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    ゆうら

    @08yurayuratti22

    主に鯉鶴・うさかど・菊トニ・尾白が好きですが
    かなり雑食
    色々書けていけたらいいな~
    どうぞよろしくです!

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    ゆうら

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    怪盗うさかどでクリスマス🎄✨【怪盗×執事】
    お屋敷で働いている2人なので、怪盗と言いつつ要素薄めです
    🎁の石はグレームーンストーンをイメージしてます(ムーンストーンの石言葉:恋の予感)

    恋の予感と贈り物すっかり季節は冬。
    朝からとても冷え込んでいる。
    「あ~、さっむいな~」
    小さく呟いて手を擦り合わせてから、浴場の戸を引いた。
    清掃前なので、昨夜の残り湯があるはずだ。
    夜警の人間が仕事終わりに使っているだろうから、きっとまだ温かいに違いない。
    冷たい水で顔を洗うよりましだろうと、ちょっといただきにきたわけだ。
    「あ!門倉さん!おはようご…」
    開けた戸を、素早く戻す。
    しかし無情にも戸はすぐに開いて、中にいた男に話しかけられた。
    「おはようございます!門倉さん!」
    「お…おはよう、宇佐美」
    早朝から元気のいい挨拶だこと。
    「も~、なに閉めてるんですか。お湯貰いにきたんでしょ?」
    「そうだけどさぁ…」
    なんで先回りされてるんだろう…そう思いつつも、あまり深く考えるのはやめた。
    怪盗ラパンであり、見習い執事である宇佐美。
    こいつが新人としてこの屋敷にきてから、もうすぐ1ヶ月が経とうとしていた。
    この1か月、俺の周りは非常に慌ただしくなった。
    こんな風にいつの間にか先回りされて、勤務外でも顔をあわせる事も少なくない。
    「門倉さんの分も用意してますので、どうぞ」
    「え?…あ、ありがとう」
    そうしてお湯が満たされた桶を渡される。
    そのまま脱衣所の棚に置いて顔を洗えば、冷たい頬が解けるように温かくなっていった。
    顔を上げると、宇佐美がタオルを渡してくれた。
    「ありがと…」
    素直に受け取り、顔を拭う。
    ふわりと鼻孔を擽るのは、爽やかな花の香り。
    …すぐさま、俺のタオルじゃないと気づいた。
    「これ…お前のだろ。俺のタオルは…」
    と言いかけて、やめる。
    宇佐美が頬ずり…もとい顔を拭いてるタオル、俺のだよな…
    「おい、それ俺の…」
    「いいじゃないですか。配られてるやつなんて、どれも同じですよ」
    「そうだけど…」
    屋敷の使用人には、制服から日用品に至るまで、あらゆるものが支給されている。
    タオルもその1つで、手触りの良いもので評判が良かった。
    しかし俺のは使い込んだタオルで、宇佐美のは貰ったばかりの新品。
    明らかに宇佐美が損してるだろ。
    「返せよ。人のお古なんか嫌だろ?」
    「使い古した感があっていいですよ。それに…」
    タオルに顔を当てた宇佐美が、そのまま大きく息を吸うのが見える。
    「…門倉さんの匂いもしますし」
    くぐもって聞こえるその言葉に、ますます取り返したくなって、タオルの端を引っ張ったが、微動だにしない…
    「じゃ、これいただきますんで」
    「おい…」
    宇佐美は小脇にタオルを抱え、俺が持っているタオルを指さした。
    「それ、代わりにあげますんで、使ってくださいね!」
    こうなると、俺のタオルはもう戻らない。
    まあ、タオルくらいいいか…と思い直し、今日の予定を思い浮かべる。

    今日、西洋では神様の誕生日らしい。

    俺が働くこの屋敷は洋館だ。
    なんでもわざわざ移築したとかで、その造りは本格的だったりする。
    その異国情緒たっぷりの屋敷という事もあって、毎年その日にあやかったパーティなんかをしている。
    ご主人様の会社の社員はもちろん、取引先や知り合いに至るまで、多種多様なお客様がいらっしゃる。中には海外のお客様もいる為、パーティもかなり本格的に行っていた。つまりは、年末年始のご挨拶代わりになるわけだ。
    その準備もあって、今日はいつもより早く起床していた。
    「後で広間に集合な。俺はご主人様の部屋に行ってから合流するから…」
    「僕も行きます。早くお仕事覚えたいので」
    「真面目だねぇ。いいから、ゆっくりしときなさいよ」
    「いいえ。そうはいきません」
    有無を言わさぬその言い方。
    表情は柔らかいが、視線が冷え切っている。
    …初めて会った時もそうだけど、どうもご主人様の事となると突っかかるよな。
    「…そう?じゃあ、お湯貰ってこようか」
    「はい!」
    ご主人様に冷たい水で顔を洗ってもらう訳にはいかない。
    そして俺らと違って、風呂の残り湯なんて使ってもらうなんて、もっての外だ。
    一度部屋に戻り身支度を整えると、一度洗濯室へ向かい洗い立てのタオルを受け取りつつ、炊事場へ向かいお湯を貰った。
    ご主人様の部屋に入る前に、丁度良い温度にするために、水も一緒に調達する。
    「じゃあ、宇佐美はその水差し持って…」
    「いいえ、お湯は僕が持ちます」
    宇佐美は、俺がお湯をひっくり返すのではないかと気を使っているのだろう。
    「毎日やってるから、大丈夫だよ」
    「そうなんですね。じゃあ、明日もご一緒します!」
    …微妙に話が噛み合って無くない?
    確かに俺はあまりついていないが、業務に支障が出るようなヘマはしないんだけど……それが、なんでこれから毎日一緒に行くって話になってんの?
    「…まあいいや。粗相のないようにな」
    「はい!」
    こうして元気のいい挨拶を聞いていると、普通に新人教育をしている気分になる。
    …いや、そうなんだけど。
    お湯の温度調節や気を付ける事を伝えてから、ご主人様の部屋のドアを叩いた。
    「失礼します」
    「入りなさい」
    ドアを開き、ご主人様の寝室に入る。
    「おはようございます」
    「おはようございます!」
    俺と宇佐美の挨拶に、土方様は小さく微笑し口を開いた。
    「ああ、おはよう」
    今日もご主人様が、かっこいい…
    …老齢でありながら、その年を感じさせない力強さを感じる。
    ピシッと背筋を伸ばし、長髪を結んでいる仕草には色気さえ感じる。
    …いかんいかん、見とれている場合ではない。
    いつものようにカーテンを開きながら、宇佐美に手前の鏡の前に桶を置くよう指示する。
    「今日は宇佐美もいるんだな」
    「はい、少しでも早く一人前になりたいんです!」
    「そうか。門倉はここも長いから、良い指導者だろう。精進しなさい」
    「はい!」
    この新人然とした態度。
    爽やか過ぎて、逆に怪しいと感じるのは俺だけか?
    「今日は忙しいだろうから、もう準備に向かいなさい」
    「いえ、そんな事は…」
    「はい、そうしたいと思います!さ、立て込んでるんですから、行きましょう。門倉さん!」
    くっ…!朝のご主人様を堪能する時間が…!
    肩に置かれた宇佐美の手が、妙に力強いのは気のせいじゃないだろう。
    引っ張られるように土方様の部屋を退室し、そのまま広間へ向かう。
    「おい、ご主人様に失礼だろ!」
    「そのご主人様がいいって言ってるのに、いつまでも居座る方が失礼です」
    それは…まあ、一理ある。
    少し落ち込みつつ、宇佐美の後ろ頭を見つめるのだった。

    ――――――――――

    パーティはつつがなく終わり、片付けが終わった頃には夜も遅くなっていた。
    遅めの夕食を取りながら、この後の事をぼんやりと考える。
    ご主人様の就寝時の御用聞きは、キラウシがする事になっているから、もう予定はない。
    このままさっさと風呂に入って、寝てしまおうかなと考えながら、味噌汁を喉に流し込む。
    視線を正面に向ければ、宇佐美が手を合わせて『ご馳走様でした』と呟くのが見えた。
    …ほんと、こうしていると育ちのいい好青年なんだよな。
    同じくご馳走様と言ってから、食器を片付けようと腰を上げかけた時だった。
    「門倉さん、ちょっとこれからお時間貰えますか?」
    「え?」
    正直、嫌な予感しかしない。
    だが、唐突に連れていかれるわけでもなく、こちらの答えを聞いてくれているから、まだマシだろう。
    断ってもいいが、もう今後の予定が無い事を宇佐美は知っている。
    あいにく良い誤魔化し方も思いつかなかった。
    「…いいけど…夜も遅いし、直ぐ済ませてくれよ」
    と、予防線を張れば、問題ないとばかりに頷くのが見えた。
    「ええ、そんなにお時間はとらせませんよ」
    そう言うと、さっさと食器を俺の分までまとめて、配膳台へ置いてくれた。
    「ありがと…」
    「さ、行きましょ!」
    そう言って、食堂を出ると素早く右手を取られ、そのまま繋いで歩き出した。
    誰かに見られたらどうするつもりだ!
    「お、おい!」
    こちらの抗議の声なんて聞こえてもいないのか、鼻息でも歌うかのように上機嫌に歩いていく宇佐美。
    これ以上抗議しても意味はないと諦めて、大人しくついていくと、屋敷の庭へ着いた。
    この屋敷は、4つの区画に分かれている。
    季節ごとの花や植物が鑑賞できるように考えられていて、かなり広い。
    辿り着いた場所は、冬の庭園といわれている場所だった。
    低い位置に、白いバラのような花々が咲いているのが見える。
    「へぇ…こんな寒いのに、よく咲いてるなぁ…」
    と思わず呟くほど、たくさんの花が咲いていた。
    花の名前にはあまり詳しくないが、たしか…
    「寒芍薬だったか?薬用植物だけど、あえて観賞用に育ててるって、庭師が行ってたな」
    「…ここの庭は、本当に手入れが行き届いてますよね」
    宇佐美は、花の前で立ち止まった。
    自然と俺の足も止まる。
    「知ってます?海外では、この花をクリスマスローズっていうんですよ」
    「へぇ…」
    夜だというのに、はっきりと花が見えるのは、きっとその白さゆえだ。
    月と屋敷からのわずかな灯が相まって、まるで雪でも降ったかのように白く輝いていた。
    「クリスマスっていうのは、今日の事です」
    「海外の神様の誕生日だろ?」
    「ええ、そうです。クリスマスは『神様の生まれた日を祝う』という意味なんですって」
    右手が握りなおされ、宇佐美が正面に立つ。
    「だからですかね。今日は、大事な人に贈り物を渡す日でもあるんですよ?」
    「…へぇ~、そうなんだ」
    そういえばパーティの招待客に、ちょっとした贈り物が渡されていたな…なんて、関係ない事を考える。
    もし俺が贈るとしたら…大事な人…それはもちろん。
    「門倉さんにとって、大事な人はご主人様なんでしょうね」
    ぎくりとして肩が跳ね上がる。
    そんな様子をみて、貫くような視線が俺を射抜いた。
    分かりやすい嫉妬。
    …いや、あえて分かりやすく伝えているんだ、コイツは。
    すると少し視線を落とし、握っていた右手が宇佐美の両手に包まれた。
    思わず動揺して手を離そうとするが、非力な俺の力など通用しない。
    「まあ、そこのところは置いておくとして…」
    宇佐美はそう呟いて、手を開くよう促される。
    大人しく従うと、手のひらに何かが置かれた。
    「僕からの贈り物です」
    何も持っていないように見えたのに、いつの間にか現れた小さな箱。
    桃色のリボンがついたそれを、思わず凝視した。
    「えっ…ええ?」
    何で俺に渡すんだ…と言いかけて、口を閉じる。
    辺りは静かだ。
    いるのは俺と、宇佐美だけ。
    今この庭にいるのは、2人きりだ。
    特別な日に、大事な人への贈り物がどんな意味を持つのか、いくら鈍感な俺でもわかる。
    「開けてみてください」
    言われるままリボンを外し、中の白い小箱を開けた。
    中に入っていたのは、鈍色に光るカフスボタンだった。
    月の光に照らされて灰色の石が見える。
    カフスボタン…つまりは、普段使いが出来る物だ。
    胸元のタイピンと共に、常につけろという意味なのだろう。
    「カフスボタンを贈る意味って、分かりますか?」
    え?っと思った瞬間、ふわりと温かい体温が身体を包む。

    「『私を抱きしめて』って意味です」

    耳元で囁かれる言葉に、顔が赤くなるのを感じる。
    小箱を握ったままだったから、思わず強く握ってしまう。
    けれど、逃げようという気は起きなかった。
    この寒空の中にあって、宇佐美の腕の中は、あまりにも心地よい温かさだったからだろうか。
    「……っ…お、お前が、抱きしめてきてるじゃねぇか」
    苦し紛れの言い訳みたいだ。
    「ウフ、そうですね」
    背中に回った手が、優しく撫でる感触がする。
    こんな風に労わる様な触れ方をされると、どうしたらいいのか分からなくなる。
    「……お、俺は何も返せないぞ?」
    「大丈夫ですよ。ちゃんと貰いますから」
    なにを…と言いかけたが、声にならなかった。

    唇を覆う、柔らかな熱。
    中途半端に開いた口に滑り込む舌。
    ざらりとした感触が、舌の先端に触れて、思わず首を捩って顔を背けた。
    「…っ!…なにを…いきなり…」
    「…これだけじゃ、まだまだ足りません」
    そう言って唇が近づいたので、慌てて相手の口を手で覆う。
    手のひらに息づかいを感じて、嫌でも顔が赤くなるのが分かった。
    「別の……別のもので返すから!」
    不機嫌に眉を跳ね上げ、自分の口から俺の手を引きはがす。
    手は離されずそのまま指が絡まり、少し離れた距離がまた縮まってしまった。
    「え~、僕はこれがいいんですけど……僕が満足するまで、このままさせてくれれば…」
    「な…、えっと…そう!物には物のお返しがいいんだ!」
    我ながら謎の理論を持ち出したような気もするが、気にしてはいられなかった。
    こいつが満足するって、どれくらいなのか分からない。
    そもそも、これで終わると保証はあるか?!
    「じゃあ……今度のお休みに、一緒にお出かけしましょう!その時に、僕へのお返しを見繕ってください」
    「へ?」
    「嫌なんですか?じゃあ続きを…」
    「わ、分かった!そうする、そうするからぁ!」
    ああ、なんだか言いくるめられてしまった気がする。
    俺の答えに、宇佐美は満足そうにうなずいて、やっと手を離してくれた。
    そのまま体が離され、途端に外気の冷たさを自覚する。
    宇佐美は、数歩後ろに下がった。
    「約束ですからね?」
    「…ああ」
    気恥ずかしくなって少し頬をかいていると、宇佐美は、くすっと笑った。
    そして、くるりと踵を返せば、ふわりと小さく風が起こる。

    一瞬だけ目を閉じれば、ばさりという音がした。

    再び目を開いた時、その背中にあのマントが見えた。
    いつの間に着替えたのか。
    あの特徴的な兎耳のシルクハットも見える。
    奇術師か何かのように指先を前に出し、そのままモノクルの端を摘まむ。
    月と白い花々を背に、こちらをにこりと笑って見つめる怪盗。
    まるで、魔法みたいだ。

    目が、離せない。

    「今夜は用があるので、ここで」
    怪盗が一歩近づく。
    「…おやすみなさい、門倉さん」
    何か言う前に、ふさがる唇。
    唐突すぎて、俺は思わず目を閉じてしまった。

    一瞬の熱はすぐに去り、再び目を開いた時には、そこに怪盗の姿はなかった。

    「怪盗め……」

    ポツリと呟いて、手で唇を覆う。
    濡らされた唇は冷えてしょうがないのに、頬はひたすら熱く火照るのだった。
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