💥🐒揃いの葛籠(つづら)某日放課後。バレンタイン会の準備と称してショッピングモールへ買出しに来た面々。
モールの中央で、各ブランドのショーケースが並んでいた。
女子たちが先に駆け寄りきゃらきゃらと花を咲かせるあとに続いて、男子たちも楽しんでいた。
尾白も可愛らしいパッケージと共に並ぶチョコレートたちを見る。そういえば、この時期は家族が買ってきたチョコレートをもらって一緒に食べてたなと思い出す。
なんだか見てたら食べたくなってきた。
「…美味しそうだなぁ」
「じゃぁ、買ってけばいいじゃねぇか」
尾白は驚いて横からの声の主を見れば爆豪で。
自分の横に居たことにも、ひとり言に返事が返ってきたことにも驚いた。
なんで、隣にいたの…??
「お、男がバレンタインチョコレート買うのって変じゃない…??」
驚きを装うように、問いかける。
「自分で食いたいモン買うのに、変もクソもねぇだろ。普通だわ」
「そ、そうかな?じゃあ買って食べてみようかな。…どれがいいだろう」
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誰かに贈るのか…と思ったが、自分で食べるのと聞いて不意に安堵する。
…なんで、んな気持ちになンだ。
どれがいいかな…?と色とりどりのパッケージに顔を近づけて商品説明を読んでいる尾白の横顔を盗み見る。
ショーケースに並べられたチョコとお品書きを読み、想像する味にキラキラとダークチョコの瞳を輝かせている。
「あ。これにしようかな!いろんなフルーツの味があるみたいだ」
ぴょんっと尻尾の先が真上に伸びた。
オレンジ色の地の箱に、フレーバーにちなんだカラフルな色が弾けるパッケージを指さして、横にいる俺に報告するようにニコニコと顔を向けてきた。
「爆豪は何にする??」
………俺も買う流れなんか。
普段は甘いものをほとんど口にしないが、このイベント会場の雰囲気と尾白から向けられた好奇心の眼差しと笑顔に絆されてしまった。
………俺も買うか。
ショーケースに視線を落とし、尾白が決めたものと同じシリーズを見比べる。
他のブランドを見る気持ちは全くなかった。
しばらく見比べた中で、一際シンプルなパッケージに心惹かれた。柔らかい白地に、落ち着いた水色の花がポイントであしらわれたパッケージ。
花の香りとダークチョコの組み合わせを楽しむコンセプトらしい。それぞれの花がパッケージに描かれていた。
「これにするか」
「わぁ、花のフレーバーかぁ。オシャレだな。爆豪らしいというか」
「あ?そうか?」
「たぶん俺には違いがわかんないよ」
への字に下がる眉を見て、「そうかもな」とからかった。
レジに並んで会計を済ます。
ふたりの手にはお揃いの手提げがひとつずつ。
「爆豪、ありがとう。たぶん俺1人だったら買わなかったかも。食べるの楽しみだなぁ〜」
ゆらりゆらりと尻尾を揺らして、手提げを見つめる瞳がこっちを向いた。
チョコレートよりも甘く滑らかな弧を描く。
もう口の中は浸るほど甘いのに、ちっともイヤじゃない。このビターチョコは何の花の香りがするのか。
まだ花の香りを知らない自分には当てはまる味がわからない。
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