リオヌヴィでハピエンにするやつ暖かく私を見つめてくれていたフロストブルーの瞳は凍てついて。
リオセスリ殿から紡がれる優しい声は冷え切っていた。
距離もそう。普段なら手が届く範囲に座るのに、今はギリギリ届かない位置。
完全拒否。今のリオセスリ殿はそう表現するのが正しいのかもしれない。
「ごめん、ヌヴィレットさん。でも駄目なんだ。俺は人でヌヴィレットさんとは違う種族。それは変わらない」
「……リオセスリ殿。いや、元はといえば私のせいでもあるのだな……」
君ならば、と過度な期待をしてしまった私に非があるのだ。表情には出ないが窓から差し込んでいた太陽の光が雲に阻まれ少しずつ暗くなっていく。
「すまない、ヌヴィレットさん……でも俺にはどうしても……」
そう言いながらリオセスリ殿は項垂れてしまい顔が見えなくなる。
「……どうしても看護師長のミルクセーキが美味しいとは感じられないんだ……」
罪人が罪を認めるかのような気迫。ここはエピクレシス歌劇場ではなく私の私室なのだが。
テーブルの上には二つ置かれたシグウィン特製のミルクセーキ。私はこれを美味だと思うのだが人であるリオセスリ殿には別の味に感じるらしくいつも不毛だと言っていた。
種族が違えば味の感じ方も物の見え方も違ってくる。
なのでメリュジーヌであるシグウィンの作る食べ物が人であるリオセスリ殿の好みに当てはまらないことがあることは理解しているし、それが悪いとも思ってはいない。
しかし、リオセスリ殿はつい最近私の正式な番となり人は異なる存在と成った。とはいえ劇的になにかが変わったわけではなく少し感覚が鋭くなったり味覚が敏感になったのだそうだ。
少し前。『ヌヴィレットさんが言っていた場所によって水の味が違うっていうの。なんとなくだけど俺も感じられるようになってる気がするんだ。番になった影響かな』好きなものを好きな人と共有するというのが嬉しい、というのが考えていたよりずっと喜ばしくて。
ならば愛しい愛娘であるシグウィンのミルクセーキも同じように共有できるのでは……!と考えにいたった。何度か飲めば馴染んでくるかもしないと思い、彼とのティータイムにはシグウィンのミルクセーキやメリュジーヌの作ったお菓子を出していたのだが、今日リオセスリ殿からはっきりと無理だと言われてしまった。
「……ヌヴィレットさんのお願いにはできるだけ応えたいとは思う、んだが彼女たちの好む味覚は俺にはやはり受け入れられない」
本当にすまない、と謝罪するリオセスリ殿。
「謝るのは私の方だ。君と番になれて浮かれてしまっていた」
「それは俺もだよヌヴィレットさん。あんたと同じ好きを共有したいと頑張ってはみたんだが味覚の好みは人だった時と変化ないらしい」
ミルクセーキをそっとテーブルの端に避けてグラスに注がれてた水を飲むリオセスリ殿。
「お詫びになるかはわからないが明日のティータイムは私が紅茶を淹れよう。ケーキはセドナに頼んで君の好みそうなものを用意してもらおう」
君が淹れるものにはかなわないかもしれないが。
そう提案するとヌヴィレットさんの淹れた紅茶はいつも美味しいとすかさず反論してくる。
私としてはリオセスリ殿の紅茶が一番美味なのだが。
と返せばいやヌヴィレットさんの方がリオセスリ殿の方がとの言い合いに。
しかし先ほどまでの重い空気はなく、お互い目が合うとどちらともなく笑い合う。
明日のティータイムは楽しいものになるだろう。
ちなみにシグウィンの用意したミルクセーキは夕食のデザートに私が二つとも美味しく頂いたが、幸せそうに飲む私を見てリオセスリ殿がなんともいえない表情になっていた。