無『この手帳を私以外の誰かが見ていたら、私は死んでいると思います。ここに私の願いを記すのでできれば叶えて下さい。私の遺体は悪用されないように骨も灰も残さないでください。どうか、お願いします。』
その手帳は、彼女の願いで始まっていた。
カイロスで全ての記憶を消し去って、自分の使い魔という事にした一人の少女。ひっそりと彼女の荷物を部屋から運び、中身を開いたところだった。中には見たことのない木や石、植物、果物、系、布と凄まじいものであの小さな身体でよくこれだけのを運んでいたものだと感心する。そうしてその中に、一冊の使い込まれた革の手帳が出てきたのだった。
『ミコッテ族 ムーンキーパー 第六星暦1566年生
コレー・ポラリ
第七霊災にて父母は死亡。採掘ギルドと錬金術師ギルド所属。綺麗な石を掘るのが好き。』
『園芸を学びたいと思ったのでグリダニアへ向かう。その際、黒衣森に潜んでいた帝国兵を発見。鬼哭隊に報告をするも追われてそれなりの怪我をした。幸いにも森に住むエレゼンの老婦人に助けられ、命を救われる。』
『天気が良かったのでモグモグホームへ行く。大好きな黒チョコボと空を飛び、フレースヴェルグの眷属達と話をした。イゼルに会いたいな。』
『今日は木人で赤魔法の練習をした。デプラスマンをしたら段差から落ちた。痛かった。』
『イシュガルドに用があったので帰りに中央高地に会いに行った。フランセルも同じ時にきたので二人で花を贈る。いつまでも大好きだよ。』
『第一世界に用があったのでクリスタリウムに行った。リーンとガイアがイチャイチャしていたので笑顔になった。アーモロートにも行ってみた。まだ消えていない。安心した。』
沢山の人の名前に場所、お気に入りのもの、彼女の感情。誰かに教えてもらった料理の材料。他愛もない会話。失敗した事、嬉しかった事、悲しかった事。
手帳を捲る手が震える。そこには彼女の歩んだ道が記されていた。自分が消し去った彼女の命の記憶が書いてある。わかっていた。わかっていたのに、なぜ震える。罪悪感など持つ資格もないのに。自分本位な思いで奪った癖に、ふざけるな。浅ましい。そうまでしてでも庇護下において生きていて欲しいと願ったのは自分だろう。彼女は自分がどこから来たのか、何も話してくれる事はなかった。だから彼女がどんな道を歩んだのか何も知らない。沢山の知らない彼女の記憶がここには残っていて。けれどもそれは、自分が。