九十九父ネットレビュー記事■4/17(日)発売の九十九＊＊新作『仮題の輪郭』が、各所から絶賛！

　先日発売された九十九＊＊の2年ぶりとなる新作『仮題の輪郭』がレビュアーや書店員など各所から絶大な評価を得ている。

　九十九＊＊は『幸先』にて荒川賞にノミネートされて以来も数作に渡り刊行してきたが、どこか未完成であり迷走の時期と評されてきた。最後に発表された『散り際にて』から2年の期間をあけて発表された『仮題の輪郭』には発売前から密かに注目が集まっていたが、結果としてこれまでの低迷を覆すセラーとなった。

　今作は独身会社員の甲斐俊明（かいとしあき）のもとへ、親戚から初対面の少年、ミツグを預けられるところから始まる。家族を作ることを避け独り身を謳歌してきた男と少年が同じ家で違う生活を送る中で、過干渉はせず互いの心地いい距離感を計っていくストーリーとなっている。
　多様性の肯定と頻繁に言われる昨今ではあるが、その中の一つの解となるような在り方を子細に記す文章を読んで考え方への影響が大きかった、との意見も見られた。
　
　また今回注目されたのはその表現力についてだ。もともと情景描写に長けており、その五感を刺激する表現力が高く買われて飲食店とのコラボレーション広告も行われたことがあったが、今作では九十九＊＊節が遺憾なく発揮される情景豊かな文章となっている。作中でミツグがかつて暮らしていた街を訪れる描写があるが、何気ない景色に対し当人だけが感じられる懐かしさを読者も痛いほど味わうこととなるだろう。

　仮の家族の在り方という着目されがちなテーマではあるが、家族と呼ぶには遠いが互いが納得し落ち着く形での共同生活という今作なりの回答がわずかな心境変化も子細に語りながら丁寧に描かれる。全体的にすっきりと纏まっていながらもストーリーや人物描写も九十九＊＊らしさの強いものとなっており、ここにきて改めて九十九＊＊という作家の実力が出たものとなった。
　初版の売れ行きは好調で増刷もかかっており、今後の作品にも期待の声が寄せられている。