I was born (You Are My Sunshine:妊娠中江澄と虞紫鳶、江楓眠夫婦)You are my sunshine
「産みたいのです」
己に悪しくも似た意志の強い瞳で娘は言った。今はその気質が憎らしくすらある。
子を宿してから悪阻はひどくなるばかり。医者に妊娠の中断をすすめられるほど苦しみながら強情を張る娘に虞紫鳶は苛立っていた。
未だ見たこともない孫と、今目の前で息も絶え絶えの己が産んだ子と、どちらを優先するかなど考えるまでもなく明白だ。
「阿澄、貴方の命が危険なのよ。これ以上は見過ごせないわ」
汗で額に張り付いた髪を後ろに流してやれば娘は隈の浮いた目元を細めた。
「母上」
か細いながらも芯の通った声だ。
「母上」
虞紫鳶がそこにいるのかと、たしかに聞いているのかと確かめるように二度も呼ばれる。愛娘の声をよく聞こうと顔を近付ければ胸元に手が伸ばされた。そのまま病み細った指が力強く衣を掴む。赤子が手に触れたものをその幼い力のめいっぱいで握りしめるように江澄も確かに強く母の衣を握る。
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