キミが悪い!とダヴィンチちゃんは言った。新しい絆を結んで召喚するときは、時々狂気に乗っ取られてしまう事がある。
狂気ゆえの行動を、正気で説明しなければならないというのはなかなかの拷問だと思う。
「それでマスター、その姿は何だ?」
王たる姿で腕を組んで見下ろすシャルルの前でバニー姿のまま正座した俺が出来るのは、真っ赤になって「すみませんでした」と小さな声で謝ることだけだ。
バニー教。
何処で聞いたのかは忘れたが、バニーの姿で召喚すると目的のサーヴァントが来てくれる、そんなおまじないのような話だ。
知った時は確か笑ってないないと否定していた気がするが、来てほしい相手が来てくれず石がどんどん溶けていく光景に心をやられて俺は狂気に落ちた。
そして思い出したのが、バニー教。
すぐさまマイルームへ戻り、なぜかあったバニー衣装に着替えて召喚ルームへ戻ると、「とっとと来い!」と力いっぱい石を陣に投げ込んだ。
その結果、召喚。
やってきたオベロンは俺を見て、台詞の途中で王子様ムーブを捨て去るほどドン引きしたけど、あいつは元からそんな奴だから気にしない。来てくれたんだからよし。むしろオベロンに『バニーに釣られてきた』という不名誉が付きまとう事になった。可哀想にな。
さて、それ以降、一応バニー教に頼ったことはなかった。
無かったが、今回はオベロン以来の苦戦を強いられた。呼んでも呼んでも来ない。石の在庫は減っていくばかりで、マシュやダヴィンチちゃんの視線は痛い。
でももしかしたら、次こそは、今度こそと止められないところまで来てしまい、そして再び狂気に陥った。
ただ今回、以前と違ったことはシャルルに見つかったことだ。
マイルームで着替えた後、バニー姿で全力疾走する俺に驚いて呼び留めていたらしいが理性の飛んでいた俺が気付くはずもない。
召喚ルームに入って石を投げこもうとしたところに追いついたシャルルが突っ込んできて強制終了。
「何やってんだ!」と羽交い絞めにしながら言うシャルルに、狂気に濁った眼で俺は抵抗し続けた結果、流石のシャルルもキレた。
武則天ぐらい怖いってこういう事ねと、だんだんと冷静になる頭で理解する羽目になってしまった。
「マスター、何をぼんやりしている?」
今も目の前で笑顔でキレている。
すみません、ごめんなさいを繰り返しているが、それでは許してくれない。
何度も引くことなく笑顔で理由を訪ねてくる。
正気に戻ると自分の恰好も恥ずかしいし、やった理由も恥ずかしい、そもそも実行するほどの精神状態に自分を追い込んだこと自体恥ずかしい。
「ごめんなさい、許してください、すみませんでした」
もはや土下座の域だったが、シャルルはどこまで行っても笑顔で「すべて話せ」と言うばかりだ。俺は泣いた。
恥ずかしさに泣きながら、ぼそぼそとここまでの経緯を語る。
シャルルは何も言わず、頷きもしないが、まっすぐ俺を見る視線で話を聞いているのは分かる。逃げようはなくすべて白状した。
話を全て聞いたシャルルは「それを本当に信じているのか?」と呆れた声で言った。
言われるまでもない、バニーで来るなんてありえないし、オベロンの時は偶然そうなっただけ。マスターがバニー姿だろうがスーツだろうが宇宙服だろうが、やってきてくれるサーヴァントには関係ない。
そう伝えると、シャルルはよろしいとばかりに頷く。
「それを理解しているのであれば、問題があるのはマスターの召喚に対する姿勢だろう」
「姿勢」
「ああ。適度なところで今回は縁がなかったと手を引くことも重要だ」
全く持ってその通りでぐうの音も出ない。
しかしそれが出来ていればこんな事態にはなっていないし、今後はその通りにできるかと言えば狂気に走った自分は信用しきれない。なにせ正気の時には笑っていたバニーを着ている。
「なら、召喚の折には隣に俺を置いてくれ。適度なところで止めよう」
「そ、れは……」
ありがたい話ではあるが、なぜか嫌な予感がする。思わず言葉に詰まってしまう。
途端シャルルの笑顔が消えて、真顔で「何の問題がある?」と言われてしまい、嫌な予感のことなど忘れてお願いしますと土下座して頼むことになった。
また笑顔を浮かべたシャルルに安心すると同時に、これから先の召喚を思うとなぜか涙が浮かんでしまった。
「そのバニーと言うのは、どういう構造になっているんだ。その胸当て部分は隙間が大きすぎて何の意味があるのか分からない。腰周りの調整はこの紐か?」
「引っ張らないで!手を入れないで!お尻触らないで!おさわりは禁止ですー!!」