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    人生は沼だらけ

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    人生は沼だらけ

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    カントノ小説。習作。R15かも。事後描写ある。呼び方の話。

    ##カントノ

    反復学習「トーノっ、ちょっといい?」
     隊室のドアをくぐると、ワントーン高い声色で神田さんが俺を呼んだ。俺があからさまに顔を顰めると、神田さんの向かいに腰かける王子先輩がからからと笑う。
    「……なんすか」
     不躾な言い方になるのも無理はない。この人が俺をそうやって呼ぶ時は、大抵ろくな用事じゃないからである。
     さあさあこっちにおいでよ、なんて促されて誕生日席のように配置された椅子に座った。室内を見回しても、弓場さんもののさんも帯島もいない。絶望的な状況だ。
    「僕とカンダタ、どっちが好き?」
     ほら、面倒くさい。いつも通り笑顔の王子先輩と、あまり見せないにこやかさの神田さんと、二つの視線が俺に向く。つまりは二人がかりで揶揄おうというのだ。
    「どっちも好きですよ」
     テーブルに鞄を置いて腰かける。時計をちらりと見た。ミーティングの時間まであと三十分くらいある。早めに来たのが仇となったか、と口を尖らせた。
    「うわ、冷たいな」
     神田さんがショックを受けたように、背もたれに寄りかかる。オーバーな反応をよそに、鞄から課題でも出すかと手を突っ込んだ。
    「ねえトノくん、先輩としてって意味じゃなかったら?」
     王子先輩の追い打ちをかける声は、どこか白々しい。王子先輩には――というか知っている人間はいないのだが――言っていないはずなのだけど。神田さんが言ったのだろうか、と後で聞こうと思考を逸らした。
     面倒くさいという感情を思い切り表情に出しながら、ゆるゆると思考を巡らせる。
     そんなこと聞かれたって、答えは決まっているのだ。だから頭を回転させるためのお題は、どう答えるのか、である。
    「ええ、先輩として以外ってなんですか」
     俺も同様にとぼけた返事をあえてした。核心を避けるように、逃げの手を打つ。こんな時ばかり息の合った、眼前に並ぶ揃いのしたり顔が憎らしい。
    「そりゃ、色々あるだろ」
     色々と、なんてあんたが言うのか。神田さんはふっと笑って、僅かにテーブルに身を乗り出す。
    「ねえ、トノ」
     ぞわり、と背筋が戦慄いた。俺が息を詰めた瞬間、ドアが開いた。
    「失礼します!」
     突然の声に、はっとする。見ると部屋に入ってきたのは樫尾で、王子先輩を見て、あっと声を上げた。
    「王子先輩! やっぱりここにいたんですね……。もうミーティングの時間ですよ!」
     そう言って肩をいからせながら、樫尾が王子先輩に歩み寄る。
    「ああごめんごめん、もうこんな時間だったね」
     立ち上がった王子先輩は、呆気なくドアへと向かった。退室する間際、首だけ振り返ってひらひらと手を振る。
    「また遊びに来るよ」
    「お騒がせしてすみません、失礼します」
     いつも通りマイペースな王子の言葉に、礼儀正しい樫尾が軽く頭を下げて出て行った。はい、だのなんだの、そんな返事をしたような気がする。
     正直助かった、と肩を下ろす。あの先輩を引っ張れるのは流石樫尾というか、同隊ゆえというべきか。
     その上、間を置かずに弓場さんやら帯島が来て、どうにか気まずい状況を逃れられたのだ。

    「トノ」
     全身が鉛のように重い。毎度のことながら、鉛弾で動けなくなった時ってこういう感じなのか、とベッドに沈みながら適当なことを考える。
     二人ともイってから少し。体の熱も落ち着いてきたはずだが、息はまだ荒い。天井を仰ぎ、まだ後始末してないんだから寝るな寝るなと眠気を追いやる。
    「トノってば」
    「ぅあっ」
     何度も何度も、それこそ感触を覚えるほど俺に触れた指が、腰を撫でた。
    「もう一回しようよ」
     そう言った神田さんの手が、俺が止める間もなく散々暴かれた場所へと伸びる。
    「や、ですって、もうへとへと……」
     このまま後処理をして終わりだと思ったのだ。俺もベッドでくたばっていて、神田さんだって横になっていた。後で洗濯する前提でかけられたタオルケットを手繰り寄せて、あまりにも心許ないが防御とした。
    「トーノっ、なあってば」
     てっきり剝ぎ取られるかと思ったが、それごと抱きしめられて耳殻に息を吹き込まれる。ぞわぞわと悪寒よりも性質の悪い感覚が、甘く抵抗を奪った。
     だから嫌なのだ、この人が機嫌よく名前を呼ぶ時は。歯噛みする俺に、神田さんは知らん顔だ。
     断れない、抗えないから。それをこの人もようく知っているから、尚更である。
     神田さんに告白されて、俺も好きで、付き合って。それからずっとずっとずっとずっと――、
    「んん、ちょっと」
     上体を起こした神田さんのもう片方の手が、頬に触れた。ゆるゆると焦らすように与えられる下半身の刺激に、頬を緩慢に撫でる手へと懐くように擦り寄ってしまう。それが了承だと受け取られてしまうことくらい、分かっているのに。
     神田さんが、小さく笑う。
    「いい子だな」
     その声一つで、また次も俺はこの人に抗えない。はあ、と大きくため息をついて、タオルケットを放る。神田さんは満足そうに覆い被さってきた。
     もう、好きにして。声にすればみっともない興奮が滲んでしまいそうだったから、口だけを動かした。それでも何となく伝わったのか、頭を撫でられキスをされる。
     ふわふわとした気分にさせられるそれは、甘ったるく俺を呼ぶ神田さんの声によく似ていた。
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    人生は沼だらけ

    MENU5/4 スパコミ 超吾が手に引き金を2023 にて頒布される、二犬合同誌に参加させていただきます。
    東2ホール ヌ19a「アルマの名前」(佐々川ささらさんのスペース)で頒布予定です。

    タイトル:Rendez-vous
    頒布価格:700円
    規格:A5/54P
    執筆者:佐々川ささらさん(イラスト) / くみこ・+さん(小説) / 人生は沼だらけ(小説)

    本文は私の分の冒頭サンプルになります。
    合同誌「Rendez-vous」サンプル 低く唸る自動ドアをくぐり、息をつく。自分と同じようにビルから吐き出される人波に乗って、そのまま通りへと歩き出した。腕時計を確認すれば、時刻は既に夕方頃。今日は他に予定もない。それでも思ったより長引いたと、肩の力を抜いた。ラフな格好でいいとはいえ、気を抜くことはできない。白い息を吐きながら、駅へと足を向けた。
     二宮も大学三年になり、既に一月半ば。来年の卒業に向けて、ボーダーでの防衛任務に加えて忙しい日々が続いている。就職先はほとんどボーダーで内定しているとはいえ、見聞を広めることは悪くない。今日もインターンの説明会を受けるために、三門から二駅離れたこの街に足を伸ばしていたのだ。
     丁度帰宅ラッシュか何かと被ったのか、随分と人通りが多い。だがその煩雑とした喧騒の中、とびきり高い金切り声が耳に飛び込んできた。
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