『見合いの玉手箱』卒業式も無事に終わり、寮から出る日も間近。
今日は皆で共同スペースの最後の片付けに集まった。
この3年間で各々が置いた食器や食べ物、調味料も、雑誌や小物も手分けして片付ける。
作業が一段落し、帰る前に共同スペースで談笑したり、部屋に戻って片付けを続ける人もいた。
尾白もふっと思い出したように自室に戻った。
尾白は扉を開け放して自室に入る。
荷物はすっかり段ボール箱にまとめられ、部屋から出る日を待ちわびていた。
ぼぉっと部屋中を見渡して、3年間の思い出にふける。本当に世界が変わるほどいろいろあって、とても一言では言い表せないなぁと眉を下げる。
さいごに、と、そっと勉強机の引き出しを開けた。
片付けて空になるはずのそこに、華やかなオレンジ色のパッケージの箱が一つ。
結局、あの日食べた甘く柔らかい口溶けと共に柔い想いも溶かしたままで。はっきりと形にすることも言葉に出すこともしなかった。
ただそのまま想いも箱も捨てるのも忍びなく、引き出しの中にしまっては時折開けて、キャンディーを入れるケースにしていた。
少し揺すると持て余したキャンディーがカタカタと音を立てた。
あれから、少しずつ爆豪と話すことが増えたように感じた。
一緒に訓練をすることも、お互いの部屋を行き来して勉強することもあった。
距離が縮んだ…と思うけれど。それはただ友達として…だと思ってる。
たまに見せる優しい眼差しも、柔らかく存在を確かめるように触れる手も、きっと、そうだと思うけれど……それでも、
「好きなことも、何にも言えずじまいだ… どうしようかなぁ」
「じゃぁ、伝えればいいじゃねぇか」
尾白は驚いて部屋の扉からの声の主を見れば爆豪で。
自分の部屋に来たことにも、ひとり言に返事が返ってきたことにも驚いた。
なんで、ここに来たの…??
「お、男が……男のことを好きなのって、…変じゃない…??」
あの時と同じだ…
驚きを装うように、でもそれよりもさらに慎重に、問いかける。
爆豪は一瞬目を見開いて、そして満足気に弧を描くとゆっくりと口を開いた。
「自分が好きだと想う気持ちに、変もクソもねぇだろ。普通だわ」
片手をするりと持ち上げると、あの日自分と揃いになった白地に水色の花が咲く箱があって。
あの時と同じ応えに、ぎゅうっと心臓を包まれるような思いがして。苦して、でも温かい。
目頭が熱くて、視界が滲みそうになる。
「……そうかな?…じゃあ言って、伝えてみようかな。…どうしたらいいだろう?」
少しだけ、まだ自信がなくて。尻尾が不安げに揺れた。
手の中の箱からカタリと音がする。
穏やかな部屋に響いた小さな音を爆豪の耳が拾った。
「…何が入ってんだ??」
自分の手の中に視線を向けられる。
なんだか心の中を見られるようでそわそわする。
それでも、想いを解くように、そろりと蓋を開けてカラフルなキャンディーが3つ。
あの時のチョコレートの味が、爆豪を初めて想った気持ちが忘れられなくて、箱の中にいれるのはいつもフルーツの味で。
爆豪が箱の中を確かめるように、一歩近づいてきた。
ゆっくりとキャンディーを眺めたあと、そのまま顔を上げて、視線が合わさる。
いつになく柔らかく、何も言えない自分の気持ちを汲み取るように見つめられる。
次の言葉を待ってくれた爆豪におそるおそる尋ねる。
「…爆豪はどれにする??」
「俺が貰って良いンか?」
「もちろん。爆豪に、貰ってほしい」
その言葉に爆豪の視線がじっと強くなった。
爆豪がふっと目線を下げて、白い箱の蓋を開けた。
そのまま俺のオレンジの箱に近づける。
「なぁ、キャンディーの意味、知っとるか??」
ちらり。また視線を交わすと、じっくりとキャンディーを見つめ、1つ摘むと爆豪の箱へ入れた。
「いちごは、恋愛」
「りんごは、運命の相手」
「レモンは、真実と愛…だとよ」
1つずつ、確かめるように爆豪の箱へ収まった。
「なぁ、尾白。これで、合ってるか…??」
俺に反して自信家の爆豪が口角をあげた。
やっと形になった想いが爆豪の手元にあってむずがゆい。
「うん、大好きだよ。爆豪。」