どうしたって追い詰められる瞬間は訪れる。
押さえきれない敵に退陣を決める中、殿を務めると申し出たのはシャルルマーニュだ。
悩むまでもない。現状を考えるとそれが最善だとは分かるが、心はそれを否定しようとする。
しかしここで立香がそんな情に流され、判断を誤るわけにはいかなかった。
「シャルル、任せていいんだね」
「おう!」
覚悟を決めた問いかけに、シャルルは安心しろと笑顔で答える。
本当はほんの少しの時間すら惜しい。それでも止められなかった。
「ちゃんと追いついて」
約束と言って差し出された小指に、シャルルマーニュは立香が子供たちと遊んでいた時の事を思い出して同じように小指を差し出して絡めた。
言葉にするまでもない。
シャルルマーニュの視線の意味を感じ取り立香も頷く。
「シャルル、待ってるから!」
そう言って絡めた指を解いて、立香はシャルルマーニュに背を向けて走り出した。
「さーて、行くか!まとめて、薙ぎ払う!」
あの日から、追いつくまで数日かかってしまったが、シャルルマーニュはどうにか立香の元へ戻ることが出来た。
致命傷にならない程度の怪我と疲労にふらつきながら、やっと見えて来た自陣に安堵の息を漏らす。
一歩、一歩踏みしめるように進んでいると、はられたテントとその前を歩く立香が見える。
怪我はないらしい、元気な姿に戦った甲斐があったと思う。
がさがさと森の奥から聞こえた音に立香は振り向いた。
少しだけ見える汚れているけれど見慣れた白と青のマントに息を飲んだ。
「シャルル!」
シャルルマーニュの姿を見つけた立香は持っていた物を放り出し、転びそうになりながらも駆け寄って力いっぱい抱き着いた。
正直戦いつかれたシャルルマーニュの身体にはつらい攻撃になったが、それでも戻ってきたことをここまで喜んでもらえたのだ、少々の無理くらいはする。
勢いよく飛び込んできた立香を「ただいま」と言いながら抱きしめれば、耳元で「おかえり」と返される。
その温かさに戻るべき場所に戻ったと感じてやっと肩の荷が下ろすことが出来た。
後ろで「よし、今のうちにマスターが準備していた針を全て溶かしておけ!」とゾッとするようなことが聞こえた気がしたけれど、泣いて喜ぶ立香の姿に聞き間違いだと判断した。