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    ゲニー

    ZL小説
    ↓こっちは画像SS倉庫https://poipiku.com/6123992/

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    ゲニー

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    【現パロ/ゾロル】
    ・無自覚両片想いのゾロルです(ハピエン)
    ・最近わけあって構ってくれなくなったゾロにぷんぷんルフィ。ウソナミがひと肌脱ぎます。
    ・ちょっとした事件の末にくっつくゾロルの話
    ・べったーから移動しました

    #ゾロル
    zolu

     『ゾロの愛情が足りないルフィの話』



     ルフィがまーるいほっぺたをファミレスのテーブルにぷにりとくっつけて、ハァ〜〜っとため息を吐いた。
     ぴんぴん跳ねている黒髪も、心なし元気がない。でっかい目は虚ろだし、細い手足もだらーんとして、ブルーオーラ丸出しだ。
     ウソップはそんな親友を向かいの席で目の当たりにして、びっくりし過ぎて声も出ない。
     毎日毎日食欲旺盛な彼が、ファミレスに来てメニューも開かないなんて、この世の終焉が近いのかも知れない……てのはもちろん大げさなウソップならではの発想だけど、それほどの非常事態と理解して頂きたい。
    「ル、ルフィさん……? ど、どうしたのかな?」
     怖くてあんまり聞きたくないけども。
     ここへウソップを呼び出して「話を聞いてくれ!」と意気込んでいたのはルフィの方なので。
     電話ではどちらかと言えば怒っているような口ぶりだった……と思ったが、これいかに?
     しかーも、
    「ウソップ〜……おれ泣きそう」
     とか訳のわからないことを言い出したのだ。
    「はぁ!?」
     つい素っ頓狂な声を上げて周りをチラチラ伺う。デカイ声出してすいません。でも幸い客は少ない。
     当の親友が今度はテーブルに顎を乗っけて、なんとも浮かない顔でウソップを半目でじっと見た。左目の下の傷が普段ならやんちゃっぷりを体現してるのに、今は効力なし。
     そして言うには、
    「ゾロが遊んでくんねェんだ……」
     だった。
     正直、ウソップはそんなことかよ! とガッカリした。お前は小学生か。
     2学年先輩のゾロと、ルフィは仲がいい。
     大学生になって見つけたゾロ先輩をルフィはそりゃあもう気に入っていて(多分剣士だから)、ここんとこずっと遊んで貰えてないのはおれの方!と言い切れるくらいには、しょっちゅう一緒にいるところを見ていた。
     一体ゾロ先輩に何があった!?
    「さっきもゾロに大学で遭ったんだけどよー、今日こそ遊ぼうって誘ったのにまた『無理だ』って言われちまって……。ハァ、泣きそう」
     泣きそうという割に全く泣く気配はなくちょっとホッとするけど、本人的には泣きそうなほど悲しい出来事だったのだろう。ていうか多分、ウソップに電話した時は本当に怒っていたに違いない。彼は単細胞なので。
     それがだんだん悲しみのほうが勝ってしまったと……。
    「と、とりあえず何か注文しようぜ?」
     ウソップが長鼻をポリポリ言うと、ルフィはぴょこんと頭を起こして猛然と料理を選び始めた。
     やっぱゾロより肉だよな? そうだよな?? そうと言ってくれルフィー!!
    「おれ牛フィレステーキ500グラム! あとコーラ」
    「……え、そんだけ?」
    「ん?」
     ルフィは自分じゃ気付いてない、明らかに量が少ないことに。これは確かにおかしい。
     ウソップはおれの手に負えねェかも!と瞬時に判断し、テーブルの下である人物にSOSのメールを送った。
     注文を終えるとまたルフィがしゅうんと肩を落とした。
     見ちゃいられねェ……。
    「ゾロは忙しいんじゃねェか? 3年だし」
    「そんでも遊ぶ暇くらいあるだろ」
     しまった、ルフィに一般常識など(絶望的に)通用しなかった。
    「いつから遊んでねェんだ?」
    「もう2週間くらい前からかなァ。ハァ〜〜」
    「ため息ヤメろ。幸せが逃げるぞ」
    「おれはゾロと遊べてねェから既にシヤワセじゃねェんだ……」
    「そんなにかい……」
    「ウチにも呼んでくんねェ。お泊りもダメだって」
    「泊まりにも行ってたのか!?」
    「うん。金曜から2泊3日、毎週恒例だったのになァ……」
    「ままま毎週金土日だとォ!? いっくらゾロが一人暮らしでもそりゃあ泊まり過ぎじゃねェか!?」
     もうびっくりネタしか出てこない。こんなバイタリティの鬼で元気の塊ルフィと毎週末を過ごしてよく疲れなかったな、ゾロ先輩よ!?
     いや待て、とうとう疲れて相手したくなくなった、とか……?
     ルフィといるのは楽しいし刺激バツグンなんだけど、凡人の自分だったりゾロのような一匹狼タイプにはある一定量を超えると苦痛でしかないと思うのだ。
    「ゾロと遊びてェなァ」
     ルフィが切なげな声を出した。あのルフィが。バイタリティの(中略)ルフィが。かなりの重症で間違いない。
     こんな人恋しげなルフィをウソップは初めて見るから……。
     そしてルフィはとうとう箍が外れたように、
    「ゾロ不足!! ちょーゾロ不足!! おれはゾロが足りねェぞ〜〜!!!」
     ばーーん!
    「こ、声がデケェよルフィー!」
     大爆発しやがった〜〜。

    「ゾロの愛情が足りねェ!!!」
     ドン!!

     愛情って何だ!? お前はゾロのなんなんだ!?
    「かか勘弁してくれよもう」
     泣きたいのはおれだあぁぁ……。
     ナ、ナミ〜! 早く来てくれェェ!!←SOSの相手

    「何二人で叫んでんの? バカじゃない?」
    「ナミィ!!」
     助っ人現る! おれをこの状況から救ってくれる(対ルフィ用)救世主様!!
    「あーナミじゃんか〜聞いてくれよ〜。ゾロが遊んでくんねェんだよォ〜〜」
     うわーん!とルフィが喚き始め、もうこうなるとルフィは面倒くささしかなかった。
    「うるっさい! ここはファミレス! 公共の場!」
     ──ガコン!!
     ふしゅううぅ〜……。
    「しゅいませんでじだ……」
    「さすがナミ。一発だぜ」
    「あんたもよウソップ。ルフィが面倒な時だけ呼び出すのやめてよね。ここは奢りよ」
    「もちろんです!」
    「で? ゾロが遊んでくれなくてつまんないから愚痴聞けってこと?」
     ナミはウソップの隣へ座ると、メニューを捲りながらあっさり事の成り行きを把握した。
    「ナミもやけ食いに付き合ってくれ!」
    「そういう話だったのか!」
    「嫌よ太るから」
     ばっさり。
     ナイスバディのナミはアイスティーだけ注文すると、
    「そんなにゾロがいいの? ウソップじゃダメなの?」
     しらぁ〜とした顔でオレンジ髪を耳に掛けた。
    「ウソップと遊ぶのも楽しいけど……ゾロがいい」
    「そこはもうダメでいいよルフィちゃん……返って傷つくよう」
    「ご、ごめん。だって」
    「だって、何?」
     ナミが掘り下げる。
    「おれゾロじゃねェとダメみてェ……」
    「恋でもしてるの?」
    「なんだそれ」
    「ハイハイ。まぁいいわ。遊べない理由は聞いた?」
    「聞いてねェ」
    「でしょうね」
    「でも向こうから教えてくれたぞ。最近寝てないからとか疲れてるからとか行くとこあるとか、バイトあるとか面接とか? ウチに呼べないのは散らかってるからなんだと。ゾロんちいっつも綺麗なのに変だよなァ……」
    「面接とバイトは本当だとして、他は怪しいわね」
    「そうなのか!?」
    「おかしいと思わない? あの昼寝大好き体力バカのゾロよ? 道場しか行くとこないゾロよ? アンタの相手を毎日しても平気のへっちゃらで涼しい顔してたあのゾロなのよ???」
    「最後のそれどういう意味??」
    「そのまんまの意味よ」
     ルフィはこてんと首を傾げた。
    「ぷくく」
     思わず吹いたウソップをルフィがむうっとした顔で睨んでくる。今度はすねすねモードルフィさんだ。
    「じゃあ……おれに嘘ついたってことか?」
     と唇をとがらせる。
    「普段言い訳しない人が自ら言い訳するってことは何か隠してるからよ」
    「おおお……そういうもんなのか。隠し事かァ……さっぱりわかんねェ」
    「でしょうね。ルフィだもんね。でも私から見てもゾロは結構ルフィを可愛がってると思ったんだけどなぁ?」
    「それはおれもそう思う」
     うんうん、とウソップも肯定した。
    「うう〜……ゾロ不足。しぬ」
     本当に落ち込みまくっているルフィの様子に早々にさじを投げたのは、ウソップじゃなくナミだった。
    「私達がそれとなく探ってきてあげる」
    「ほんとか!?」
    「待てナミ、『達』ってことはおれも入ってる?」
    「入ってる」
    「はぁい……」
    「ありがとうナミ! ウソップ!!」
    「ハァ〜〜」と最後に大きなため息をついたのはウソップだ。
     それから運ばれてきたステーキをルフィは3回おかわりし(結局いつもの量)、その場はようやくお開きとなったのだった。


     翌日、約束通りにナミとウソップはゾロを捕まえた。
     大学の講義終わりに突撃し、無理やり時間を空けさせたのだ。
     面倒くさげな様子を隠しもせず、ゾロが緑頭をかしかしと掻く。不機嫌そうにしていると端正な顔立ちのせいか、気弱な者ならまず脇へ避けるほど威圧感のある男だ。
    「なんだよ、おれ早く帰りてェんだが?」
     ソイツがそんなマイホームパパ(!)みたいな言葉を吐いた。そのことにナミは違和感しかなく、琥珀色の瞳を瞬いた。
    「は? 帰りたい? ウチにそんっなに大事な用があるってこと? ルフィよりも?」
    「……なんでそこでルフィが出てくんだよ」
     明らかに目がキョドった。再三誘いを断ってるのをうしろめたく思っていることは明白。
    「ルフィ、泣いてたわ……」
     さめざめとナミが訴えると、
    「アイツが泣くわけねェだろ」
     あっさりとバレた。
    「おいナミ、効いてねェぞ」
    「ちっ、動揺作戦失敗ね」
     けれど、
    「ルフィには悪いと思ってる……」
     ポツリとゾロが本音をこぼし始めたのだ。
    「もう2週間くらい遊んでやれてねェ。最近じゃぷりぷり怒ってどっか行っちまう。申し訳ねェとは思ってるんだが……」
    「へー、反省はしてるんだ? じゃあ本当の理由は何?」
    「いや、あー、ちっとな」
    「ちっと何よ」
    「……か、彼女が面倒くさくて」
    「彼女? ゾロ、彼女が出来たの!?」
    「えー!? ゾロいつの間に彼女ゲット!? ずっりィ〜!!」
     これは単にモテナイ男ウソップの嘆きである。
    「なーんだ、そうだったんだぁ。じゃあ完璧ルフィはフラれたわけね」
    「フラ……!? それは違くねェか!?」
     ゾロが慌てて否定したけど、ナミの追求はここからが本番だった。
    「男友達より彼女を優先してたこと、じゃあどうルフィに説明するつもり?」
     ズバリ痛いところを突いてやった。
     ゾロは苦虫を噛み潰したような顔をして、
    「隠してたつもりはねェよ。けどアイツすぐウチに来たがるから……喧嘩になったらルフィに嫌な思いさせちまうし、そんなら最初から断っといた方がいいだろうと思ったんだ。ルフィは言い出したら聞かねェだろう? おれも置いてけなくなっちまうし……」
    「やっぱりルフィのことは可愛がってるのね? 一緒にいるのが苦痛になったわけじゃないのよね?」
    「当たり前だ」
    「ただ彼女とは会わせたくない、と……」
     ウソップが聞くと、コクリと頷いた。
    「ヤキモチ妬くからな、誰だろうと」
     よく見るとゾロの手の甲や腕に絆創膏。確かに面倒くさそうな女だ。
    「まさかゾロ……もう彼女と一緒に住んでるの? 同棲してるなんてルフィに知れたら幻滅されるから?」
    「同棲なんて大袈裟なもんじゃねェけど……」
     と納得いかない顔でゾロが呟いた。けれど続けて、
    「もういいよそれで。とにかくおれは帰るぞ、ウチで待ってんだ」
    「やだ! 甲斐甲斐しくてゾロっぽくない!!」
    「そう言われっから嫌だったんだよ!」
     ゾロは逆ギレすると、クルッと踵を返して立ち去った。

    「どうするウソップ……ルフィに正直に教えてあげる?」
    「ルフィ悲しむかなァ」
    「悲しむけど、友達の恋愛を応援できないようじゃ友達失格よ」
    「そ、そうだよな。でもそんな常識ルフィには……」
    「通じない恐れあり」
     ハァ、とため息をついたのは今度はナミだった。


    「結果を報告します」
     泰然とナミは始めた。
     もうルフィにはゾロを諦めるさせるほかないのだから、ここは淡々と。
     例のファミレスだ。
     ウソップはルフィの顔を見るに見られないのか、あっちを向いたりこっちを向いたり……ホント使えない(酷い)。
    「う、うん! ゾロ何だって!? おれんこと嫌いになったのか!?」
    「それはないわ。断言してあげる」
    「良かった〜」
     ほっとルフィが胸をなでおろした。
     でも酷な通告をしなきゃならない。
     その後のルフィのフォローも誓う。それはウソップと既に示し合わせていたことだった。
    「安心したとこ言い難いんだけどね、ルフィ……」
    「な、なに?」
    「ゾロね、彼女が出来たんだって」
     同棲の事はまだ黙っておく。
    「かのじょ……? 彼女ってあの彼女か?」
    「そうよ。恋人のこと」
    「…………」
     ルフィが押し黙った。そんなことで避けられたのかと怒るパターンも想定してたけど、やっぱりそうじゃなかった。
    「ルフィ、気を落とすなよ……おれ達がいるじゃねェか。それにルフィはモテるんだし、お前も彼女作ればいいし、つーか友達なんか腐るほどいるよな!?」
     ウソップが懸命に励ましにかかる。こういうときこそ得意の嘘八百で親友を慰めてほしいとナミは心から願う。
     ところがところが……。
    「ぐずっ……ふええっ」
    「ちょ……、ル、ルフィ?」
    「ママママジで泣いちまった……!」
     ナミとウソップは我が目を疑った。
     ルフィが大きな目からぼろぼろと涙を流して、泣いているのだ。
     いつもお日様みたいな笑顔でみんなを元気にしてくれる存在のルフィが、一人の男のために──。
    「ルフィ泣くなよう! ウワァァン」
    「ウソップあんたまで泣いてどうするのよ! 一緒にフォローするって決めたわよね!?」
    「ごうぇん、無理ィ〜」
    「あーんもう……。とにかく泣かないでルフィ」
    「うん。ごべんなぁ。えぐっ、ぐずんっ……ゾロに彼女……ゾロに……ゔ〜〜っ」
    「やっぱり嫌なのね」
     コク、とルフィが頷いた。
     ぼろぼろ溢れる涙を必死に両手で拭うけど、全然追いつかなくて、ポタポタとテーブルに涙が伝い落ちていった。
     それでもルフィはゴシゴシと涙を拭いて、
    「なぁナミ教えてくれ……」
    「なぁに?」
    「彼女って毎日ゾロに会えるのか?」
    「そうね、恋人同士なら当たり前に会えるわね」
     一緒に住んでるんだから毎日もクソもないけど、とは残酷過ぎてますます言えない。
    「じゃあおれもゾロの彼女になる」
    「………………え?」
    「おいおいおいおい」
     ふたりは一気に正気に戻った。
    「おれ、彼女にしてって言ってくる!!」
    「待てェェい!!!」
     ハモるウソナミ。
    「ゾロ今どこだっけ? あ、バイトだ! ほんじゃおれ行くよ、教えてくれてありがとなウソップ! ナミ!」
    「いや待っ──」
     そこには残念ながら、暴走したルフィを留められる者などどこにもいなかった。


     ルフィがゾロに「今からバイト先に行く」と連絡を入れると、「役所にいる」と返事が来た。
    「え、役所? って市役所? なんで!? まさか……こ、こ、婚姻届ってやつ出しにとか? ゾロ結婚するとか!?!」
     ガーンとショックを受けてしばらく真っ白になったルフィだけど、それならお祝いしなきゃいけない。もう彼女にはなれないのだから……。
     急いで電話するとバイトはこれからだと言うので、その前に会ってくれることになった。
    「ゆっくりゾロと話すの久しぶりだそう言えば……なんかドキドキするな〜」
     会えるのは普通に嬉しい。ゾロが既婚者になっても友達には変わりないんだし。
    「でもますます遊んで貰えなくなるんだなァ……」
     ハァ、とまたため息が出た。
     ルフィにとってゾロとは、とっても安心できて、背中を任せられて頼りになって、ルフィを守ってもくれるし叱ってもくれる、そんなずっとずっと一緒にいたくなる人なのだ。
     この気持ちはどうしようもない。
     ゾロじゃなきゃダメなのだ。
     それだけは何とか伝えたい……。
     待ち合わせ場所の公園に着くと、珍しくゾロが先に来ていた(ゾロはすぐ迷子になる)。
     ゾロ、と呼ぼうと思ったけど、なんとなく喉に詰まって出てこない。
     ルフィはほてほて歩いてゾロの元まで行くと、後ろからゾロのシャツをつんと引っ張った。
    「……ルフィ!」
     ゾロがルフィを振り返った。
     ゾロの翠色の眼がルフィを見つめる。その瞳がルフィはお気に入りだ。
    「ゾロごめんな突然」
     にこりと笑えたのは、やっぱりゾロに会えたことが嬉しいからだった。
    「いや……こっちこそごめん、ここんとこ構ってやれなくて」
    「ううん、だってゾロ、結婚したんだろ?」
    「け、結婚!? そんな予定ねェよ」
    「マジで!?」
    「どっからどうやってそうなったんだ……」
     嘆息しながらゾロがルフィをベンチへ促す。
     ルフィが座ると自分も隣へ座り、手に持っていたコーラのペットボトルを「ん」と差し出して来た。
    「ありがとう! なんだ違うのか〜。あービビった!」
    「こっちがビビった」
    「でも彼女出来たんだろ?」
    「それは……あー、あのなルフィ──」
    「どんな子?」
    「どんな、って、そうだな……スゲー甘えん坊だぜ。腹減るとうるせェし、怒ると言うこと聞かねェですぐ噛み付いて来やがる。気が強くて手も焼くが……まぁ可愛いよ」
     照れくさそうにゾロがそう言って笑った。
     彼女を思い出してるんだと思うと、なんか悔しい……。
    「ふぅん……。いくつ?」
    「18?」
    「なんかおれみたいな子だなァ」
    「あ、言われてみりゃそうかもしれねェ。顔も似てるぜ、デッケー目とか」
    「マジで!?」
    「くっついて寝たがるとこも」
    「……へっ?」
     くっついて寝る……くっついて寝る……とルフィは想像して、ちょっとエッチな場面が浮かんで頭をプルプル振った。勝手に顔が赤くなる。
    「ルフィ? どうした?」
    「いや! 別に!」
     見られたくなくてぷいっとそっぽを向いた。
     そっか、そうだよな。彼女とそういうことするよな……?
     でも結婚する予定がないなら負けたくない。
     ルフィはぐりんとゾロの方を向くと、
    「あのなゾロ! 頼みがあるんだけど!!」
    「は? なんだよ」
    「二番目でいいから」
    「何の」
    「ゾロの彼女の」
    「いや意味がわからねェ」
    「おれんこと、二番目の彼女にしてくれよ」
    「……お前男だろ」
    「じゃあ彼氏?」
    「そうじゃなくて……なんでそんなこと言い出した?」
     さすがゾロ、ルフィが突飛なことを言い出してもそこに本質を求めてくれる。
    「彼女だったら、ゾロと毎日遊べるんだろ?」
     ゆらゆらと視界のゾロが揺れてなんでかな?と思ったら、それは目縁に浮かんだ涙のせいだった。
    「ルフィ!? おい、泣くのか? 泣くなよ!?」
    「な、泣かねェ」
    「おれが悪かったよ……。そんなに寂しがらせてるなんて全然気づいてなかった。ごめん……」
     ぺこ、とゾロが頭を下げた。
     こういうとこ、ほんとゾロは律儀。
    「じゃあおれもゾロの彼女になるからな?」
    「それは無理だ」
    「……彼氏?」
    「だからそういうことじゃなくて!」
    「ならどうしたら前みたいに遊んでくれるんだよ!!」
     ルフィはもう、とにかくゾロ不足で死にそうなのだ。
    「それはまだもうちっと……。あ、やべェ、バイトの時間だ。悪いけど行くぜ。じゃあルフィ──」
    「ゾロのバカ! もういい!!」
    「待て待て! 話しは最後まで聞け!」
     立ち上がったルフィの腕をゾロが掴んで引き止めた。
    「何だよっ」
    「土曜日にウチに来い。金曜からはダメだぞ」
    「えええ!? いいのか!?」
    「あぁ。部屋片付けとく」
    「ん? ホントに散らかってんの?」
    「まぁな。とにかく土曜だぞ! いいな!?」
    「うん!!!」
     ルフィは瞳をキラキラさせて大きく頷いた。
     猛スピードで走って行くゾロにブンブン手を振りながら、土曜日にワクワクと思いを馳せた。


     待ちに待った土曜日がやって来た。
     ゾロの部屋は3週間ぶり。
     ドキドキしながらピンポンを押すと、「よう」といつも通りのゾロが出迎えてくれた。
    「お邪魔します!!」
     ゾロの部屋はやっぱり片付いていて綺麗だったけど、どことなく違って見えるのは久々だからだろう(ルフィは細かいことを気にしない)。
    「何して遊ぶ!? スイッチやるか!?」
     ルフィはバイトをしていないので、ゾロに無理を言って買ってもらったゲーム機だ。でもゾロのだからゾロの部屋に置いてある。
     ゾロはゲームをしないのでルフィが来た時しか活躍しないけども。
    「おう、久々にやるか」
     にやりと口角を釣り上げる笑い方も久しく見てなかったから、
    「やーっぱゾロはカッコイイな〜」
     ニヤニヤが止まらない。
    「は?」
    「やろやろ!! 何からやる!? グランドクルーズ!?」
    「わかったからちっと落ち着け。先になんか飲むか?」
    「あ、うん! 飲む飲む!」
    「ルフィ用のコーラはちゃんと補充済みだぜ」
    「さっすがゾロ〜」
     居間のローテーブルにちょこんと座り、ルフィはコーラを受け取った。
     ゾロはこう見えてとても面倒見がいい。
     末っ子ルフィは兄達にとても愛されてるけど、小さい時はみそっかす扱いだったし、父親がいるけどどこにいるか知らないし、こう見えて放任で育ってきた。
     ルフィのことを一番に考えてくれるゾロは、いつも辛抱強くルフィの相手をしてくれて、そしてちゃんと同等に見てくれる。
     それがルフィは何より嬉しかった。
     やっぱ離れたくねェなァ……。
    「ダメだ、今日は楽しむんだ」
    「ルフィ?」
    「何でもねェ! 呼んでくれてありがとなっ」
     ゾロがふっと微笑んで頭を撫でてくれた。
     コーラをゴクゴク飲んで炭酸で喉がキューッとなって、涙目のルフィにおかしそうに笑って。
     以前と何も変わらない空気。それにホッとする。
     それから一緒にゲームをやった。
     ゾロは意外に負けず嫌いなのでルフィに負けるとムキになる。ルフィなんかもっとムキになる。
     白熱したバトルを繰り広げて引き分けで終えると、ルフィはダーッとその場に寝っ転がった。
    「疲れた〜けど面白かった〜」
    「面白かったな」
     絨毯にぱらぱらと散らばっているルフィの黒髪をゾロがすくように撫でてくる。
     なでなでと何度も撫でて、気持ちいいんだけど、ルフィはそれがちょっとだけ不思議だった。
     ゾロってこんなに触ってきたっけ??
     ゾロが今度はぽふぽふとルフィのお腹を叩く。
     するとぐぐう〜、とルフィの腹の虫が鳴った。
    「お、もう昼か。早ェなァ、ルフィと遊んでると」
    「おれもおんなじこと考えてた!」
    「だよな。飯にしようぜルフィ。適当に惣菜買っといた」
    「やった! メシメシー!!」
     二人とも料理は出来ないので毎度コンビニか弁当屋かデリバリーだ。
     広くもないローテーブルにいっぱい、ほぼルフィのためのおかずが並んだ。
     ゾロはルフィの食欲もよーくわかっている。
     あっという間に二人で完食してしまうと(殆どルフィがだけど)今度はベッドに凭れてDVDを観ることに。
     でも開始早々、ルフィはこっくりこっくり船を漕ぎだした。
    「ルフィ? 眠いのか?」
    「うん、腹いっぱいになったら眠くなってきた……」
    「相変わらずガキだな。っていうおれもめちゃくちゃ眠ィ……」
    「なははやっぱりな! ゾロ昼寝ターイム!」
    「おう」
     実はお昼寝タイムも恒例行事なのである。
     二人でベッドに並んで転がって、ルフィはゾロにくっついてすんすんゾロの匂いを嗅いでみた。
    「あーゾロの匂いもベッドも久しぶりだ〜。落ち着く〜これだよこれ〜〜」
    「なんだそりゃ」
     ゾロはいつでもルフィのしたいようにさせてくれていた。包容力のなせる技。
     でも、今日はちょっと違ってて……。
     ゾロが腕枕をしてきて、その腕でルフィを抱き込んできた。ゾロがくっついてくるなんて珍しい。
     しかもルフィの広いおでこに頬をすりすりしてきたのだ。
    「ゾロ?? 寒ィのか?」
    「あーヤベ……つい。気持ち悪かったよな」
     それにルフィは首を横に振る。
    「うんにゃ! 気持ちいいから別にいいぞ?」
    「そうか?」
     ゾロがルフィの腕や背中も優しく撫でてくれ、ルフィはやっぱりめちゃめちゃ気持よかった。
     そしてあーそっか、と納得もした。
    「ゾロはいっつも彼女にこんなことしてんだなァ。ラブラブだな!」
     にししっと笑ってゾロを見れば、気まずげ目を逸らされる。
    「寝る」
     からの、爆睡……。
    「逃げたなこんにゃろう」
     というルフィも、その後こかーっと寝てしまったのだった。


     ベルの音でルフィは起こされた。
     この音色は確か、ゾロの携帯だ。
     音が止むとゾロの声が聞こえてきて、ルフィは重たいまぶたを少しだけ上げる。
     のろのろ体を起こして、目をこしこし擦った。
     ゾロのヤツ誰と話してんのかな? 彼女かな??
    「もしもしおれだ。どうした? なんかあったのか? ……はぁ!?」
     電話に出たゾロの声に緊張が走った。その横顔も険しくなる。
     何事かと思い、ルフィは一気に目が覚めた。
    「ゾロ?」
    「悪い起こしたな。まだ寝てていいぞ」
     ゾロが早口に言ってまた電話の相手と話し始める。
    「ウチにいねェって……その辺探してみたのか? ……そうか。わかった、今から帰る」
    「どこ帰るんだ?」
    「実家だ。ルフィはここにいてくれていいからな。用が片付いたらすぐ帰ってくる」
    「誰かいなくなったのか?」
    「あぁ、まぁ……。ルフィが来るから昨日実家に連れてったんだが……」
    「ま、まさか彼女か!? つーか一緒に住んでんの……?」
    「そうだ」
     きっぱり断言されて、ルフィはなぜだか目の前が真っ暗になった。
     でもそんな感傷には浸っていられない。
    「おれも捜す!!」
    「いや、けど……」
    「ゾロの大事なヤツは、おれにとってもきっと大事なヤツになるから」
     強い瞳で訴えかけた。
    「ルフィ……」
     ゾロは眉間にシワを寄せ、少し逡巡していたが、やがて真っ直ぐにルフィを見た。
    「ルフィ、頼んでいいか。おれと一緒にアイツを探してくれ」
    「任せろ!!」
     ルフィはベッドから飛び降りるとゾロの腕をギュッと掴んで、
    「大丈夫だ、きっと見つかる!!」
     確かな口調で言い切った。
     ルフィの手をゾロが握ってくる。そしてこくっと頷く。
     にひっとルフィが笑顔を見せると、ゾロが小さく笑い返してくれて、ちょっと安心。
     思いつめてるゾロの顔なんかルフィは見たくない。
    「おれのバイクで行くぞルフィ。このメット使え、振り落とされんなよ?」
    「何度も乗せてもらってっから大丈夫!」
    「そうだったな。まぁ落ちてもルフィは着地すっけど?」
     前科ありだ。ゾロがニヤリと笑う。
     それからキーを手に取り玄関へ向かうゾロの後ろをルフィが続く。
     アパートの前で待っていると、ゾロが裏からバイクを転がしてきてふたり颯爽と跨った。
    「彼女どこ行っちまったんだろ……ゾロに会いたくなったんかな」
     でもゾロに連絡は来ていない。怒ってるのかも知れない。
     これってもしかしておれのせいかな。おれがゾロを独り占めしたから……?
     気持ちが沈みそうになってルフィは誤魔化すようにメットを被った。
     同じくメットを装着したゾロがキーを差し込む。しかし、ルフィはハッとしてゾロの肩を叩いた。
    「ゾロゾロ!」
    「あ?」
    「名前は!? 彼女の名前!」
     肝心なことを聞くのを忘れていたのだ。
    「……タマだ」
     …………ん?
    「……タマ? タマさん?」
    「タマは生後3ヵ月くらい、メスの三毛猫だ!」
     ブォン、とゾロがエンジンを噴かせた。

    「…………猫ォ!?!?」

     ゾロが一緒に住んでる彼女って……猫だったのかァ!?
     バイクが猛然と発進した。
     ルフィは慌ててゾロにしがみつく。
     流れる景色と一緒に、なんだか胸のモヤモヤしたものがサーッと消えていった。
     ゾロに恋人はいなかった──。
    「良かったァ……」
     いやでももしかしてゾロが今日やたらなでなでして来るのって……?
    「タマの代わりかよーーっ!!!」
    「!?!?」
     バイクがグラグラと揺れ、ルフィはいっそうギューッとゾロに抱きついた。


     ゾロの実家は市街地から少し外れた山と海に近い、シモツキという町にあった。
     ルフィもさすがにゾロの実家に来るのは初めてだけど、くいなというお姉さんがいることは聞いていた。
    「ゾロ!」
     くいなは泣きそうな顔で家の門扉の前で待っていた。そしてしきりにゾロに謝る。
    「まだあんまり人に慣れてねェのに突然預けたおれが悪ィ、気にすんな。タマは絶対ェ探し出すから」
     逆に励ますとことか、ゾロだなァとルフィは思う。いやいやほっこりなんかしてられない。
    「はじめまして! ゾロの姉ちゃん!」
    「あ……キミがルフィ君? なんか想像してた通りね」
    「想像?」
    「ゾロがよく噂してたから」
    「ごほん! じゃあ、おれは海沿いを探す。くいなは家で待機な。タマが帰ってきたら連絡くれ。ルフィはこの辺の地理わかんねェだろうから家の周りを重点的に頼む。あまり遠くへは行くなよ?」
     ちゃっちゃかとゾロが仕切った。
     ちぇ〜、もうちっと姉ちゃんの話聞きたかったのに……。
    「わかった! ほんじゃ行ってくる!」
    「気をつけて行けよ」
    「りょーかーい!!」
     と、元気よくお返事したルフィが、それから辺りが薄暗くなっても戻ってくることはなかった。


    「どこ行っちまったんだ……。なんで戻って来ねェんだよ、ルフィのヤツ!!」
     ゾロは今、タマよりルフィが心配で堪らなかった。
     雨も降ってきた。
     猫は雨が嫌いだからどこかに隠れているだろうけど、ルフィは雨なんかへっちゃらでどんどん遠くへ行ってしまったに違いない。
     タマはまだ見つかってなかったが、ゾロの頭の中にはルフィの笑顔しか浮かんでこなかった。
    「ルフィ……こんなことなら連れてくるんじゃなかった」
     そもそも猫を飼っていることを内緒にするんじゃなかった。
     アパートに迷い込んで来た三毛猫をなんとなく世話するようになり、怪我していたこともあって飼い始めた。ゾロはルフィといるとルフィに掛かり切りになってしまう自覚があるので、敢えて会わせなかったのだが(無責任な飼い方はしたくない)、こんなことになるなら正直に話しておけば良かった。
     後悔してももう遅いけど……。
    「ルフィのヤツ携帯も持って来てねェのかよ! 多分財布もだよな……」
     慌てて飛び出してきたから仕方ないとは言え、うっかりなルフィ過ぎる。
     ゾロは、タマを探している時より声を張り上げてルフィの名を呼んだ。
     猫探しはくいなに任せ、町中を駆け回る。
    「ハァ…ハァ……ルフィどこだよ……。まさか山へ入ったのか……?」
     ルフィなら言いつけを忘れて好奇心のままに行きかねない。
     雨は降っているが傘は走るのに邪魔で持ってこなかった。実家の裏から山道へと入り、ゾロは生い茂る木々の間を駆け登る。
     ガキの頃によく遊んだ山だが、度々遭難者が出るほどの危険な山だ(迷子歴あり)。雨脚も強まってきたし、きっとルフィはずぶ濡れになって体温がどんどん奪われてしまう。
     一刻も早く見つけてやらねェと……。
    「ま、ルフィのことだから大冒険とか言って楽しんでそうだけどよ!」
     ほぼほぼ正解だろう。
     ルフィとの付き合いはまだそう長くないが、ゾロは誰よりルフィを理解している自信があった。
     遊んでいるときはいつでもルフィのことを何より優先した。
     それが、日々の猫の世話や病院通いや、本来の飼い主が探してやしないかと役所を回ったりもしていて、ルフィと会える時間が減ったことをゾロも本気で残念に思っていた。
     早くタマには躾やらなんやら覚えさせて、一人で留守番させられるようにしねェと……そう焦る気持ちがルフィの本心を見えなくして。
    「ったく、情けねェ話だぜ……」
     顔に当たる雨をゾロは腕で拭って、目を凝らしながら獣道を注意深く登って行った。
     やがて、かすかに猫の鳴き声が聞こえた気がしてハッと足を止めた。
    「タマの声だ!」
     もしかしたらルフィと一緒にいるのかもしれない、それだけを心の頼りに声のした方へ向かう。
     すると大きな木の根元に蹲っている細身の体を見つけ、ゾロは全身の力が一気に抜けた。
    「いた……」
     ルフィが、いた。
     その腕の中には三毛猫のタマ。ルフィはタマを見つけていたのだ。
     ゾロがゆっくり近付くと、気配に気付いたルフィが顔を上げ、ゾロだと解るなりパァッと破顔した。
    「ゾロォ!」
     タマを抱いたままそろそろと立ち上がる。
     ルフィはやっぱりずぶ濡れだったが、大きな木は立派な雨避けになってくれたようだ。
    「ルフィ……良かった」
     ゾロは呼吸を整えてから、ルフィに歩み寄る。
    すぐ目の前にルフィの体温を感じてようやく本当に安堵した。
     タマがゾロに気付いたのか、にゃあにゃあと嬉しそうに鳴いている。
    「あ、やっぱこいつがタマだよな!? こいつ逃げるから追っかけたらこんなとこまで来ちゃってよォ、したらこいつ慌ててこの木に登ったんだけど、降りられなくなっちまったみたいで、なんとか助けたんだけどびちょびちょで震えててさ、あっためてやらねェとと思って、おれ──」
    「ルフィ……!」
     ゾロは猫ごとルフィをきつく抱きしめた。
     タマがふぎゃ!と潰れたような声で足元に避難する。でもゾロから離れる様子はない。
     抱きしめられたルフィはびっくりしているのか、何も喋らなかった。
    「心配したぞ、ルフィ」
     何よりも彼を優先してきた理由が、今やっと解った気がする。
    「ゾ、ゾロ? どしたんだ? ゾロもびちょ濡れじゃんか……ってあれ? もしかして……捜されてたのはおれか!?」
    「その通りだ」
    「わ〜……ごめんなゾロォ……」
    「100万回謝れ」
    「マジか……。ごめんごめんごめんごめ──」
    「嘘だよ。謝るのはおれだ。タマのこと黙っててすまねェ。こんな所で迷子にさせちまって……本当に悪かった」
    「いいよ。タマ探し楽しかったもん。にししし!」
    「強ェよなホントお前は……」
     そっとルフィの体を離すと、ゾロは雨に濡れたルフィの小さな顔を両手ですっぽり包みこんだ。所々汚れている。
     親指の腹で撫でるように、ゾロは優しく何度も拭ってやった。
    「もういいって、くすぐってェ」
     ルフィがくすくす笑う。耳に心地いい。
     いつもならつやっと朱い唇がやや色を失っていて、どのくらいここで蹲っていたのかと心が痛んだ。
     弧を描くその唇から、ゾロは目が離せなかった。
     何とかしたくて、でもどうしていいのかわからないまま、ゆっくりと自分の唇でルフィの唇を塞いだ。
     ざあ、と雨の音だけが二人の耳に届く。
     ルフィは最初、何をされのたかよくわからなくて目をぱちぱした。
     この間近にあるのはゾロの顔だ。でも近すぎてよく見えない。
     ゾロの唇は暖かくて、そこから体温が流れ込んでくるのが気持ちよくて、そして幸せで……ルフィはそっと目を閉じた。
     タマがごろごろと喉を鳴らして二人の足に体を交互に擦りつけてくる。
     それからにゃあ、と甲高く鳴いたからか、静かにゾロの唇が吐息とともに離れていった。
     雨の雫で味なんかなんにもなかったけど、唇からどんどん体が温まっていくのが解る。
     しばらくふたり黙って見つめ合っていると、
    「あ」
     と、間抜けな声を上げたのはゾロだった。
    「あ?」
    「わ、悪ィ!!!」
    「!?!」
     ごしごしとゾロが自分の腕でルフィの口を拭いてくる。そりゃもう凄い勢いで……。
    「んむむ! んっ、む、こらゾ……い、痛ってェって!! 拭くなバカ!!」
     なんで拭いちゃうかなーもったいねェ〜。
    「何やってんだおれは……」
     ゾロが頭を抱えた。
     なんか知らないけど凹んでいる。おれのファーストちゅーを奪っておいて。

    「ゾロ」
     ルフィは確信を込めてその名を呼んだ。
     にこりと、笑顔で。
    「……?」
    「ゾロ大好き」
     にひっと歯を見せて笑ったらゾロがポカンとするので、なんだか可愛いなぁと思った。
     確信、それはゾロを好きだという気持ち。
    「ルフィ?」
    「おれ、こんなに誰かのこと好きになったの初めてだ」
     言いたくて言いたくて告げたらまたぎゅっと抱きしめられた。
     それからルフィの耳元に、ゾロが照れくさそうに呟いた。
    「それはこっちの台詞だ」


     雨が降り止むまでは帰れない

     切り分けた果実の片方のように

     今でもあなたはわたしの光──




     後日談。

     報告したいことがある、とルフィから連絡があり、例のファミレスに招集されたウソップとナミは、またどんな爆弾を落とされるのだろうとハラハラもしていたが、正直あれからルフィとゾロがどうなったのか好奇心を隠しきれないでいた。
    「ねえウソップ──」
    「皆まで言うな。ルフィが本当にゾロの彼女になれたのかどうか、って話だろう?」
    「うん……。怖くてあれから連絡取ってなかったのよ。だって泣くルフィはもう見たくないじゃない」
    「全面同意だ。けどあのルフィだぜ……? ハイ、常識なんか?」
    「通じなーい!!」
    「ご名答!!!」
     とか至って真面目なコントを繰り広げていたら、いつの間にか件の二人が到着していて思わず絶句した。
     驚いたのは突然の登場のせいじゃない、なぜなら、ルフィがゾロにおんぶされてたから……。
    「ルフィ!? その足どうしたの!?」
     ルフィが右足首に白い包帯をぐるぐる巻いていたのである。
    「木登りして降りる時に着地失敗した」
    「はい!? 運動神経抜群のお前がァ!?」
     ウソップの丸い目ん玉が飛び出る。
     その疑問にはゾロが答えてくれた。
    「ルフィは猫を抱いてたんだよ。助けるために。そんで降りた先に石があんのに気付かなかった……全部おれのせいだ……」
    「ハァ〜もう気にすんなって言ってんじゃんかゾロは〜」
     ゾロが二人の向かいの席にルフィをそっと下ろすと、自分はその隣に着いた。
    「ルフィが猫を助けてなんでゾロが謝るの?」
     ナミ素朴な質問。
    「おれの猫だからだ」
    「……ゾロの猫? あんたが猫ォ!?」
     ナミに疑わしい目でじろじろ見られ、ゾロが「ほらこうなる」と渋面を作った。
    「それよか足痛くねェかルフィ」
     ちなみにどこへ行くにもゾロがおんぶとバイクでルフィを運んでいる。あの山からもゾロがおんぶで下りた(奇跡的に迷わなかった)。
     保護者代わりの兄達にも詫びに行ったが、ルフィが勝手にやったことだ気にするなと本人と同じことを言われた。
    「うん平気。ありがとゾロ」
    「礼なんか必要ねェって言ってんだろうが」
     がしがしとゾロがルフィの頭を掻き回す。
    「なんかキミたち……よりいっそう仲良し度増してねェ?」
     次の素朴な疑問はウソップ氏。
    「仲良しって言うか〜…」
     ルフィがゾロをチラリと横目で見上げた。
    「おれとルフィは付き合うことになった。今日はその報告だ」
     どきっっぱり、と、ゾロがカミングアウトしてくれたのだった。
    「はいいい!?!?」
    「あーあ、おれが言いたかったのに〜」
    「悪ィ悪ィ。じゃあルフィの番な」
    「おれ! ゾロの彼氏になりましたァ!!」
     どーん!
     ご丁寧にも両者からご報告を受け、ウソナミは揃って白目を剥いた。

    「おめでとうございます……」
    「どうぞお幸せに……」
    「うん、もうすぐゾロのアパートで一緒に暮らすし、そしたら毎日一緒にいられるし、おれは間違いなくシヤワセになる!!」
    「おれも幸せになる」
    「ラブラブオーラ撒き散らすなぁぁ大迷惑ですぅぅ」
     とは返したものの。
     二人が本当に幸せそうで、とっても安心した二人なのでした。


     それからまたまた月日は経ち──。
     いつものファミレスに、いつもの仲良し3人組である。
     ルフィがいつになく暗い顔をしているので、臆病者ウソップは身構えていた。
     隣のナミはすました顔で紅茶を啜っている。
    「おれ今すんげーゾロ不足なんだよォ……」
    「出った……」
     そう言えばゾロが一週間ほど前から剣道の遠征合宿で留守なのだと言っていた。にゃんこはルフィが面倒みてるのだろうか。
     でもルフィの食欲がさっきから止まらない。あの日とは全然違う。
     なんでだー??
    「でもおれ実はまだゾロの愛情満タンなんだよ。だから全然平気!」
    「なるほどそれでか!」
     だからルフィの食欲が落ちてないのか!
    「ん?」
    「こっちの話だ。そっかそっか〜ルフィは愛されてんだな〜」
    「うん!! 合宿行く前の日におれ、ゾロと初えっちしたんだー♪」
    「ぶっっほぉぉ!!」
     突然の下ネタきたーー☆
    「あらついに」
     やっとナミが口を開いた。
     て言うかナミよ……一体何を知っている!?
    「ゾロと離れんの寂しいからヤダヤダ言ってたらさー、ゾロのヤツ……うひひひ。やっぱもったいねェから言わねェ! ギャー思い出してもゾロかっちょいい〜♡」
    「はいはい、かっこいいかっこいい。ナミも何か返せよ」
    「セクハラよウソップ」
    「おれェ!?」
    「アレっていいもんだなぁウソップ!? そっこー愛情満タンになるよな? すっばらしい!!」
    「おれに聞かないで……」
     DTなんで……。
    「明日やっとゾロ帰ってくるしスゲー待ち遠しい!!」
    「あれ? てーかキミ達、付き合ってもう半年くらいにならないっけ?」
     ウソップは指折り数えて訊いてみた。
    「そうだけど? タマがすっかりデブ猫になっちまった」
    「タマはどうでもよろしい。おれは半年も一線超えなかった事実に驚いている……」
     あのいかにも手の早そうなゾロが意外過ぎる……。
     そこへまたナミがポツリ、
    「ふぅん半年かァ……。ルフィにはまだ3年早い!って豪語してたのにィ。フフッ」
     ナミよだから一体ゾロから何を聞き出した!?
    「えっ、そういうもん!?」
    「まぁ……あれだろ、ゾロがそんだけルフィを大事にしてるってことなんじゃねェかな」
     これだけは確信を込め、ウソップは断言した。
    「おおそれだ! きっとそうだ!!」
     ゾロ不足になってもルフィが泣かないのなら、もうそれで何も言うことはないのである。

    「で、あんた間違ってるから教えてあげるけど、ゾロが帰ってくるのは今日よ?」
     しれっとナミ。
    「えっ? えええー!? おおお、おれ帰るぅぅ!!!」
    「はいはい、じゃあね〜」
     バタバタとルフィが店を飛び出して行った。
     残された二人は苦笑半分、安心半分。
    「ルフィらしいよなァほんと……」
    「ゾロもああいうとこがイイんじゃない?」
    「どんな趣味!?」
    「だってあのルフィと毎日毎日一緒にいてへっちゃらだったのって、結局好きだったからでしょ?」
    「あぁそうか!」
    「ルフィは好きなの駄々漏れだったけどねぇ」
    「うんうん!!」
    「で、ルフィ分の払いはあんたね、ウソップ」
    「マジっすか……」


     二人のアパートへルフィは急いで帰り、足元にスリスリしてきたタマを抱っこした。
    「タマ! 今日ゾロが帰ってくるんだと!!」
     タマの毛並みにルフィは顔を埋めて、早く帰って来ねェかな〜とワクワクが止まらない。
     ゾロはタマをルフィと二人きりにすることをとても心配してたけど(失敬な)、この一週間、結構うまくやってると思う。
     それよりもルフィはゾロ不足の方がよっぽど心配だった。前日も寂しいと駄々をこねた。
     そんなルフィにゾロはルフィの顔中にたくさんちゅーをしてきて、いつもと違うところをなでなでしてきて、やっとルフィがなんかいつもと違うぞ?と不思議に思い始めたとき、ゾロがじっとルフィを見つめて言ったのだ。

    『そんなに寂しいなら、刻み付けてってやるよ』

     いつも優しいゾロが思い出しても顔から火を噴きそうな色んなことをルフィにたくさんして、愛情満タン詰め込んでってくれたのだった。
     もう二度とゾロの愛情が足りなくなることはない。
    「今夜またしてくれっかな? うひゃ〜!」
     ルフィがタマを抱っこしたままベッドで高速ゴロゴロしたら、タマは迷惑そうに「にゃー!」と文句を言った。



    (おしまい)

    以下おまけです↓


    ***


     『ねこのきもち』


     ワタシは三毛猫のタマ。
     ご主人様の名はゾロ。

     ご主人様にはワタシの他にもうひとり、ルフィっていうペットがいる。
     ご主人様と同じ形をしててご主人様と同じ言葉を喋るけど、ご主人様がお世話してるからペットなんだと思う。
     ルフィとワタシの出会いはとある山の中。
     そのときご主人様がルフィを拾ったから、だからルフィはワタシの後輩。
     ご主人様はワタシとルフィのお世話で毎日とても忙しい。
     ルフィはたくさんご飯を食べるから、ご主人様は毎日ルフィのためにたくさんご飯を用意する。
     お風呂も毎日いっしょに入れてあげるし(ワタシはお風呂が嫌い)、ルフィが床に転がって寝ちゃったら抱っこしてベッドに寝かせてあげるし(ワタシはお気に入りのクッションで寝るのが最近のお楽しみ)、夜もベッドでいっしょに寝てあげて、たまぁにルフィはご主人様に可愛がられて気持ちよさそうに鳴いてる。
     だからルフィは、ご主人様が大好き。
     もちろんご主人様はワタシのお世話も完璧だから、ワタシもご主人様が大好き。
     ワタシ達のご主人様はとってもとってもカッコイイ人。

     ワタシはご主人様に甘えるのが大好き。
     ルフィもご主人様に甘えるのが大好き。
     だからたまに取り合いになるけど、でもワタシはルフィに譲ってあげてるの。

     だって、ルフィはワタシの大好きな後輩だから。


    (おしまい)

    猫好きのお友達たてやさんに贈らせて貰ったSSでした😊
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    😍😍😍😍😍💖😍💖
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