子リスの受難「〜〜ホイッ」
「何だってそんなに外すんだよ、おい子リス、まさかまた実験してるわけじゃないよな?」
「そ、そんなことしてないです〜〜」
最近お気に入りの子リスの鳴き声が聞こえて、フェリクスは生徒会室の扉を押した。
「随分と愉快な声が聞こえると思ったら……二人で何をしているんだい?」
いじめっ子代表エリオットと餌食になってしまった子リスがえぐえぐと泣いている。
向かい合わせに手を突き合わせたまま。
「ノートン嬢、じゃんけんは強いのに、あっちむいてホイが絶望的に弱いんだよ」
じゃんけんもあっちむいてホイもモニカであれば確率を割り出すことは容易いだろう。
相手がエリオットであれば、尚のこと。
ではなぜ勝率に差があるのかと言えば、それはモニカがとてつもなく人見知りだからに他ならない。相手の表情を見ながらの勝負は彼女には分が悪い。
「エリオット、虐めるのもほどほどに」
「勘弁してくれ。虐められてるのは俺のほうだぜ。いつまで経っても勝負の決着がつかないんだから」
やれやれと肩を竦めて、エリオットはソファに沈んだ。
その隣に腰を下ろして、モニカにあげようと思っていたお茶菓子を取り出す。
「可哀想に、ほらモニカこれをお食べ」
「ふぇ?」
ほらほらとクッキーを手にとって渡せば、モニカは戸惑いつつももぐもぐ。
そして、エリオットも当然の如くすすめたわけでもないのにもぐもぐ。
「まったく生徒会長様はお優しいことですね。ちょっと甘すぎるくらいだ」
彼の含みのある言葉に心の中では「君のほうこそ、随分柔らかくなったじゃないか」と悪態をつきながら微笑みを返す。
「まあね。何と言っても彼女は期待の会計係だ」
僕とエリオットの間に流れる妙な空気感に、モニカは不安そうな顔を浮かべている。
それにしても、随分二人は仲良くなったものだ。
最初の頃はあんなにエリオットも刺々しかったのに、やっぱり選択授業の影響もあるだろうな。本当なら彼女は魔術に興味を持って、僕とこっそりそんな話を楽しむ仲になっていたかもしれないのに……エリオットは本当に狡い奴だ。
「ねぇモニカ、僕とも勝負してくれる?」
彼女を困らせたいわけではないはずだけど、こう見えて僕も負けず嫌いなところもある。
それこそ張り合う相手が彼となれば。
「い、いや……でもあの……」
何といえば断れるのだろうかと顔に書いてあるモニカを見ながら、フェリクスは有無を言わさずもう一枚彼女にクッキーを渡した。