1.こんなに好きなのにまさか自分がこんな早くに死んじゃって幽霊になるなんて、思ってもみなかった。
でも幽霊になれてよかった。
ずっと会いたかったあなたにようやく会うことができたから。
そりゃあね、生きてる姿で会えたらもっと言うことなかったんだけども。しょうがないわ、死んじゃったもの。
神様って、すごく意地悪なのね。
死んでからの一年間、あの小さな島でずっと同じことの繰り返し、そりゃあお腹も空かないし眠くもならないけど、あーあ幽霊ってこんなつまらないんだわあって思ってた。テレビもラジオもないし、元々人里から離れた小さな島だから人間は誰も寄り付かないし。
夜の海は真っ暗闇だし、退屈でたまらなかった。
あたしもお父さまも何も変わらないのに、時間だけは毎日過ぎていって夜空に浮かぶ月の形も星の場所も少しずつ変わっていくのを眺めてたわ。
なんのためにここにいるんだろう、早いところ成仏しちゃいたいなぁ、って毎日毎日思ってたのよね。
肉体の苦しみはもうないはずなのに。不思議よね。
「この世に心残りがあるから渚はまだ成仏できないんだね」とお父さまに言われた時に、ハッとしたの。
お父さまもそりゃあ無念だっただろうに「ふたりして死んでしまってはウニ金時を完成させて繁盛も何もないだろう」って、なあんにも執着してなかったのよね。
ただあたしにつきあってくれてるだけだったの。
あたしがここでひとりぼっちにならないように。優しいでしょう?
心残りなんて、ただ年頃の男らしく恋をしたかったな、好きな子とキスの一つくらいしたかったなってくらいで。
ずうっと「許婚の竜之介さま」を拠り所にしてたから、まともに他の女の子に興味を持たなかったのよね。一途でしょ?
名前しか知らなかったけども、子どもの頃から勝手に「許婚の竜之介さま」は女の子なんだって信じてたから。その直感は大正解だったわけだけども。
その執着があたしをこの世に縛りつけてたのよね、きっと。
お父さまみたいに執着を捨てちゃえば、成仏できたのかも。でもできなかった。
……ねぇ、竜之介さま。
きっとあなたは知らないと思うけども。
あたしはいま、恋してるの。あなたに。
もちろん最初は許婚だから、だったけどもそれを抜きにしても、あなたのことを好きになっちゃったのよ。
あなたのことが好きだから、毎日いつでもそばに居たいなって思うし、もっと知りたいし、とても大事にしたいし、触れたくなるの。
それで、あなたにもあたしのことを好きになってほしいって思うの。
……恋って、とてもすてきな楽しいばかりのことと思ってたのに今は切なくてしょうがないのよ。
あなたにキス、したいのに。
できないの。
だって、まだ消えてしまいたくないから。
こんなに好きなのに。
時々じれったくなって、たまらなくなるのよ。
ねぇ、竜之介さま。わかる?
あたしがこんな気持ちであなたを見つめてるって。