イミテーション・パンドラピトス①【プロローグ】
これは、もしかしたらあったかもしれない残像。
ありえたかもしれない、ひとつの手違い。
空間が断裂するのを防ぐ寸前、メフィストはあるひとつの可能性を見てしまった。
それは遠い世界で棄却されたはずの獣の兆し。番外編の再演。
虚数事象として無かったことになったはずのビーストXが、2年後の世界に再度の顕現を果たした瞬間の光景だった。
「いったい、どういうことだ」と焦ったのも束の間。空間は完全に閉じ、辺りは静寂に包まれる。
だが、先ほど見た可能性は無かったことにはできない。2年後の世界にビーストXが顕現するのは、避けようの無い決定事項と化したのだ。
信じられない光景だった。いいや、信じたくない最悪の展開だった。特定の条件下でしか顕れないはずのビーストXがいたのもそうだが、メフィストにとっては「決してありえない」人物がビーストXの側に立っていたのが致命的だった。
「なぜ、貴方がビーストXの配下にいるのですか──」
震える声で、なんとか絞り出した声。それを使ってその人物の名を読み上げようとした瞬間、メフィストの視界の端に何かが高速で落下して行くのが見えた。
流星のように虚空(ソラ)を駆け抜けるそれは、メフィストが閉じた空間の断裂を突き抜けて、あっという間に消えて行ったが……
見覚えの無い衣装を身に纏ったその人影が飲み込まれる寸前に、胸元に光っていたあの紋章は。
「すみません、フェレス卿。たいへん申し訳がないのですが、少々ばかり緊急事態が発生しまして……」
と、そのとき。唖然とするメフィストの背後から声をかけてきた人物がいた。それはメフィストにとって、嫌になるほど聞き覚えのある声であり……現時点で、ある意味もっとも会いたかった人物。
いったい、何がどうなっているのか。魔神の肚の中、メフィストはその人物と対峙して説明を求めるのだった。