『ちゅっちゅゾロくん』
夜10時過ぎ、ルフィは今日も残業を終えて帰宅した。
晩メシを食べる暇もなかったので友人の弁当屋でたんまりお弁当を買い込んできて、唐揚げのいい匂いにつられてお腹がぎゅるるる〜と催促の悲鳴を上げる。
弁当屋サンジの海賊弁当はめちゃめちゃウマいんだけど、レジ袋を3つ(1つはおまけ)ローテーブルに置くと、ルフィは手もつけずにストンとソファに座った。
「ハァ……」
そしてふかーいため息。
別に仕事で疲れたわけじゃない、ルフィは細身の童顔に似合わずどんないかつい同僚よりも体力モンスターなので。
なら何なのかというと、近ごろのルフィにはちょっとした悩み事があり……。
すると肩にフワリとブランケットが掛けられて、
「おかえりルフィ。疲れてんのか?」
ソファの後ろからそっと肩を抱いてくる男がひとり。
「ゾロくん! ただいま〜」
彼はある日突然現れた『ボディケアローションZORO』の化身だ。ルフィはブラックな会社で踏ん張る自分へのご褒美だと思っている。
肌荒れが酷いとぺろぺろ舐めてきて、応急処置をしてくれる。
ルフィのお肌を完璧に保ってくれるぺろりんゾロくんなのだった。
「今日も肌の調子は悪くねェな。おれの効果絶大だ」
満足げにルフィのほっぺをぷにりとつまんで、ゾロくん。
「うん。ゾロくんのおかげだぞ。いつもありがとう!」
「礼には及ばねェ。それがおれの仕事だ。風呂上がったら今夜もちゃんと塗れよ?」
「う〜ん……」
「なんだよ、飽きたのかよおれに」
「あ、飽きてねェ!」
慌ててゾロの方を振り返ると顔が近い。ゾロは緑の短髪に切れ長の眼の、世間一般にいうイケメン男子である。
けど、今日もかっけェな〜〜! とか見惚れてる場合じゃねェんだ、今のおれは!
「あぁ、もう切れかけてたっけか、おれが」
「そう……! それなんだよ!!」
ルフィは立ち上がると棚から緑のボトル『ZORO』を手に取りゾロの元へ戻ってきた。
それを目の前に突きつけると、
「あと1回分くらいしかねェ!!」
泣きそうな顔できゅっと眉根を寄せた。
「なくなったら新しいの買ってくりゃいいじゃねェか」
「これがなくなったらゾロくんはどうなるんだ?」
「消える」
「新しいの買ってきたら?」
「更新は出来ねェ、悪ィがなくなったらお別れだ。もう誰も出て来ねェ」
「はぁ!? そんなの聞いてねェ!!」
「そう言われてもなァ。そういうシステムだし」
「じゃあ今のがなくなる前に新しいの買ってきたら?」
「同じことだ。更新とみなして消える」
「うう……」
「ルフィ?」
俯くルフィの顔をゾロが覗き込んできて、「髪ゴワゴワ」とか言いながら頭を撫でてくれる。
ゾロは色んな『ZORO』を買って来てもっとケアしろとうるさいんだけど、おれの給料は食費に消えるし、実は別の理由もあったりして……。
「おれもうこの『ZORO』は使わねェ」
「は? なんでだよ。それじゃおれの仕事が成立しねェ。また肌が荒れちまうぞ?」
「な、舐めてくれりゃいいじゃん、ゾロくんが」
最近すっかりすべすべルフィだけど、それでも寝る前はゾロがあちこちぺろりんして維持もしてくれるのだ。初めはくすぐったかったそれも今ではすっかり気持よくて大好きだ(たまに変な声出るけど!?)。
「あくまで応急処置だぜ。ちゃんと使え」
「イヤだ」
「ワガママだなァ……」
「だっておれは今のゾロくんが癒やしなんだもん……。離れたくねェ」
上目遣いで拗ねたように言うと、ゾロはハァとため息を吐いた。
「だから別の種類の『ZORO』買ってこいっていつも言ってんだろうが」
「ん? どういうことだ?」
「更新はできねェけどおれをバージョンアップすることはできる。そうすりゃ買い足しても当面は消えねェし、だからそれちゃんと最後まで使っちまえ」
「え〜!? そういう大事なことは先に言っとけよ!!」
色んなゾロくんが同時に出てきてペロペロされたらおれの身が持たねェと思って我慢してたのにー!(これが本音)
「消費者の愛着と情を利用して色んな種類試させようっていう、ただの製作側の罠だと思うが……」
「罠本人が何言ってんだ。そんなことどうでもいいよ」
ルフィは「早速買ってくる!」と財布を引っ掴み、マッハで自宅を飛び出した。
コンビニのコスメコーナーでルフィは腕を組み、「うーむ」と細い眉を釣り上げていた。
どの種類の『ZORO』を買うか、でめちゃくちゃ迷っている。
前に言われた『顔ローションZORO』にするか、『薬用リップZORO』にするか。
「いやでもさっき髪ゴワゴワって言われたから『ヘアケアZORO』もいいなァ。毎晩頭なでなではおいしい……。ん? あれ、これ新発売の『ボディソープZORO』じゃん!」
ここは新発売にしとくか? とルフィは考えて、ちょこっと想像してみた。
──ゾロくんがお風呂にも現れて? おれの体をゴシゴシ洗ってくれて……? それってつまり……。
「一緒にお風呂!? いやいやそりゃまだハードルが高ェ!!」
ついついコンビニでエキサイトして店員や客に変な目で見られたけど、ルフィは気づきもしない。
「無理だ。おれドキドキして死ぬ。や、やっぱリップ辺りから徐々に、だよな? うんそれがいい!」
もはや目的は使用効果じゃなくてゾロとのあーんなことやこーんなことである。
ルフィは意を決して『薬用リップZORO』を両手でそっと取ると、コクンと頷いてレジに向かった。
部屋に戻るとゾロの姿はなかった。
彼は神出鬼没だ。
本当はいつも居ると言ってたが、ルフィは常に見えてる訳じゃない。
リップを弁当の横に準備しておいて遅い晩メシにありつく。そもそもリップなんてルフィは使ったことがない。
「むぐむぐ、うんめェ!」
空腹が満たされればルフィの体力はすっかり快復するのだった。
そして3つ目のレジ袋から弁当を取り出していると、
「あ、これも貰ったんだっけ」
サンジがおまけでくれた焼酎だった。新人が調理用と間違えて発注しちまったからやる、とか言って。
「こんなのうめェんかな?」
ルフィは酒があまり好きじゃない。
試しにグビグビといつもの調子で一気飲みすると、やっぱり苦手な味がしてぶほぁっと噴いた。
「うえ〜〜っ」
ベーして思いっきり眉をしかめる。
こんなの喜んで飲む奴の気がしれねェ! ※個人の感想です
「おい大丈夫か?」
「ゾロくん!!」
自分の横にふと現れたゾロにルフィはぱあっと破顔した。
酒瓶を置いてリップを手にすると、
「薬用リップZORO買ってきましたァ!!」
シャキーン☆
「そうか」
「という訳で……」
ルフィはゾロの方へ体ごと向けると(なぜか正座)、まだ何も塗っていない唇をちょこんとつきだし、目を閉じた。
そして待つ。
──おれのめでたき初チューの瞬間を!!
「……」
「……」
「ありゃ? ゾロくん?」
「何だよ」
「チューは?」
「お前くちびる荒れてねェじゃねェか」
「そうだった……!!!」
やっちまったァァ!!!
「あ」
「あ!? 久々の『あ』!?」
それはゾロくんがケアしなきゃいけない箇所を見つけた時の合図なのだ。
ルフィがどこだろうとドキドキして構えていると、さっきは完全スルーだったルフィの唇をちゅっと吸ったのである。
「!?!?」
心の準備ゼロの初キスにルフィは大きな目をまん丸くしておまけに真っ赤になった。
ゾ、ゾロくんとチューしちまったー! すっげー!
「うめェ」
「へっ!? おれの口が!?」
「あぁ。ルフィこれもっかい飲め」
「……え、酒?」
もしかしてウマいのって、酒ェ!?
そっかゾロくんは酒好きだったのか……。
「おれは直接人間の食いもん摂取できねェからお前を介して味わうしかねェんだ」
「そうだったんか! 解った任せろ!!」
そしたらまたチューできるってわけだな!?
ルフィが苦手なお酒をぐびりと飲んで唇を差し出すと、またゾロがちゅっとキスしてきた。それだけじゃ物足りないのかぺろりんと舐めてくる。
図らずリップ効果も発動されたらしく、ゾロの周りがぼんやりグリーンに光り始めた。
「やっぱうめェなァ、酒。気に入ったぜ」
「ホントか!? じゃあもっかいもっかい!!」
「望むところだ。けどこんなもんじゃ足りねェんだが……」
「ど、どうすれば?」
「口移しっきゃねェだろ」
「ええええ」
一緒にお風呂にしときゃ良かった……!
と、ルフィが後悔してももう遅く。
その夜のルフィは酒に酔ったのか、はたまたゾロのキスに酔ったのか、気持よくこてりと寝てしまうまでちゅっちゅゾロくんの餌食となったのでありました。
(ゾロくんとお風呂編に続…かなーい!)←イワさん風
ビュ◯ネくんCMのバックハグを見て書きました(汗)
続きを書くとしたら次はゾロ本体が出てくる謎解きえっち編になります(いつ書けるかな…)
変な話でホントすいません(汗)