Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    9ing4

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 4

    9ing4

    ☆quiet follow

    岳清源と沈九の番外編に萌え転がって、その後の妄想が止まらなくなりました。
    本編、番外編のネタバレ、捏造妄想満載小話。svsss
    岳師兄絶対守るマンになった沈九のお話です。

    #svsss
    #qijiu
    #七九
    7-9

    七九巻き戻し血濡れたどす黒い石畳の床に、金属の破片が鈍く震える。

    蒼穹山派の最高峰たる玄粛剣が
    洛氷河に拮抗しうる唯一の剣が
    無惨に折れ落ちている様を

    沈九は随分と永い間、ひとつ残された眼で、ジッと見詰めていた気がする。

    ………………

    ………




    不思議なことに、あれほど心身を苛んだ拷問の跡が、今は他人事のようだった。

    もはや視界は殆ど見えないが、頭はいつになく冴え渡っている。

    満身創痍の身体が脈打つ度に、繰り返し繰り返し心臓を締め付けるのは、ただただ砕けた剣と師兄のことばかりだ。

    これは何だ

    苦しい

    苦しい

    身体中の痛みはむしろこの苦しさを和らげる
    ねじ切られた四肢が、潰された目が、引き抜かれた舌が、喉の痛みが

    それでも打ち消せぬ苦しさに心の臓が震える。

    こんなことが起きてはいけなかった

    そうだ
    師兄の最後がこんな結末であってはいけないのに

    ジワジワとこの世界と己に対する強烈な怒りが湧き出す。


    己のクソみたいな人生が

    師兄を


    こんなバカ野郎の馬鹿げた人生のせいで!!


    【ティーン】


    突然聞いたことのない不思議な音が聞こえた気がした。

    【起動コード確認:バカ野郎の馬鹿げた人生。システムのブランチを作成します。】

    誰だ?
    こうど?しすてむ?ぶらんち?
    意味のわからない言葉だらけだ。

    【システムへようこそ。ブランチのオーナーになりますか?】

    誰に聞いてるんだ。
    喋れる状態じゃないのは見てわかるだろうが。

    驚きで僅かばかりに元の調子を取り戻した沈九は、声にならない声で毒づく。

    驚いたことに、相手は正確に言葉を聞き取って反応した。いや先程もそうだったか。

    【あなたの魂を使用して、時を遡り、分岐した世界の所有者になれます。】

    …!

    疑念は尽きないが、閃くものがあった

    ……

    …何年まで遡れる?

    【現在のリソース総量より、8年が限度です。】

    洛氷河がすでに弟子になった後だ。
    ならば奴を一刀の下に切り捨ててしまえば自分は罪に問われるだろうが岳師兄は助かる。

    【システムの仕様上、洛氷河を殺害することはできません。】

    なんだと?!

    【また貴方の魂はブランチのコアとなるため、世界へ直接の介入はできません。
    貴方の体には、別の魂をインストールします。】

    別の魂…?
    どこの獣とも知れぬ魂に自分のガワを使わせて岳師兄の側に居させるなどゾッとする。

    こんな話は聞かなかったことにしよう。
    きっと壊れかかった自分の妄想だ。

    ギギーッと心の扉を閉じかけたとき、しすてむが慌てたように付け足した。

    【インストールする魂の選定に、可能な範囲で条件をつけられます。】

    …岳師兄に決して敵意を持たないヤツを。

    【リクエストは承認されました。】




    【確認。
    魂を使って、ブランチのオーナーになりますか?】

    沈九はもう迷わなかった。

    ああ。くれてやる。こんな人渣(クズ)みたいな魂ならいくらでもな。


    突如、引き絞られるような眩暈と強烈な頭痛が襲ってきた。
    目の前が真っ白に塗りつぶされ、異様な点滅を繰り返す光の筋が次々と横切るのを見ながら、沈九は意識が薄れていくのを感じた。


    己が、かつて自分を救おうとした師兄と同じ道を選んだことを、彼はまだ知らなかった。


    ---------
    …6年後…
    ---------

    果ての見えない広々とした電子空間に座禅を組み
    張り巡らされた電子回路に接続された沈九は、カッと目を見開いた。

    あんの軟弱野郎ーーー!!!!一言呼んでやればいいだろうが!!!

    この空間に来てから、外面を取り繕う必要がなくなった沈九は、随分素直に感情を出すようになっていた。

    話し相手はもちろん合成音声のシステムしかいないが。


    岳師兄が、あの師兄が、七哥と呼んで欲しいと絞り出すように言ったにも関わらず、断固断りを入れた今の沈清秋を目の当たりにして、沈九は今日も今日とてブチ切れていた。


    電子回路の煌めくこの空間で、沈九はずっと己の魂を修復しては、システムに供給し、世界を維持してきた。

    この世界は、自立して成長する分にはエネルギーの消費が少ない。だから人ひとりの魂如きでも維持ができる。
    ただし世界への干渉は霊力がごっそり削られ、世界の維持が危うくなるので、基本的に見守ることが前提だった。

    しかも、洛氷河の命に危険が及びそうになると、システムが沈九の承諾も得ずにリソースを持っていって助けてしまうクソ仕様である。

    分岐後世界の沈清秋が、あきらかにこの仕組みを分かっていながら魔族に洛氷河を襲わせた時は、無理矢理な介入が必要であったために、そのとき溜まりつつあった余剰霊力の8割5分と魂の一部まで持っていかれた。

    あの時は我が身ながら絞め殺してやろうかと思ったものだ。
    残りの1割5分ではかなわなかったが。
    命拾いしおって。


    少し落ち着いてくると、沈九は先程モニターしていた師兄の独白を反芻してしばし思い耽った。

    薄々感づいていたことだったが、岳師兄は沈九のために初めから命を賭していた。
    その事実は、今や実態もない腹に温かい白湯が染み渡るような心地がした。
    なんともこそばゆい。

    …いや、自分も随分丸くなったものだ。
    魂が削れた分、幼い頃の残酷な記憶が薄れているせいもあるかもしれない。

    さて、このコントロールルームでは各地のいべんと映像が見られる。

    ただし沈九は、途中から基本的に沈清秋を追う映像を見ていない。
    なぜならあの!あの!!!洛氷河やら柳師弟やらとなかよくやっている様が!!それはもうしつこくしつこく目に入るからだ!!!!
    最初の条件に、奴らと喋るなと加えておけば良かったと…今も心の底から後悔している。

    なお該当映像をぶち切ったとき、システムAIから抗議がおきたので、お前だけで観ろ、と厳命した。



    あらためて師兄の無事を確認しようと、目の前に並ぶ無数のモニターから一つを拡大した。

    気丈に蒼穹山に帰り着いた岳師兄が、なんとか動ける門弟に指示を与えた後、崩れるように床についたのが視えた。
    今の師兄は玄粛剣を使用したことで魂が削られており、かなり危険な状態だ。


    【ティーン】

    控えめなシステム音が聞こえた。

    ジロリとディスプレイを睨む。

    【オーナー特別イベントを設定しました:

    岳清源の魂の修復を支援しますか?】


    どういうことだ。イベント?

    師兄の魂の修復に問題があるなら、当然支援するつもりだったが、なにやら怪しい挙動のシステムに疑念が湧く。
    だが、内容が内容だ。師兄に利するならここで断る選択肢はない。



    沈九は短く答えた。

    システムウィンドウはスッと消えた。


    リソースが組み替えられていく気配がする。

    と、コントロールルーム内の空間に電子回路の光の筋が走るのが見えて、沈九はハッとした。
    今までの世界干渉でこんな経験はない。

    まさか。

    回路はみるみる内に密度を増し、沈九の周りを取り囲んだ。

    【岳清源の夢に接続を開始します…正在加裁…】

    キャンセル!!!

    思わず沈九は叫んだが、長い付き合いで、こういう時にシステムが強行することは予想がついた。

    自分が何に動揺しているのかもよく分からないまま観念してキツく目を閉じた。


    【接続完了しました】

    その瞬間、空気などないはずのこの空間で柔らかな風を感じた気がした。



    ……


    「………清秋師弟?」


    ああ。

    モニターの向こうではなく、間近であの声が聞こえる。
    思わず唇が震えた。

    だが言葉は何も出てこないまま、ゆっくりと瞼をあげた。

    はたして目の前には、茫然とした岳清源が立っていた。

    「これは…」


    明滅する幾多の光の筋に繋がった自分は、どのように師兄の目に映ったのだろう。

    モニター越しに見守ってきた師兄が、すぐにも触れられそうな側に居る。
    見慣れたはずの柔らかな眼差し、いつでも伸ばされた背筋、威圧を感じさせない広い肩。
    無性に懐かしいと思ってしまうのは何故なのか。


    いつまでも呆けた顔をしていられない。
    沈九は何年ぶりかに、冷酷な「沈清秋」の仮面をまとおうとした。

    その、わずかな表情の変化に気づいた岳清源は、目を見開き…そして顔を歪めたものだから、沈九は焦って顔作りに失敗し、動揺を表にしてしまった。
    師兄が泣いている?!?!何故?!?!

    「君が、小九なのか」
    師兄のかすれた声は、もはや確信していた。

    無いはずの心臓が跳ねた気がした。

    何も言わない沈九に、
    有無を言わせぬ仕草で岳清源は沈九の手首を取り、目を閉じて脈を探った。

    そしてすぐに戸惑ったように目を開けた。


    「岳師兄。ここは夢の中です。そんなことをしても意味がありません」
    沈九は震えずに発声できたと思う。

    「夢…」

    今度は沈九が無言で師兄の魂をスキャンする。
    発光する円柱が師兄を足元から包んだ。

    人差し指で師兄の鳩尾をスッと上からなぞれば、
    瞬く間にその魂は修復された。
    オーナー特権である。

    されるがままの師兄だったが、何が行われたかは気付いたようだった。
    そして、沈九がこの世ならざる次元に在ることを察した。

    師兄は逡巡しながら口を開いた。
    「小九…君は昇神を…?」

    「…当たらずとも遠からずと言ったところです」
    沈九なんとも言えない苦ーい顔をしてしまった。神ってこんなんかな。


    2人はそれ以上言葉がないまま、どれほどの時を静かに見つめあっただろう。

    かつてはずっと、気遣う兄が話しかけては、沈九が苛立ち、すれ違うことが慣いだった2人だった。

    初めて静寂を分かち合い、何かを解り合えたような気さえした。
    それは心地よいといって差し支えなかった。


    ああそうか、伝えなければ。
    砕けた剣のことを。

    「…七哥、あなたは、かつての約定を果たされました。」

    岳清源はまた目を見開いた。

    沈九の視界の端に、ポンっと、接続解除ボタンが表示された。
    この野郎、やっと出てきたな。後で覚えていろ。

    あらためて師兄の顔を見れば、何の約束のことかは理解できるものの、戸惑っていることがありありと分かる。
    だが、沈九はそれ以上の言及は要らないとも思った。

    約定が果たされた事を沈九が知っている。その事が師兄に伝わりさえすれば良いことなのだから。

    「どうぞお達者で」

    その言葉と共に、接続を解除した。

    コントロールルームはもとの静寂に戻る。
    沈九は、長い長い息を吐いた。


    そして兄に脈を取られた手首を眺めながら、
    自分が少し微笑んでいることに気づいた。





    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works