隣を歩く立香から、ふわっと漂ってきた匂い。
いつもよりも甘い気がしてまじまじと見てしまった。
そのくせ何も言わないシャルルマーニュに、立香もどうしたのかと不思議そうに視線で問いかける。
「いや……」
そう言いつつ確認のために少し体を近づけて匂いを嗅ぐ。
やっぱり立香の匂いが違う。
香水のようなものではなくもっと自然に香る匂い。
何の匂いだろうかとシャルルマーニュが考えていると、その行動に驚いた立香がばっと飛びのいて距離を取った。
「な、なに!?」
顔を赤くして鞄で身を守るように縮こまっている姿勢は怯えた小動物のようで可愛い。
シャルルマーニュ自身そう言った性癖はなかったはずだが、ちょっとした悪戯心が芽生えそうになる。
それを『好きな子を苛めるのはカッコ悪い』とどうにか振り払って立香に向き直った。
「シャンプー変えたかい?」
そう聞いたとたん、なぜか立香はびくっと肩を震わせ、さっきまでよりももっと困ったように眉を下げる。
今度はシャルルマーニュが疑問符を浮かべた。
「……わかる?」
恐る恐るで聞いてくる意味は分からないが、とりあえず頷けば立香は大きく肩を落とした。
「昨日いつも使ってるの切れちゃって、仕方ないから姉さんの借りたんだよ……」
「あー、それで匂いが」
「そう。ハチミツ?のシャンプーで匂いが甘くって」
使った本人が一番違和感を感じているのか、げんなりした表情で投げやりに語る。
ふと気づいてシャルルマーニュは立香の髪に手を伸ばした。
「え?」
立香の様子を気にすることなく髪を掬って感触を確かめる。
さらさらと落ちていくそれにシャルルマーニュは言った。
「でもいい物なんだな、髪さらさらだ」
「そうなの?」
「ああ」
シャルルマーニュは髪だけでなく立香の頭を撫でるようにしてその感触を楽しみ始めた。
痛い、ぐちゃぐちゃになると言いながらも立香の表情は明るい。
また借りようかなと考えながらこっそりと微笑んだ。