醜いだとか美しいだとか「俺は目が見えない」
「なら何故見た目にこだわる?」
「俺が俺でいる為さ。ただ自分では答え合わせが出来ないから」
「今日も友有は綺麗だ」
「美しい君に言われると自信になるね」
「見えない癖に何を言う」
「君のは分かるさ。色が違う。それに滑らかで鍛え上げられたこの体、俺は前のも好きだったがきっと美しいんだろう。その面の下だって」
「口閉じてよ。紅が引けん」
繊細な指先が顎を掴み、細い筆が唇を這う。
「どうだ?君の好みか?」
「俺が引いてやったんだ。何故それを聞く?」
「俺はいつでも犬王の一等でいたいからさ」
少し本音を混ぜたのを誤魔化しながら、褌の上に女物の着物を羽織る。
「おい、そんなにはだけさせるな…今日は」
「君の印はそんなに目立つか?」
「まあね、友有にちゃんと分かるようにつけたから」
「あぁ、では隠すとしよう。誰にも見せやしないさ」
大きな歯型の付いた首筋に手を添えればまだその凹凸を感じることが出来る。
「友有」
「なんだ?犬王」
「俺は醜いぞ」
「お前が俺を綺麗と言う様に俺にはお前が綺麗に見えるだ。だからもし、全ての呪いが解けた時俺にもお前を見せてくれ」
「あぁ、今日面を取ることが出来たとして、それは能楽師としての俺の一面に過ぎないからな。本当の、バケモンの顔をお前に最初に見せてやる」
「ははっ、それは楽しみだ」
身体中に散りばめられた無数の赤い蕾を見ることは出来ないが、犬王から溢れる愛しさだけはあたたかく感じ、見ることが出来るのだ。