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    ゆうら

    @08yurayuratti22

    主に鯉鶴・うさかど・菊トニ・尾白が好きですが
    かなり雑食
    色々書けていけたらいいな~
    どうぞよろしくです!

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    ゆうら

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    『四季の庭』第1話【芝桜 ー白ー 】菊トニ
    都丹さん視点で書いてみました。
    (8月イベントの無配になります)
    都丹オンリー開催、ありがとうございます!!

    #菊トニ
    chrysanthemumTourney

    芝桜 ー白ー 庭師の場合 今日も変わらない一日が始まる。
     視力を失ってから、この屋敷で庭師として働くようになって、彼此何十年になるだろうか。ご主人様に拾われて、こうした静かで安定した日々に文句などつけられようか。ただ昔のように目が見えていたなら、今でも彼を守る盾になれていたのではないか…等と考えてしまい、少しだけ歯がゆい。
    「馬鹿らしい…」
     小さく呟いて、手元の花に触れる。フワフワと小さな花たちが指先を擽る様子に、思わず笑う。今年の芝桜も元気に咲いているようだ。

    「…綺麗だ」
     
     聞き覚えのない声がした。思わず白杖に手を伸ばすが、その声に敵意を微塵も感じないので思い直す。ひとつ息を吐いて、胸を落ち着かせてから声の方を向いた。
    「ここは貴方が管理されているのですか?」
     恐らくご主人様の客人だろう。花を褒めてくれたのだから、愛想良くしなければ…
    「ええ。ここの庭師をしております。貴方は…ご主人様のお客様でしょうか」
     そう言いつつ、足元に置いていた白杖を拾って、彼に近づいた。
    「ああ、お仕事中にすみません」
    「いえ、いいんです。丁度休憩しようと思ってましたんでね」
     声の感じからして、年の頃は四十代だろうか。低くて柔らかく響く…とても良い声だと思った。こちらが盲の老人だと気づいたのだろう。それにしては、異様に顔を見られているのを感じる。
    「そんなに見ないでくださいよ、穴が開いちまう」
     見えなくなって、こんな強い視線…嫌でも分かる。いい大人の男なのに、子どもみたいだと思って、少し笑ってしまった。
    「も、申し訳ない」
    「ははは、こんな盲の爺を見ても、楽しくなんかないでしょうに」
     距離が近い。この男の香りだろうか。ふわりと香水の匂いがする。こりゃ、相当いい男だろうな。見えないけれど。
     お客をいつまでも立たせておくわけにはいかない。取りあえず東屋へと移動し、木製の腰掛を勧めてから座った。
    「申し遅れました。私はこちらの庭師をしております都丹と申します」
    「私は菊田と申します。土方様とのお約束の時間まで幾分かありまして、こちらの庭を散策させていただいておりました」
     そうですか、と相槌を打ちながら、記憶を呼び起こす。菊田…たしか、ご主人様の知人で、贔屓の警官だったか。俺がここの警備係を引退してから、とんとそちら方面の人間と関わらなくなってしまった。だから面識が無くても仕方が無い。
    「都丹さんは、いつからこちらに?」
    「もう三十年になりますかねぇ。この目になっちまってから、どうにもならなくなってたところを、土方様が拾ってくださったんです」
    「そうでしたか…」
     変に気を使われたくは無い。ましてや、ご主人様のお客様だ。こちらの事情は、さっさと伝えてしまうに限る。もっとも全てを伝える必要はないだろう。
    「盲の男に庭の世話をさせるなんて、あの人も随分だと最初は思いましたけどね。性分に合ってたみたいで、今まで務めさせて貰ってます」
     少し戸惑っているようだったので、軽く笑って見せた。
    「いいですよ。この目なんか気にせず聞いてください」
    「…植える花や草木は、都丹さんが決めてらっしゃるんですか?」
     無難な質問。ずいぶんと優しい男だ。
    「ええ、そうですよ」
    「そうなんですね。とても綺麗な白い芝桜だと思ったので…」
     ああ、やっぱりそうか。手塩にかけて世話した花たちを綺麗だと言っていたんだな。
    「そうですか。あいつらを褒めて貰えて嬉しいですねぇ」
    「管理が大変でしょう?」
    「最初は大変でしたよ。でも触れば一つ一つ感触が違うし、匂いも違う。結構上手くいくもんですよ」
     そう言って、花畑の方を向いた。仕事を褒められれば、とても誇らしい。だから素直な気持ちが、口から滑りおちた。
    「このような仕事を与えて貰えて、ご主人様には感謝してもしきれませんね」
     本当に、土方様には感謝しかない。
    「ねぇ、都丹さん」
    「なんですか?」
    「また、ここに来てもいいですか?」
     その言葉に、どこか…縋るような響きを感じた気がした。気のせいだ…きっと。俺が目的だと、聞こえてしまったのは。
    「ご主人様が許されるなら、いつでもどうぞ」
    「ええ、必ず許可を貰ってまた来ます」
    「そうですか…ここが気に入って貰えて、私は嬉しいですよ」
     そう言いながら、小さく笑った。
     彼に別れを告げ、その足音を聞き送る。
     不思議だった。今日、この時、俺はこの男に会うべくして会ったような…そんな気がして仕方が無かった。
     
     そう、運命を感じるほどに…

    「…そんなはずない」
     呟いた声は風の音にかき消され、芝桜がさらさらと騒いでいる。
     目を閉じれば、見えないはずの白い花が、瞼の裏に浮かぶようだった。

    ======

     あれから、たった三日後に菊田は庭に来た。そして今、何故か離れた場所で、作業中の俺を見ている。強い視線を浴びたせいで、少なからず動揺した。何なんだ? その熱量は…
     やっとこちらへ向かって歩き出す音がしたので、首を傾げて音を聞く。正確にその位置を捉えてから、スコップをバケツに入れて立ち上がった。
    「こんにちは」
     こちらから挨拶してみる。
    「こ、こんにちは。また来てしまいました」
     少し動揺した声だった。面白い。
    「菊田様ですよね。どうぞどうぞ」
    「都丹さん、分かるんですか?」
    「菊田様の声はとても良いお声ですから、すぐわかっちまいますよ」
     なんて褒めてやれば、菊田は嬉しそうに小さく笑う声がした。思わずこちらも笑いつつ、バケツを手にそちらへ向かうと、菊田が呟いた。
    「杖は…」
    「ああ、大丈夫ですよ。見えはしませんが、ここは慣れていますから」
     以前と同じ東屋の腰掛に二人で座る。距離は人一人分。
    「でもねぇ、やっぱり予測できない障害物につい躓いちまう事もあるから、怪我が絶えませんよ」
     なんてことないと笑ったが、少し気になったようだった。
    「まさか、その額の傷…」
     ああこれ、と自分の額をさすりながら言う。
    「これは違いますよ。昔ちょっとね」
    「昔…」
     聞いても面白くないですよ、と笑ってみせた。
    「土方様と一緒にね、まあ色々してましたから。何となく分るでしょう?」
     こう言えば、菊田はすぐに察したようだった。
    「…なるほど…都丹さん」
    「なんでしょう?」
    「俺の名前に『様』は付けなくていいですよ」
     言葉に詰まった。さすがにそんな事はできない。
    「…ご主人様のお客様にそのような…」
    「いいんです。それに俺はそんな大したもんでもないですし」
     菊田が俺に少しだけ近づくのが分かり、思わず後ずさった。
    「俺は土方様とは同業者じゃないんです。一介の警察官です」
     知ってる。しかも警部だろ。
    「だから『様』なんてガラじゃないんですよ」
    「ですが…」
    「俺、都丹さんと友達になりたいんです」
     友達? なんでこんなジジイを? しかも何故呼び方を気にするんだ。強引だなと思いつつ、やれやれ…と首を振る。
    「菊田様は…」
     不満なのか。仕方が無い…
    「菊田さんはお若い方でしょう? 会ったばかりの爺と友達になりたい、なんて…」
    「年は関係ないでしょう? こんな素敵な庭を管理されている方だから、きっと良い方なんだと思ったんです」
     吹き出しそうになった。良い方、だなんて。
    「…素敵な庭ねぇ…」
     ぞんざいな言い方になったが、菊田の気分を害していないようだ。むしろ嬉しそうに感じる。
    「何か企んでいるとかではないですよ。本当に貴方と仲良くなりたいだけなんです」
     言われれば言われるほど、眉間に皺が寄りそうになる。ため息をついて、頷いた。
    「よしてくださいよ、なんか口説かれてるようでむず痒い…」
     息を飲む音がする。まさか図星? 本当に目的は俺?
    「あまり深く考えないでください。時々、ここでこうして一緒にお話ができればそれでいいんです。どうですか?」
     まだ確証は持てないが、素直な男の下心に苦笑する。
    「まあ、それなら」
    「よかった!」
     分かりやすい男だ。
    「…物好きですねぇ」
     頬杖をついて、菊田に顔を向ける。呆れるが、真っ直ぐな所は嫌いじゃなかった。
    「都丹さん、お時間大丈夫ですか? ああ、作業中でしたよね」
     足元に置かれたバケツとスコップを見たのだろう。
    「いえ、別に大丈夫ですが、何ですか?」
    「良かったら庭を案内してもらいたいんですが…」
     少し首をかしげた。
    「案内って言っても、大した事はできませんよ。手を加えた、切った、植えたしか言えません」
    「それでいいんです。貴方と歩きたいので」
     ああ、本当にそういう事なのか…
    「そうですか。まぁ、いいですよ」
     あっけらかんと答えてやれば、安心するようなため息が聞こえた。
    「では早速…」
     自然な流れで、手を握られた。
    「え、えっと…」
     あまりにも自然すぎて、さぞモテる男なのだろうと察する。しかし何故か、手を握ってきた当の本人が動揺していた。目の見えない俺への配慮として、手を取ったのでは無いのだろう。
     …本当に分かりやすい男。なんだかその動揺がおかしくて、気にする風でも無く立ち上がった。そして普通だと言わんばかりに菊田へ顔を向け、首を傾げてみせる。
    「どうしました?」
    「い、いえ…」
    「できれば次は、声をかけてから触ってくださいね。この通りなんで、驚いちまいますから」
    「あ、そうですね。すみません」
     本当におかしな男だ。だが、先程まで弄っていた土の粒の感触に気づいて、声を上げてしまう。
    「…ああ! すまね…すみません。手を洗いましょう」
     思わず口調が一瞬乱れてしまった。慌てて手を放そうとしたが、それを逃すまいと握り占められてしまう。
    「気にしませんよ。さ、行きましょうか」
     気にしてくれよ、なんて言えない。まったく…変な男だ。こんな年寄りと友人になりたいだなんて。
     彼の右手に握られつつ、心地のいい声を聞きながら、春の庭を二人で歩いていった。

    ======

     今日も菊田と手を繋ぎながら、庭を散歩していた。
    「ねえ、都丹さん。あっちは?」
     立ち止まり、握っていた手をある方向に向けられる。
    「そっちは秋の庭園ですよ。今は秋に開花する花を植えたり、土壌を休ませたりしてるので、ちょっと寂しい感じでしょう?」
     菊田は何かを思いついたようで、少しソワソワしながら言った。
    「都丹さん。秋になったら是非あっちも案内してよ」
     少し笑ってしまう。
    「秋になっても来る気なんですか?」
    「もちろん。友達に会いに来るのは当たり前だからね」
     友達…ねぇ……
     内心苦笑していると、手を強く握られた。
    「どうかしました?」
    「ちょっと都丹さんとの未来を思って、楽しくなったんだよ」
    「俺との未来?」
     唐突な話に、思わず素が出た。
    「…未来なんて…そんなもの…」
    「はっきりしない? そうかもね。でも俺は都丹さんと秋になっても、ここで一緒に散歩してると思うよ」
     何というか自信家だな。孤独な年寄りに、慈悲の心でも芽生えたのかね。
    「言ってしまえば、それは言葉として残るだろ?」
    「言葉なんて形ないもんだろ。そんなものに確証はない」
    「…少なくとも、都丹さんの心に残せるよ。今日、ここで散歩しながらした約束を…」
     不意に果たせなかった約束が、頭を過った。
    「…忘れちまうよ」
     なんだか虚しくなって、思わず口から滑りおちた。
    「じゃあ、俺が忘れない」
     ああ、この俺よりもずっと若い男は、まだ約束や未来を信じているんだな。眩しくもあり、悲しくもあって、俺は何も言えなかった。

    ======

     あれから菊田は、何度も庭に来た。白い芝桜は、散り始めている。変わりゆく季節と違い、菊田は変わらず何度も俺に会いに来た。さすがに知人から友人といって良いほどに、仲良くなったと思う。自分の畏まった口調も、いつの間にか取れていた。
    「もうすぐ夏でも来ちまいそうな陽気だねぇ」
     今日は、春とは思えないくらい暑い日差しを感じる。いつもの東屋で一休みしながら、自分の首元の釦を一つ外した。
     菊田の視線を、己の胸元に感じる。そして少し息を飲む音がして、水を飲む音がそれに続いた。まさかシジイの肌に動揺した…なんて言わないよな?
    「たしかに、こう暑いと海に飛び込みたくなるな」
     菊田の声が、取り繕ったように聞こえるのは気のせいか。俺は何を馬鹿な事をと、軽く頭を振った。
    「海か…久しく行ってないなぁ」
    「都丹さんは泳ぎは得意?」
     さあ…と呟いて、記憶を辿る。
    「昔はそれなりに。この目になってからは全く泳いでねぇから…どうかな?」
    「そっか。じゃあちょっと先だけど、夏になったら俺と海に行かない? 泳ぎに不安があるなら、手を繋いで先導するからさ」
     まさかの誘いに、思わず笑う。
    「おいおい、爺を海に誘うとか大丈夫か? いい人と行きなよ」
     この男の真意が分からない。ただの社交辞令なら、ここで話は終わるはずだ。
    「都丹さんと一緒なのが、いいんだけどな」
     思わず真顔になる。
    「あのなぁ、冗談でも言っちゃいけねぇ事があるぞ? お前さん、屋敷の女中達が良く噂してるのを聞くぜ?」
    「噂?」
     なんだか更に暑く感じて、シャツの釦をもう一つ外した。
    「菊田さんは『良い男』だってな。よくここに来るから、取りなしてくれって相談を受けた事もあるくらいだ」
     なんだったら今朝も言われた。俺の勝手な判断で紹介は出来ないと、やんわり断ったばかりだ。
    「色男のあんたが、男相手の冗談でも、逢引の誘いなんかしちゃあいけない。折角の縁も消えちまうぞ?」
    「俺は別に気にしないけどな」
     …この男、相当モテるな。
    「…より取り見取りだからか?」
     自分の声が、少し尖っている気がする。すると、菊田は隣に座り直した。
    「あのね、都丹さん。俺にも考えがあって独り身なの」
    「考え?」
    「そう、俺なりに考えているのさ」
     まあ、誰でも事情はあるだろう。ホッとする気持ちが生まれて、内心首を捻る。せっかく出来た友人が、早々に結婚して会いに来なくなるのは寂しい。そうだ、それに違いない。
    「それに今はさ、こうして…」
     触るよ、と声をかけられて、左手を握られた。右の掌を滑らせるように合わせて、指を絡ませられる。思わず体を離そうとしたが、そのまま優しく握りしめられてしまい、逃げられない。
    「こうやって都丹さんと、手を繋いで一緒にいるのが、今は一番嬉しいし、幸せなんだよ」
     さすがにおかしい。友人同士で繋ぐ形じゃない。柄にもなく動揺し、頬が熱くなるのを感じる。
    「…え……あ」
     何か言わなくてはと思うのに、何も言えない。
    「…ったく、何なんだよこれ」
     やっと吐き出した言葉は、自分でも分かるくらい困惑している。なんだか居たたまれなくて、少々乱暴な口調になった。
    「…離せよ」
    「それはダメかな。だって今日もこれから散歩でしょ?このまま繋いだ方がいいし」
    「あのな…散歩んとき、こんな繋ぎ方しないだろ………友達は」
     指と指が絡むように繋がれた手。
     それは恋人繋ぎのようなそれ。
     握り返すなんて出来なくて、ただ為すがままになっていた。菊田も気づいているはずなのに離してくれず、立ち上がって口を開いた。
    「ほら、行こうか」
    「おい!」
     これは言っても聞かないのだろう。なんだか年下に翻弄されるのが悔しくて、ポツリと呟いていた。
    「…強引だな」
     このままでもいいけれど、なんだかそれも勿体ない…なんて思ってしまったからだろう。東屋を出た頃には、諦めてその手を握り返してやるのだった。
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