ランブラー・ローズ 薬指と中指のあいだの薄い皮膚を筆さきが行きつ戻りつする。筆は東の絵師が骨描きに使う細筆に似るが、北にのみ生息するリスの被毛を幼いキツネの髭で束ねて月の光を五十年あてた、れっきとした呪具である。
きわめて小さな動物の舌で指をたんねんにねぶられるのは、こんな心地かもしれない。ファウストは背中の産毛を逆だてて、唇をかむ。彼はこれまでに、数度、いたたまれない身ぶるいを押しころしている。
それを見たい。そう言ったのはファウストだった。
相手の肌に直接、大量の呪文や術式を描きいれたあとに魔力をこめることで、呪いに似た状態に落としこむ。あるいは守護する。古代呪術に近い方法で、はるか昔にそれを試したことがあるが、うまくはなかった。ファウストの部屋でファウストの蔵書をひらきながら、ミスラは退屈そうにそう呟いて、肩をすくめた。
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