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    人生は沼だらけ

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    人生は沼だらけ

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    5/4 スパコミ 超吾が手に引き金を2023 にて頒布される、二犬合同誌に参加させていただきます。
    東2ホール ヌ19a「アルマの名前」(佐々川ささらさんのスペース)で頒布予定です。

    タイトル:Rendez-vous
    頒布価格:700円
    規格:A5/54P
    執筆者:佐々川ささらさん(イラスト) / くみこ・+さん(小説) / 人生は沼だらけ(小説)

    本文は私の分の冒頭サンプルになります。

    ##イベント
    ##二犬

    合同誌「Rendez-vous」サンプル 低く唸る自動ドアをくぐり、息をつく。自分と同じようにビルから吐き出される人波に乗って、そのまま通りへと歩き出した。腕時計を確認すれば、時刻は既に夕方頃。今日は他に予定もない。それでも思ったより長引いたと、肩の力を抜いた。ラフな格好でいいとはいえ、気を抜くことはできない。白い息を吐きながら、駅へと足を向けた。
     二宮も大学三年になり、既に一月半ば。来年の卒業に向けて、ボーダーでの防衛任務に加えて忙しい日々が続いている。就職先はほとんどボーダーで内定しているとはいえ、見聞を広めることは悪くない。今日もインターンの説明会を受けるために、三門から二駅離れたこの街に足を伸ばしていたのだ。
     丁度帰宅ラッシュか何かと被ったのか、随分と人通りが多い。だがその煩雑とした喧騒の中、とびきり高い金切り声が耳に飛び込んできた。
     若い男女が言い合いをしているのを、視界の端で捉える。女の方が男に掴みかかっていて、何やら喚き散らしているようだった。その剣幕からか、通りを歩く人々からは遠巻きにされ、ぽっかりと周囲には不自然な空間ができている。
     男は二宮に背を向けて立っているから顔は見えないが、女に言い返すというよりは困惑、または宥めるような雰囲気であった。客観的に語るのであれば、痴情の縺(もつ)れだろう。
     二宮は最初から声につられて状況を確認しただけであったのだから、すぐに前に向き直ってしまえばよかったのだ。だが男の染めたにしては痛んでいない金髪にどこか既視感を覚えて、ついその様子へと視線が吸い寄せられる。
    「ハルくんが本気で好きなの! なんで、どうして本当の彼女にしてくれないの!?」
     一際大きく声を張り上げた女の剣幕に、金髪の男がたじろいだ。そして否応なしに集まる周囲の視線に、焦ったように辺りを見回す。
     台詞だけ切り取れば、浮気性な男が二股でもかけていたのか、またはホストに入れ込んだ女が迫っているのか、とも取れなくはない。だが男の横顔が一瞬、二宮の視界に映る。それを認識した瞬間、二宮はとうとう意識を割くだけでなく足を止めてしまった。足が地面に縫い付けられたように動かず、もやもやと心中に漂う既視感の尻尾を、確かにその時掴む。
    「……犬飼」
     急に足を止めた二宮を、通行人が戸惑ったように避ける。それに軽く会釈を返しつつ、再び金髪の男に視線を向けた。その面差しがあまりにも自隊の部下、犬飼澄晴に酷似している。
     否、むしろそのものだ。おざなりではなく、完全に意識を向けた聴覚が捉える女に向けられた弁明の声は、犬飼のものにしか聞こえない。

     動揺を抑え、人の波を縫って距離を詰める。そして近付く度に、二宮の推測が確信に至った。
    「だからごめんね。それはきまりだから、できないんだ」
     眉を下げ、青い瞳が揺れる。困り果てた、という表情自体は二宮の記憶にはあまりないが、確かにその男は犬飼だった。
     無意識に歩幅が大きくなる。単純な痴情の縺れではないだろうな、と二宮は先程の自身の所感を放り投げた。あの男が犬飼であるなら、話は別である。
     コミュニケーション能力は二宮隊でいっとう高く、共感性もあり、空気も読める、少なくとも二宮は犬飼をそう評価していた。そんな犬飼が人間関係で、そのような失態をするとは思えない。それに目を惹く容姿をしているのに反して、恋人がいるという話は――犬飼が二宮にそういう話を積極的にするかは別だが――聞いたことがなかった。
     犬飼ってチャラそうなのにな。とは、太刀川辺りの言葉だったか。それに同意するのは業腹だが、犬飼と知り合ったばかりの評価は確かにそうだった。だが、軽薄そうに見えて、犬飼の性根自体は慎重そのものである。それは長年の付き合いでよく知っていた。

     そんなことを二宮が思考している間にも、女は犬飼の制止に聞く耳を持たないらしい。聞き耳を立てる野次馬たちはひそひそと囁き合うばかりで、己がその群れの中にいたことを棚に上げて、二宮は苛立ちを覚えた。
     ようやっと人だかりを抜けると、犬飼が二宮に気付いたのか、目を大きく見開いてこちらを見る。
     え、と声を上げ、呆然とした表情はすぐに焦燥に引きつった。
    「二宮、さん……? なんで、ここに……」
     犬飼の口から、そんな疑問がこぼれ落ちる。それこそ二宮が尋ねたいくらいなのだが、今はそれを捨て置いて犬飼から女へと視線を移した。女も突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)に驚いたのか、呆気に取られて二宮を見つめている。
     犬飼に視線を戻して、顎でしゃくって女を指した。
    「恋人か?」
     何よいきなり、と我に返った女が二宮を睨みつけるが、黙殺する。
     二宮の問いに犬飼は、逡巡するように唇を歪め、目を伏せた。そしてちらりと一瞬だけ女に視線を向ける。
    「……違います」
     そしておずおずと二宮を見上げた瞳に、誤魔化そうとする気配は見受けられなかった。その様子に、二宮は少し安堵する。ならば事情は後で聞こうと、二宮は女に向き直った。
    「なんでそんなこと言うの……? デートも何度もしたし、ハルくんだって私と一緒にいるの楽しいって言ってくれたじゃん!!」
     怒りから顔を紅潮させ、女は犬飼の腕を強引に引く。雲行きの怪しい女の発言に、横目で犬飼を睨んだ。だが気まずそうに視線を逸らされた。
     ひとまずは、二人の間に割って入り、女に犬飼を離させる。
    「一度頭を冷やせ。おまえの好きなハルとやらは、こんな街中で騒ぎを起こすような女が好みなのか?」
     二宮は女を鋭く睨みつけた。女はびくりと肩を震わせたものの、二宮に言い返そうと口を開く。だがふと周りを囲む群衆に気付いたのか、ひくりとその喉から引きつった音が漏れた。
     人の目に勢いを削がれた女の肩に、とんと犬飼が手を置く。
    「今日のことは報告しないでおくから、ね。帰ろう? 駅まで送るからさ」
     辛うじて二宮に聞こえる程度の声と、言い聞かせるような口調で、犬飼は女に語りかけた。そのうち女も冷静さを取り戻したのか、なんとか納得したようである。
    「ハルくん、また会ってくれる?」
     女の湿った猫撫で声に、二宮は不快感に顔を顰めた。先程までの金切り声は見る影もない。だが犬飼は、女に薄く笑んで見せた。それに安心したように女は表情を少し明るくして、またメッセージを送るから、と犬飼の手を握る。
     犬飼は女の懇願に、肯定も否定も返さなかった。犬飼への認識を改める必要がありそうだ、と二宮は嘆息する。そして話がまとまったのか、犬飼が二宮の方に振り返った。
    「すみません、ありがとうございました」
     頭を軽く下げて、女に聞こえぬように小さく言葉を続ける。
    「この子を送ったら連絡します」
     そう言ってその場を去ろうとする犬飼の腕を掴み、二宮はぐっと引き寄せた。
    「後で必ず、説明してもらうからな」
     それだけ告げて手を離す。苦虫を噛み潰したような顔をした犬飼は、しかし確かに首肯したのだった。
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    執筆者:佐々川ささらさん(イラスト) / くみこ・+さん(小説) / 人生は沼だらけ(小説)

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    合同誌「Rendez-vous」サンプル 低く唸る自動ドアをくぐり、息をつく。自分と同じようにビルから吐き出される人波に乗って、そのまま通りへと歩き出した。腕時計を確認すれば、時刻は既に夕方頃。今日は他に予定もない。それでも思ったより長引いたと、肩の力を抜いた。ラフな格好でいいとはいえ、気を抜くことはできない。白い息を吐きながら、駅へと足を向けた。
     二宮も大学三年になり、既に一月半ば。来年の卒業に向けて、ボーダーでの防衛任務に加えて忙しい日々が続いている。就職先はほとんどボーダーで内定しているとはいえ、見聞を広めることは悪くない。今日もインターンの説明会を受けるために、三門から二駅離れたこの街に足を伸ばしていたのだ。
     丁度帰宅ラッシュか何かと被ったのか、随分と人通りが多い。だがその煩雑とした喧騒の中、とびきり高い金切り声が耳に飛び込んできた。
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