サイウィ日常/本編軸 シリル部屋の中がぼんやりと暗い。
明かりを調整するべく、シリルはゆっくりと書物から顔を上げる。
ほんの少しのつもりが随分と集中していたようで、窓の外はもうすっかり夜が訪れていた。
今日はここまでにすることにし、栞を挟むと本を閉じる。
生徒会副会長という肩書きに誇らしく、無遅刻無欠席は当たり前、ならば体調管理も万全でなくてはならない。
日中は縛っている髪を解く。
滑らかな髪は絡まることもなければ跡も付かず、さらさらとたゆたう。
ふと鏡に映る自分を見て、歳をとればとるほど自分は父に似ていくのだろうか、そんなことを考えた。
シリルはそれを喜んでいいのか、いけないのか、複雑な気持ちで目を逸らし、バスルームへ。
軽いシャワーを済ませ、ベッドに腰をかけた。
そして、サイドテーブルに置かれた手記に今日あった出来事を書き留める。
それは日課であり、次にお母様に手紙を送る為の材料になる。
未だ返事が来たことはないけれど、それでも受け取ってもらえているだけで、シリルは満足していた。
だが、手紙をいざしたためようとすると、まるで報告書のように長たらしくなってしまい、送ることに躊躇してしまうことも多く、机の中には出せなかった手紙がいくつも入っている。
何度も書き直して推敲して、実際に送られた手紙は僅か。
でも毎回手紙の終わりには必ず決まってこう書いている。
「貴女の息子より」
こう書くことがシリルにとって何よりも大切な意味を持っている。
シリルはこれから先も、ハイオーン侯爵の養子であるが故、貴族であり続けなくてはならない。
けれども、自分の本質は何も変わらないし、貴女の息子で居続けたいのだということをお母様にだけは分かっていて欲しかった。
ペンを握る手に力が入り、シリルは手記を閉じベッドに横たわった。
そして灯りを消して、手紙について考えながらゆっくりと瞼を閉じる。
うとうとと微睡みの中で今日見た光景、ハワード書記にからかわれ慌てふためくノートン会計が過ぎり、シリルはくすりと笑った。
あぁそうだ、次は新しく入った生徒会メンバーの話を書いてみようか、そう思いながら心地よい眠りに落ちていった。