あの人の話 柔らかな日差しが降り注ぐアーモロートの街並み。今日も穏やかで美しい一日が始まる。生垣の花から朝露が溢れるのに笑みを浮かべてペルセポネはアナイダ・アカデミアへの街路を歩いていた。養父でありアーモロート、そして星を取りまとめる十四人委員会の第十四の座アゼムの助手として海の向こうにある大森林の調査へと赴いていた彼女はアゼムと共に本日早朝にアーモロートへと帰郷したところである。そのまま帰宅をしても良かったがアゼムが議長への報告を先にしてしまうと言うので自身もアカデミアの教授へと報告をしようと大きな荷物を片手に歩みを進めていた。
アーモロートの人々は見た目からの個性というものは好まれてはいない。皆が同じローブに仮面をつけて個人の見た目や服への趣向等は重要とはされない場所である。そのためアーモロートには衣服を取り扱う店舗というものは存在せず、各々が自身の創造魔法を使いローブを繕う。
しかしながら衣類に関するイデアは管理局にて豊富に保存をされている。衣服には風土や歴史が反映されるが故にイデアとしては大切に保管されるものなのだ。
ペルセポネは正直なところ、皆が同じ衣服と仮面をつけるアーモロートの常識はあまり好みではなかった。人々はお互いのエーテルを感じる事ができるため、お互いを識別する見た目からの個性を必要とはしなくなった。だがどこかそれは考える事を、お互いをより知ろうとする事を放棄させられるようなそんな気持ちになる。そうペルセポネは感じるのだ。
ペルセポネはこの街で生まれた訳ではなく、幼少期に当代アゼムを後見人とし、アーモロート市民として新しく登録された外からの人である。彼女は小さい人の頃、アーモロートから海を越えた大陸の街で暮らしていたが突然訪れた災害によって街は崩壊した。彼女は唯一アゼムによって助けられた街の生き残りだった。