「それやめない?」
「やめない」
ばっさり切り捨てる様に笑顔で言い切った立香に、シャルルマーニュはがっくりと頭を落とした。
今立香が抱きかかえているのは、ダヴィンチに相談し、ミス・クレーンやハベトロット、ヴラド三世など裁縫の得意な面々へ依頼し作り上げられたぬいぐるみ。モデルはシャルルマーニュだ。
シャルルマーニュは立香の抱える似姿を不満そうに見つめている。
だいぶデフォルメが効いて可愛らしい仕上がりになっているが、シャルルマーニュの特徴をしっかりとらえているため、見れば一目でわかるだろう。
そんな可愛い人形に知らぬ間にされていたのも引っかかるが流そうと思えば頑張って流せる。
問題は今の立香の状態だ。
マイルーム限定ではあるが朝から晩までずっとその人形を抱え続けている。
机に向かって事務作業をするときも、気を抜いてタブレットで遊んでいる時も、夜ベッドに横になる時も、ずっとだ。
初めてそれを抱えている立香を見た時は、気恥しいなと思う程度だったが、ずっと抱きしめている姿を見せられるとだんだんと不満が湧き上がってくる。
なんでお前がそこにいるんだ。
とはいえ、ぬいぐるみに嫉妬しましたとは言い辛い。
なんとなく恥ずかしいからしまって欲しい、ちょっと邪魔だから隅に置こう、気になるから少し貸して欲しい。どれもすべていい笑顔で断られた。
ついさっきも。真正面から目を見て言ったけれど、立香はやめてくれなかった。
自分の目の前で肩を落として嘆くシャルルマーニュに立香も少し罪悪感は湧いている。
ぬいぐるみを離す気はさらさらないが、それでも何も言わずに姿を借りてしまった負い目はある。
ただしこれはシャルルマーニュの姿でないと意味がなかった。
こうしなければシャルルマーニュの迷惑も考えずにぴたりとくっつきに行ってしまいそうで。
あんまりべたべたしたらシャルルだって邪魔だろ。
「は!?」
心の中で呟いたつもりだった思いは、無意識に声に出ていたらしい。
シャルルマーニュは落としていた頭を勢いよく上げて、立香を抱きしめる。
「そんなことあるわけないだろ!」
絶対にありえないと言わんばかりの声。
ぎゅうぎゅう抱きしめる腕は苦しいほど、けれど離して欲しいとは少しも思わない。立香はシャルルマーニュへと体重を預けた。
ぬいぐるみを抱きしめたまま。
「……それ離して俺に抱き着かない?」
「まだいや」
なんでだ、離す雰囲気だっただろう!
そんなシャルルマーニュの非難を聞きながら、立香は片手だけこっそりシャルルマーニュの背中に回した。