fine「アルヴァ、君が気にするような事は何も無い。まだいくつかあてはあるんだ」
そう言ってヘルマンは手にした書類を忙しなく捲っては斜線を引いていった。
外から帰ってきた友の為にと用意した紅茶にも、目の前に座る私にも目もくれず、ペンは痛々しい音を立てながら、資金援助や融資を断った訪問先に黒い一線を入れてゆく。
「奴等め、このレポートには担保の価値もないなどと抜かしやがって。完成すればこれがどれほどの素晴らしい発明品になるか分かってないんだ」
大きく広がったペン先は矢継ぎ早に墨を吐き出して滲みを作り、紙が吸い取りきれなかった分は往復する右手によって伸ばされる。
綺麗に整えて書かれていた文字たちは、あっという間に怒りと嘆きの黒で蹂躙されていった。
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