出会いの朝 まずい、乗り遅れたくない。必死に走って駅へ向かった。が、それがよくなかったらしい。
「……やべ」
定期が無い。鞄に引っ掛けておいた筈の定期は、今は何処にも見えない。これは、確実に落とした。仕方無く戻ろうと踵を返すと、すぐ後ろに人が居ることに気付いた。
「あっ、あの!」
これ!と差し出されたのは、定期。
「あっ」
やはり落としていたらしく、拾ってくれたのだろう彼も少し息が上がっている。わざわざ走ってくれたのだろうか?悪いことをしたな…。
「ごめん、ありがとう。助かった」
「いえ、どういたしまして」
何かお礼にならないか、と鞄を探ろうとしたけれど、そこで電車が見えて慌てて改札を通った。
「君もこの電車?」
「あ、はいそうです」
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