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    9ing4

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    9ing4

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    svsss妄想小咄、七と九
    英語版さはんの補足にあった、七と九の数字にまつわる諸々を読んでから七がいなかったら九の運命は狂わなかったのか?!と頭の中でぐるぐるしていたもの

    #七九
    7-9
    #svsss
    #qijiu

    岳七が死んだ 暑い暑い夏のある日。

    いつもと変わらないクソみたいな日だった。
    垢にまみれた子らは道端で物乞いし、沈九もその中にいた。

    茹だるような暑さの中でみな苛立ち、木陰を取り合ってワザとぶつかっただの違うだのから乱闘が始まった。

    違ったのは、いつもなら誰かがすぐに呼んでくる七哥がいつまでたっても来なかったことだ。

    「七哥が倒れてる!」
    見回り役の七哥を探しに行った子供が叫んだ。


    喧騒の場は一瞬静まり返った。
    子供らが我先に押し寄せた先で、
    七哥は路地裏に打ち捨てられた飼い葉桶にもたれ掛かり、眠るように事切れていた。

    子供が死ぬのはここでは日常だ。
    それでも、七哥ほど育っていればなかなかそんなこともない。
    殴られたような痕もなく、幾人かは寝てるフリではないかと七哥をひっぱったが、彼が目醒めることはなかった。

    異変に気づいた人買いがやってきて脈や呼吸を見ていたが、手遅れとわかるとチッと吐き捨てて、群がっていた子供らを追い立て物乞いに戻らせた。

    九は隙を見ては何度も七哥の側へ戻ろうとして人買いに殴られた。

    七哥の欠けた日常は皆をどこかぼんやりとさせ、物乞いに身も入らない。
    人買いがイライラして良い気味だ。
    九は潮時だとおもった。今なら隙だらけだ。

    七哥の居ない此処に何の意味がある。
    そういえば街の噂で、近々仙門の試験がひらかれると聞いていた。

    ダメでもともと。ある晩、人買いのアジトを抜け出した九は隠しておいた僅かな銭を握りしめて、遁走した。

    結果からいえば、九は見事に合格した。
    天下の蒼穹山派、清静峰の外弟子から始まり、みるみるうちに頭角を表して一番弟子に昇り詰めた。


    ***


    「過去へ渡る銅鏡ですか?」
    師匠に九は応えた。

    「そうだよ。穹頂峰の蔵に眠っていたもので、由来は知られていなかった。
    霊力を使わなければなにもない。
    だが、たまたま書物の虫干しの為作業していた弟子のひとりが触れて、数時辰過去へ戻った。

    側にいた弟子は相棒が吸い込まれて青褪め、掌門のもとへ駆け込こもうとしたとき、棚の陰からくだんの弟子がぴょこんと出てきた。

    話は要領を得なかったが、これは危険だということで持ち込まれてきた。」

    「書でいくつか読んだことはありますが見るのは初めてです。名のある道士の作ではございませんか?」

    「その通りだ。時を渡る法術が使えた道士は限られる。
    後で調査をしたい。記載のある書をまとめてくれるか。」

    「承知いたしました。2時辰ほどお待ちください」


    書庫へ向かいながら、沈九の胸にふと浮かぶものがあった。
    数時辰と言っていたが、あれは上手く使えば、もっと過去へも戻れるのではないだろうか。
    例えば、七哥が倒れたあの日に。



    書物を整えて師匠に届けたのち、自室に戻った沈九は、牀に腰掛けて暫し物思いに耽った。

    慌ただしく過ぎる日々の中で、忘れかけていた人買いの元にいた日々がおぼろげに思い出される。

    あの日の七哥はおそらく暑さと脱水で亡くなった。
    自分が戻ったところで助けられないかも知れないが、調息してやったら万に一つ生きながらえるかもしれない。

    身を寄せ合って物乞いしていた日々は苛立たしくつまらなかったが、七哥のことを思うとどこか仄かにあたたかい。

    沈九はそっと心に決めた。



    ***

    沈九は銅鏡に触れた。
    師匠がおり良く峰主会議で不在となった隙に忍び込んだ。

    鏡面に、鋭い目をした青年が映っている。
    丹田に力を込め、慎重に霊力を注ぐ。
    淡い光が目の前に埋め尽くされ、強い眩暈がした。

    思わず閉じた瞼を開ければ、そこは真っ暗だった。手元をみると銅鏡はそこにありほのかに光を帯びている。

    目が慣れてくると、雑然と押し込められ埃の溜まった棚が幾つも見えた。
    過去の銅鏡が保存されていた蔵だ。

    扉は固く閉まっているので、小さい換気窓から外へ出た。
    外は昼を過ぎた頃合いだった。
    穹頂峰だ、間違いない。

    興奮を抑えながら,誰にも見つからないよう峰をおりた。

    秋府までなるべく急ぎたい。
    ある程度離れたところで御剣し、隠遁の符を使いながら猛スピードで向かった。

    ジリジリと照りつける太陽に、間違いなくあの日と確信した。

    秋府の通り、路地裏の入り口を見張れるよう向かいの屋根に隠れて様子を伺った。
    見覚えのある物乞いの子ら、通りで商売する屋台の大人達。そして


    七哥だ。

    子供らに声をかけ、時折わずかな木の実を配りながら歩いてくる

    九は不覚にも鼻の奥がツンとして胸がいっぱいになった。

    この時点で顔色もどこにも悪そうなところはない。

    注意深く観察していた。

    そのはずなのに、突然路地裏に背の高い男が現れたことに沈九は驚愕した。
    さっきまでは確かに誰も居なかった。
    七哥も驚いてるが、まるでその男は七哥にしかみえないようでまわりの誰も気づかない。

    吸い込まれるように七哥が路地裏に歩みさり、沈九ははっとして屋根を蹴りいっきにそちらへ移動した。

    心臓がバクバクと音を立ててうるさい。


    ばっと路地裏を,覗き込むと、七哥と男が何か話している、、と、突然男が七哥の胸に手をかざし、七哥は崩れ落ちた。
    あの日七哥が倒れていた、ガラクタのそばに。

    沈九は自分が何を叫んだ分からなかった。
    気づいた時には修雅剣を構え男に切り掛かっていた。

    しかし相手は素手にも関わらず剣は危なげなく弾かれ、沈九の本能が警告した。コイツは強い。

    パッと男の顔を見上げた沈九は、今しがた凶行に及んだと思えないほど優しげな美形が驚いたように自分を凝視しているのを見た。

    二、三歩、大きく後ろに飛びすさり間をとって、剣を構えたまま
    激しい感情にゆさぶられフーッフーッと大きく息を吐いた


    「…小九、」



    聞き間違いかと思った


    その呼び方はあまりに懐かしく
    そして記憶よりも低く響く。
    構えた剣の切っ先は震えながら下がり、ぼうぜんと男を見上げる


    「七…哥…?」


    かたわらに倒れたままの七哥と交互に見比べれば、確信に変わった。
    これは、大人になった七哥だ。


    「どういうことなんだ?生きてたのか!あんたも時渡りの法術使ったのか?」


    大人の七哥は口を開きかけては呑み込んだ


    「自分を仮死にしたのか?もしかして人買いから逃げるために?」

    言いながらその言葉は沈九の胸をチクリと刺した。


    「俺もあの後逃げて仙門に弟子入りしたんだ。
    こんなことできるなら、ついでに俺も連れてってくれても良かったんだぜ。
    でもまあお互い良かったな」

    言葉は滝のように止まらずまくしたてた。

    「なあ、今どこにいるんだ?
    元の時に戻ったら会いに行くよ」


    「会えないんだ。」

    「どうして」

    「私が側にいると、小九の運命を狂わせてしまう」

    「何言ってる」

    「仙門で占を学んだ時に気づいた。私の持つ因果が君の道を捻じ曲げることを。
    そしてその通りに、私の知る君はむごい運命を辿り、きっかけはいつも私だった。」

    「…」

    「だから、私は時渡りの宝具を見つけた時に決めた。自分を消すために此処へくると。」


    「!!!」


    「小九、君が健やかに歩んでいることを知れて良かった。この先もきっと…」


    (私さえいなければ)
    その言葉を最後に、大人の七哥の姿はかき消えた。


    後には少年七哥の遺体が残るばかりだった。



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