「うさぎ?」
立香はそうダヴィンチの言葉を繰り返した。
頭に手をやり手首をぱたぱたと動かす、兎の耳を真似しながら。
それに関して誰も何も言うことなく話を進めていくという事はこれはよくあることなのだろう。
衝撃を受けたシャルルマーニュはそう判断し口を閉じた。
けれどさっきからその光景が頭から離れず、何度も何度もその場面だけが繰り返されている。
あれはあまり男性がやる仕草ではないのではないかと思う。
ウケ狙いというワケでもなく、どちらかと言えば真面目なミーティングの一場面だ。
兎の言葉だけで十分で、わざわざ真似する必要はない筈だ。
どうしても消えないあの瞬間を、らしくもなく自分のカッコ良くない何かに引っかかったのだろうとあれこれ否定的に考えようとするが、結論は変わらない。
だって、可愛かった。
当たり前のようにそうした仕草が、カッコ良い時とのギャップで、普段のたまに見せる子供らしい部分から想像できて、正面から見たいからもう一回やってくれと言いたいくらい可愛かった。
今はミーティング中だと自分に言い聞かせるがなかなか頭が切り替わらない。
考えるべきことに集中できないままシャルルマーニュは難しい顔で悩む。
「シャルル?」
突然の声にびくっと肩を揺らしてしまい、「なんだ?」と取り繕おうとするが不自然になってしまった。
「えっと、何かある?」
考え込んでるみたいだけど、と言われてまさか別の事を考えていたとも言えず、あ、ああ、えっとと言葉を濁しながら答えるが。
「可愛かったぞ」
「は?」
口から出てきたのはさっきまで悩み続けていた事だった。
立香がどういう事?と首をかしげるのも当然で、もうそのまま言ってしまおうかとも考えたが、ちらりと視界に入ったマシュが手で大きなバツ印を作っていたり、ダヴィンチが唇の前に人差し指を持ってきているのを見て止まった。
その間に立香は自分で解釈を決めたらしい。
「ああ、あのうさぎ型のエネミーか。可愛いよね」
そう言って笑いながらまた手でうさぎの耳をまねる。
今度は願っていた正面から、しかも笑顔付きで見てしまい、シャルルマーニュの頭は真っ白になった。
「うん」
呆けたようにそう答えるのが精いっぱいだった。