【弟子バロ】優等生ほどSMにハマる(前編) 馬を降りようとした巨体が傾いたのを、亜双義の目は見逃さなかった。
支える力を失った胴体が宙に放り出され、突っ張ったあぶみが足から外れる。
認識と同時に本能が警鐘を鳴らし、亜双義は地面を蹴って手を伸ばした。
「どわっ!」
間一髪だった。
分厚い肉体と地面の間に滑り込むようにして、鍛えた筋肉でなんとか受け止めた。頭部や頸椎の損傷を回避したのを確かめ、長い息を吐く。
「いったいどうしたというのですか。馬には慣れてい――」
ぐったりとしたバンジークス卿を抱えて顔を覗き込み、はっと息を呑む。
顔が赤く、頬に触れれば燃えるような熱が伝わってくる。
「はにゃ……」
「だから涼しい格好にしろと言ったのに!」
八月末、遅れてきた夏の盛り。平年とは異なる記録的な猛暑である。
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