前を歩くシャルルの姿を見つけて駆け寄る。
「おはよ!」
だけど何の反応もなくシャルルはすたすたと歩いていく。
少し離れたところからの挨拶だったけど、周りは静かで聞こえないなんてことはない、はず。いつもだったら止まって待ってくれたりするのに。
え、無視された?と焦って近寄ってみると原因はすぐわかった。
「ヘッドフォン……」
そう言えば首にかけている時があったなと思い出す。
そりゃヘッドフォンなんだから音楽を聴くだろうと思うのだけれど、気づいてもらえなかったことが寂しくて内緒でこっそり横を歩くことにした。
シャルルが気付かないのをいい事に斜め後ろから横顔をじっと眺める。
やっぱりカッコ良いと思う。
シャルルの目指すカッコ良いは容姿とか恰好じゃないのは分かっているけど、それも十分備わっていると思う。
顔も性格もよくて、文武両道。そんなのモテないはずがない。
耳を覆う部分にシルバーが入っている黒いヘッドフォン。
横から見る分には少し邪魔なんだけど、きっと正面から見る分には似合っていてカッコ良いんだろう。
そっともう少し近寄ってみるけれど、音漏れとかは全然してなくて何を聞いているのか分からない。
残念に思いながら離れようとした時、流石に近くに誰かいると気付いたのかシャルルの視線がこちらを向いた。
驚きに目を見開いて慌ててヘッドフォンを外す。
「り、立香!?」
「おはよ!」
悪戯成功とピースサインでもう一度挨拶すると、シャルルはぐっと飲んだ息を大きく吐き出して「おはよう」と返してくれる。
いるならいる言ってくれと、気付かなかった自分が悪いの間で悩んであれこれ言うのをあきらめたんだろう。
「何聞いてたの?」
首にかかったヘッドフォンに耳を寄せると、シャカシャカと何か音が聞こえる。
シャルルが何か言っているけれど無視してもう少し近づけば聞こえるかなと頭を近づけると、額にピシっとチョップが降ってきた。
「痛い!」
突然の攻撃に恨みがましい目で額を押さえて離れる。シャルルが真っ赤な顔で「近い!」と叫んだ。
途端に湧き上がる悪戯心。
普段取れない有利を取れる気がして、もう一度近づく。
「なぁに、きいてるの?」
もう聞いている音楽が何かとかはどうでもいいんだけど、それが近づく理由には一番いい。逃げられないように腕をぎゅっと掴んで顔を寄せる。
「ばっ、遅刻するだろー!」
「シャルルがさっさと教えてくれたらいいんだよ」
ほらほらと迫れば迫るほど逃げようとするシャルルからの反撃が返ってくるのは、あと3秒。