から湧き上がる感情が、小さく口角を上げる。
     
    「ミスラさん、着きましたよ」
    「結構距離がありましたね。……疲れました」
    「魔法舎の中でも端っこの方ですもんね。でもほら。日差しがあったかくて気持ちが良いですよ」
    「たしかに、あたたかくてよく眠れそうです」
     
     ミスラさんは大きな欠伸を浮かべたかと思いきや、ほんの一瞬、目線を移す。その瞳はまるで、気が付かれないように息を殺して獲物を狙う、獣のようだった。先程の優しい色の瞳は何処へやら。ここから逃がさんと言わんばかりの威圧感から、背筋がピンと張り詰める。元より逃げるつもりなんて、さらさらないのに。ミスラさんのあまりにも強い眼差しから、目が離せなくなってしまう。それと同時に、繋がれたままの手を引っ張られる感覚に襲われる。ずるっとした音と共に、視界が落ちていく浮遊感に私は強く瞼を閉じた。
     
    「うわっ!」
     
     突然の勢いに、思わず大きな声が出る。足元にはくすぐったい草の感触と土の匂い。臀部には電流のような鈍い痛みがある。何が何だか分からず、絡まった思考をゆるりと解いていく。そっと瞼を開くと、どうやら私の手のひらは体ごと木の下に引っ張られたようだ。
     
    「もう、ミスラさん! びっくりしましたよ」
    「早く俺は眠りたいので」
     
     引っ張らないで、言ってくれればいいのに。と、心の中で生まれた言葉を飲み込む。ミスラさんのこういう言葉足らずなところに若干の苛立ちを感じてしまうが、今回はぎりぎり許容範囲に収まった。小脇に抱えたスケッチブックが飛び出さずに済んだのはありがたい。せっかくとっておきの場所に二人で来ることが出来たのだ。出来るだけ穏やかに、ゆったりとした時間を過ごしたい。
     
     よいしょ、と体勢を立て直すとふと、手のひらに熱を感じる。不思議に思いながら視線を落とすと、指先が絡み合っている。どうやらまだ、ミスラさんは繋いだ手を離す気はないらしい。さっきの食べられてしまいそうな視線に、繋がれる手のひら。まだ何処かへ行ってしまうと思われているのだろうか。私は、ミスラさんのそばにいられたらそれだけで嬉しい。しかし、手を繋いでいるからといって、私は賢者様のようにミスラさんの眠気を誘うことは出来ない。それなのに、どうしてだろう。思考を巡らせるが答えは出ない。繋がれた手のひらがあつさだけが、私の頭の中を支配していた。

     一度でも意識してしまうと、なんだか体温が急上昇してしまったかのようで、瞬く間に頬は紅潮する。眩しく照り付けていた日の光が、木の隙間を縫って柔らかい光へと変わる。きっとこの熱は、照りつける太陽の光のせいだ。そう思いたいのに。胸の鼓動は大きくなるばかりだった。
     
     繋がれた手のひらの熱に気を取られていると、ふいに左肩に重みを感じる。頬と首筋がくすぐったい。気がつくと、燃えるような赤い髪は私の肩の上に乗っていた。互いの唇がぶつかりそうな至近距離とほどよい重みに、心臓はどきりと音を立てる。手のひらも、肩も、頬も、全てがあつい。……どうにかしないと。そう思っているのに、頭は上手く回ってくれない。いくらぼんやりさんなミスラさんでも、さすがに気がつかれてしまうくらいの顔色だ。私はその熱の正体を紛らわせようと、小脇に挟んだスケッチブックに手をかけようとする。その瞬間、まるでタイミングを見計らったかのように、気だるげな声が飛び込んでくる。

    「……やっぱり眠れないな」
     
     その声色に小さく肩が跳ね、伸ばしかけた腕はすぐさまひっこめた。ミスラさんは一言呟いたかと思うと、大きな体を横へと倒す。ずっしりとした重みは、肩から膝へと移行する。ミスラさんの突拍子のない行動に、私の顔色はさながら熟れた果実のように染まりきってしまった。色の変化に気がつかれないよう、少しばかり目線をずらす。きっと、まだ大丈夫。どきん、どきんと、大きく響く心臓の音とは裏腹に、小脇に抱えたスケッチブックは静かに出番を待つことしか出来なかった。

    「……固いな」
    「……もー。ミスラさんったら失礼ですよ!」
    「でも、俺はここがいいです」


     ミスラさんは一言呟いたかと思うと、そのまま目を瞑り、すぅすぅと小さな息を立て始めた。
     
    (え? ミスラさん、もしかして……)
     
     あまりの静けさに、大きく鳴っていた胸の音はすっかり拍子抜けしてしまう。いつもなら、やっぱり眠れません、となるのが普通だ。そのまま二人でお喋りをしたり、絵を描いたりすることが多い。しかし、今日のミスラさんの瞼は閉じられ、小さな息まで立てている。二つの手は繋がれたままで、手のひらの温度も変わらない。厄災の傷で眠れず、苛立っていることが多いミスラさんに、少しでも落ち着ける場所やものを見つけてあげたい。ミスラさんは何が好きなのか、どんな場所が落ち着くのか。
     少しづつ知っていけたらいいな、と思っていた。
     
     以前、魔法舎を散歩している時に見つけた大きな木の下は、すっかり私のお気に入りの場所となった。風通りも良く、日当たりもばっちりだ。目を瞑ったとき、ここならミスラさんも眠れるかなぁ、と思った。賢者様から教えてもらった絵日記を、ミスラさんに一番に見て欲しい。そんな思いから口実に使ってしまったのは否めないが、思った以上に気に入ってくれたのかもしれない。二分の一の確率で断られるかもしれないな、と思いながらも、誘ってみた甲斐があった。伏せられた瞼からは、スッと伸びるまつ毛が扇状に広がっている。
     
    (本当に眠っているみたい……そんなはずないことは分かっているけど……)
     
     そんな私の心の声はいざ知らず、ミスラさんには届いていない。相も変わらず、瞼は固く閉じられたままだ。
     
    (……うーん。私もお昼寝しちゃおうかなあ)
     
     開く気配のない瞳に、私もそっと瞼を閉じてみる。秋晴れになびく風が気持ちいい。ひとりだとすぐにうとうとしてしまうのに、一向に睡魔は訪れてくれない。ミスラさんのスパイシーで甘い匂いが鼻をつき、どうしたって意識が向いてしまうのだ。触れている箇所があつい。再び上昇し始めた体温を見て見ぬ振りは出来ず、早々と目を開ける。膝の上には当たり前にミスラさんがいて、起こさないようにそっと顔を見つめてみる。本当に、眠ってしまったみたいな顔。どうしようかな、と数秒間思い悩んだ末、ミスラさんの真紅に染まる髪の毛に、手を伸ばしてみる。見た目よりもずっと柔らかいその髪は、私の指の間をするりと抜けていく。

     瞳を閉じている様は、まるで子供のようにあどけない表情をしているな、と思った。
     
    (少し落ち着く為に、スケッチしようかな)
     
     自身の心の声に賛同し、小脇に抱えたスケッチブックを開く。至近距離で見つめてみると、元々整っている顔が更に明度を増して見えてしまうのだから、恋心というものはやっかいだ。

    「……はあ……どうして好きになっちゃったんだろう」
     
     心の声が口を衝いて出る。無意識だった。開いたばかりのスケッチブックはするりと手元を抜けていく。咄嗟に両手で口元を覆うが、何をしようと後の祭り。うっかり聞かれてしまってたらどう言おう。どきん、どきん、と再び音を立て始めた心臓は鳴り止んでくれそうにもない。そんな私の心配とは裏腹に、ミスラさんはすぅすぅと静かな息を立てている。今のところ、開く気配は見られない。焦る気持ちを落ち着かせながら、数十秒、ミスラさんを見つめてみる。相も変わらず固く閉じられたままの瞼を見て、ほっと胸を撫で下ろした。
     
     どうしようかな、と数秒間思い悩んだ末、燃えるような赤髪に手を伸ばしてみる。見た目よりもずっと柔らかいその髪は、私の指の間をするりと抜けていく。瞳を閉じている様は、まるで子供のようにあどけない表情で、どうにも可愛らしく見えてしまう。ミスラさんの顔に当たらないよう注意を払いながら、落ちたスケッチブックを開き直す。視線をずらしてペンの居場所を探り、繋がれた左手を動かす為に意識を向ける。私がほんの少し力を入れた瞬間、ミスラさんの手のひらに、離さないと言わんばかりの力を込められる。

     ……やっぱりミスラさん、眠ってなんかいない。

    いっそう強く握られた手のひらに、ぱたりとスケッチブックを閉じた。

    「ミスラさん、起きてますね?」
    「はい。俺が眠れるわけないじゃないですか」

     私の名前を呼ぶ声に、俯いた顔がパッと上がる。声の方向へ首をひねると、瞼を擦るミスラさんと視線が交わる。

    「小さく息を立ててたから……でもやっぱりミスラさん、起きてたんですね」
    「……今日は眠れると思ったんですけどね」
    「あの……もしかして私のひとりごと、全部聞こえちゃってましたか?」
    「ああ。俺のこと、好きとかどうとか言ってましたね」

     物忘れの激しいミスラさんのことだ。なのに、大事な部分はしっかりと覚えているなんて。顔一点に熱が集中する。ミスラさんは私の膝枕から起きあがろうとすることもなく、そして繋がれた手も離そうとしない。

    「ミスラさん、その……手、ずっと繋いでるから」
    「ああ。あなたの手、ひんやりしていて気持ちがいいんですよね」
    「もうずっと繋いでるから、熱くなっちゃってますよ? それに、私は賢者様のような力はありませ…」
    「…………離さないでくださいよ」
    「えっ……?」

     ミスラさんの一言にぎょっとする。手のひらに瞳を落とすと、相変わらずぴったりとくっついている。どこからどう見ても、離れてなんかいない。

    「私、離していませんよ?」
    「いや、離そうとしましたよ」

     疑問が浮かぶ頭を捻らせ、その言葉の意図を探る。数秒間……いや、数十秒考えた末、頭の中で点と点が繋がりあい、思わず「あっ!」と声になる。まるで壊れかけの電球が光を灯したかのように。

    「あの時私、スケッチをしようと思ったんです。それでペンを探そうと」
    「スケッチなんて別にいつでも良いでしょ」
    「えっ?」
    「またお茶会だのミチルの面倒だの、あなたはすぐに俺から離れようとするじゃないですか」
    「そ、そんなことないですよ」

     そうは言ったものの、確かにミスラさんと一緒にいる時に呼ばれたら、状況によっては行ってしまうこともある。それでも今日は、一緒に絵を描いて、お気に入りのお昼寝場所まで足を運んだ。無意識にミスラさんのことを考え、何度も顔が真っ赤に染まってしまうくらい長いこと一緒にいる。

    「今日は私、誰にも呼ばれていませんしミスラさんの側にいますよ?」
    「……………」
    「……ミスラさん?」
    「本当に眠かったら、賢者様を引っ張り出します。俺はあなたがいいから、ここまでついてきたんでしょ」

     再び閉じられた瞼。ミスラさんのビリジアンの瞳は見えなくなる。言われた言葉が、耳の奥で反響している。その意味を理解できないほど、もう私は子供ではなかった。

    「はぁ……この俺がここまで言ってやってるんですよ」

     悪態をつきながら、ミスラさんは大きな体を起こす。長時間膝枕をしていたせいか、びりびりと鈍い痛みが走っている。それでも、確かめられずにはいられなかった。

    「……ミスラさんも、私のこと好きなんですか?」
    「好き……まあ、離したくはないですよ」

     その言葉通り、未だぴったりと寄り添い、離れるそぶりはない。ぎゅうっと力強く握り返してくる手のひらが、私への返事を明示しているようだった。包み込んでくれる温度はあの頃と変わらないのに、見つめられる瞳の色はまるで違うもののようだ。あまりにも不恰好な告白。この気持ちを伝える気は、まだ、なかったのに。もう少し仲良くなって、それからもっとロマンチックな場所で、詩を読んだり肩を寄せあったり……。その流れでキスなんかしちゃったりして。そんな想像ばかりしていたせいか、あまりの易々とした返事に拍子抜けしてしまう。

    「これって、両思い……ってことでいいんですよね?」
    「あなたが言うならそうなんじゃないですか?」
    「もー! ミスラさんからの好きが聞きたいのに! ミスラさんのバカ!」
    「ちょ、何で急に怒ってるんですか……忙しい人だな……」

     淡い色をした気持ちは、思わぬ形で実を結んだ。小さい頃から憧れていたミスラおじさん。あの時の感情とは少し色が変わってしまったけれど、それでもあなたのそばにいたいという気持ちはずっと変わらない。きっと、これから楽しいことや嬉しいこと。言葉が足りずにちょっぴり悲しくなってしまうこともあるかもしれない。

     そんな時は何度だって話し合い、お互いの気持ちを確かめていきたい。そのたびに、言葉を紡いでいけたらきっと……。これから二人で、たくさんの色を知っていけたら良いな。

    「ミスラさん」
    「? なんですか、ルチル」
    「これから恋人として、よろしくお願いしますね」

     ミスラさんの瞳を真っ直ぐに見つめてそう言った。

    「はぁ……仕方がないので一緒にいてやりますよ」
    「も〜、またミスラさんったらそんな言い方して‼︎」
    「分からない人だな……あなたがそばにいて欲しいから、離せないんでしょ」

     相変わらず繋がれたままの手のひら。愛しい温もりは互いに移し合い、気がつけばほとんど同じ温度になっていた。

     千年先もその先も、このあたたかい温もりを忘れずにいたい。そう願いながら、大きな胸へと飛び込んだ。お気に入りの場所で、大好きな人の腕に包まれて、世界で一番幸せな瞬間を。これからもずっと。
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